決着、アシュラゴーレム

「よし、ゼファー。取り敢えず俺たちは背後から攻撃するぞ」

「よーし! おいらに任せとけー!」


 アシュラゴーレムのレーザーと拳に気をつけながら3つの顔の一つへと向かっていく。グレイは、また別の顔の方に張り付いている。ちゃんとレーザーと拳は避けきりながら、時折爪でゴーレム核に攻撃を入れていた。まぁ、この中で一番AGIが高いのだから出来て当然だろう。流石グレイだ。


 レーザーの照射は体感でおよそ10秒。その後30秒ほどの休憩を取ってから再度照射される感じだ。レーザー自体は一直線なので、発射前に軌道が固定された際に横に逃げればいい。照射範囲自体はプレイヤーひとり分くらいなのでそこまで広くはない。


 対して拳の方はプレイヤーがある程度まで接近するとそのプレイヤーの頭上に張り付くように移動するようになり、これも約30秒の間隔で叩きつけるように拳が落ちてくる。落ちるのにだいたい5秒、戻るのにまた5秒といった感じか。落ちたときに衝撃波が広がるため、単純に横に移動するだけでは衝撃波によってダメージと共にスタン状態をうけることとなる。幸いその範囲もそこまで広くはないのである程度移動すれば問題はないだろう。


 レーザーと拳の攻撃自体は、基本的には同時にならないようになっている。それはレーザーで自分の拳を攻撃しないようにするためなのだろうが、ある程度接近すると拳は両の手分があるため、拳の攻撃感覚が30秒から15秒になる。そうなると、たまに当たりそうになっているのだが、まぁそこはご愛嬌といったところか。


 とはいえ、この程度なら俺なら避けるのは簡単だ。ゼファーの隠しダンジョンのアスレチックの方がまだ理不尽さの方では高いだろう。まぁ、あっちは死にはしないのだが。


 そしてゼファーは小さすぎてなのか、攻撃対象になっていない。一応、『狙われにくい』というのは小型モンスターの特徴ではあるのだが、ゼファーを小型モンスターと位置づけていいものなのかは俺には分からない。


「いけー! 『天嵐の息吹』!」


 ゼファーがゴーレム核に向けて天嵐の息吹を発動すると、核を庇うように拳が動く。どうやら直接攻撃するタイプ以外はこうやって庇うようだ。


 天嵐の息吹に押され、弾け飛んだ拳。壊れこそしていないものの、かなりダメージが入ったのか多少ヒビが入っている。やはり、破壊可能なオブジェクトになるようだ。


 それならばアシュラゴーレムの攻撃を掻い潜りながら攻撃し続ければ破壊できるかもしれない。


「ゼファー! 『モンスターエンハンス・インテリジェンス』! MPを切らさないよう、精霊術を撃ちまくれ!」

「分かった! 『乱風の鎌鼬』! 『緑風の大弾丸』!」


 6階層のフロアボスを倒した際にジョブレベルが上がったことで習得した3つ目のモンスターエンハンス。インテリジェンスはINTの値を引き上げてくれる。これでようやくゼファーやミュアに使うことができるエンハンススキルを獲得できた。


 そのモンスターエンハンスをかけたことで力が漲ったのか、ガンガン精霊術を使いまくるゼファー。MP切れには気をつけろと言ったが、聞こえてなさそうだなこれは。


 ゼファーの攻撃を拳で受け止めるアシュラゴーレムだったが、かなりのダメージが蓄積されたのだろう。そろそろ強い衝撃を与えれば壊れそうだ。だが、ゼファーの精霊術ではヒビは入るが壊れる気配はない。もしかしたら物理攻撃を与えないと壊れないのかもしれない。


 物理攻撃の場合は防ぐ動作がないのは、グレイやハルの攻撃で確認済みだ。まぁその場合は直接攻撃してくるのでなおのこと厄介なのだが。


「よし、ゼファー! 一旦下がれ!」

「りょーかい!」


 レーザーの照射を避けたタイミングでゼファーを下がらせると、拳は再び上空に舞い戻り俺の頭上に固定される。


 俺は魔杖を装備すると、上空を見据える。レーザーの照射は先程終わったので、このタイミングならばあと数秒後に落下する筈だ。


 そのタイミングで移動し、地面に落下する前に『強力杖殴り』で叩きつければ壊れる……かもしれない。


 失敗すれば衝撃波でスタン状態になってレーザーが照射されて終了となるため、一か八かの賭けとなる。


「よし、行くぞ……3、2、1……今だ!」


 横に移動して『強力杖殴り』の構えを取る。そして『横薙ぎ』と共に『強力杖殴り』を使用する。タイミングは多少ズレたが、それでも魔杖の先端は拳を捉える。


 ――ガギイイイイイ!!


 硬いもの同士がぶつかり合うような金切り音が響く。魔杖を持っていた手に凄まじい痺れが襲いかかり、思わず魔杖を落としそうになるが、そのまま振り抜くことができた。


 目の前のアシュラゴーレムの拳は粉々に砕けていた。


「くっそいてぇ……これ、壊したのは失敗だったかな……」


 敵の拳を砕いたのはいいが、衝撃が酷すぎてしばらくは腕が使えそうにない。オマケにかなりダメージを食らっている。変なことはやっちゃダメだなやっぱり。


 ミュアが牽制で放っていた矢が、気付けばかなり強力なアーツへと変化していたので、なんとか追撃を受けることなくアシュラゴーレムの眼前から離脱でき、ミュアの元に来たところでゼファーが『ヒールストーム』をかけてくれた。


「バカか相棒! 変な無茶しやがって!」

「うっ……済まないゼファー……」

「まったく……」


 取り敢えず、しばらくは攻撃することができない。構えられないから精霊術も使えないだろう。


 グレイとハルは疲労感が見えてきたようで、少しずつ動きが悪くなっている。


 ミュアも俺の離脱の際に無茶をしたため、ヘイトを集めてしまい集中攻撃を受けている。俺たちも一緒に何とか避けているが、そろそろ厳しいかもしれない。


 そんなとき、背後の上空から炸裂音が響く。弩弓アーツの一つである『バスターショット』が放たれ、空中で炸裂した音である。


 確かに合図をしろと言ったが、まさかアーツを使うとはな……。てっきりフレンドコールなり使うのかと思っていたが。


 その音が聞こえた瞬間、グレイはハルの方へと向かうと、そのまま捕まえてアシュラゴーレムから離脱する。俺たちもシグねぇがいる場所とアシュラゴーレムとの導線から離脱する。


 敵を見失ったアシュラゴーレムだったが、そんな敵の眼前には12個の魔法陣を背後に出現させた大魔導士ウィザードの姿があった。


「おまたせ……終わらせるわ。『疾き旋風よ、深淵の虚無と共に弾け飛べ――』」


 シグねぇは杖を掲げると、前口上たる詠唱を唱え始める。これは『多重詠唱』による詠唱とは違い、大魔導士のジョブ特性によるものであり、本来の魔術スキルで唱えることとなる詠唱である。


 疾き旋風は風属性の属性付与となる。


「『――ウィンド・エクスプロード』!!」


 シグねぇがそのスキルを唱えた瞬間、すべての魔法陣が光り輝き、それらの中心にブラックホールのような渦が巻き上がると、次の瞬間には風の渦が巨大な塊となった、丸い玉が出現する。


 なんと言うか、込められている魔力というのかマナというのか、それらの濃度が明らかに普通のスキルとは違う。それこそ俺たちの最強スキルたる『緑精の大旋風』なんて目じゃないレベルだ。


 まるで溢れんばかりの力を無理やり押し固めたかのような荒々しい雰囲気が、離れていても感じ取れる。気付けば周りに凄まじい突風が吹き荒れていた。


 そして、更に次の瞬間にはその塊はアシュラゴーレムの元へ放たれ、そのまま嵐が凝縮されたかのような衝撃が、離れていた俺たちの元まで届いてくる。風により切り刻まれ、そしてエクスプロードのスキル効果によるものなのか、瞬く間に圧縮されていくアシュラゴーレム。そのまた更に次の瞬間には小さくなって消えることとなった。


 成程、確かにこんな威力であれば一撃でトドメを刺すことは可能だろうな……。いや、流石にチートすぎるだろこれは。


 ふと横を見れば呆気にとられているゼファーとミュアの姿があった。まぁ分かる。あれは規格外だよな……。


 大魔導士はかなり習得条件が難しいとは聞いていたが、もしかしたらシグねぇが嘘をついていて、本当はユニークジョブなのかもしれない。そうでなければこんな規格外の威力とかありえないだろう。まぁ、普通にクラス3ジョブで間違いないのだが。


 実際のところ、ここまでの火力を出すのに費やした時間や動けなかったことを加味すると、全く動かないボスの射程圏外で唱えていたから出来たことで、こんなものを動く敵に使う余裕はないだろうし、もし対人戦があるとして多重詠唱中を狙わないやつは居ないだろう。


 まぁ、所詮はロマン火力という話である。




 ――――――――――――

(8/16)昨日時点で『3人よればなんとやら』においてリーサの初期アビリティの一つである【魔力操作】の効果を『術式スキルのMPの消費を抑える』から『スキルを始めとしたMPを消費する行動のMP消費量を少し抑える』に変更しています。

 これは、フィーネを動かすためのMP消費は術式スキルでの消費ではないのにも関わらず、同アビリティでその消費が軽減できているという描写の矛盾点を解消するための変更となります。ご了承ください。

 また『10階層へ』で出てきたシグのアビリティの一つをMPセーブからMPセーブ(魔術)に修正しました。ユークの持つMPセーブ(精霊術)と同系列のアビリティとなります。

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