VSアシュラゴーレム

 『姿隠し』を用いて先陣を切った俺が目にしたフロアボスの名前は『アシュラゴーレム』であった。まぁ、六本の腕を持って、3方向に顔があれば確かに阿修羅だよな……。形は完全にゴーレムだけども。気になるレベルは32となっている。


 弱点であろうゴーレム核は六本の腕のうち、対になる二本の間の胸の辺りになる場所に3つも存在している。セラミック・ゴーレムのものに比べるとだいぶ小さめだが、ギリギリ飛び上がってから魔杖を使えば叩けるくらいの位置にはある。これら全てが弱点なのか、それともこの中から一つだけが弱点なのかは分からない。


 取り敢えず『姿隠し』の状態でまだ気付かれていない為、ゴーレム核の中の一つにアサルトアタックを試してみよう。魔杖を構えて入り口から真正面にあるゴーレム核に目掛けて、魔杖を叩きつける。

 アサルトアタックの効果は確かに出ていたが、そのダメージ量は思ったより少ない。


 ダメージを受けたことで動き出したアシュラゴーレム。ゴーレム核が眩く光ると、3つの顔全てが雄叫びを上げる。案の定のダメージ付きの咆哮であったが、【緑の息吹】が弾けて難を逃れる。


 グッと動き出したところで俺はアシュラゴーレムから離脱し、変わってハルがグレイに跨って飛び出した。あれ、最初から乗っていくの? 俺もまだ乗ってないのに!


「行くぞぉ、グレ公!」

「ガゥア!〔変な名で呼ぶな小娘!〕」


 グレイを愛称で呼ぶハルに、それを良しとしないグレイ。なんと言うか、思いっきり嫌悪感を顕にされているな、ハル……。


 まぁ、悪態をつきながらも無理やり振り落とさない辺りはパーティーメンバーとして認めてはいるのだろうか。もしくは、振り落としたら俺が怒ると分かっているのか。……まぁ、いざというときは乗せるように、と命令自体はしていたのでそれを律儀に守っているだけなのかもしれない。


 ハルはサブ武器の蛮族の戦棍を装備している。取り回しやすく、その上ダメージが乗りやすいのが戦棍の特徴で、単純な火力ならおそらく全武器種の中でトップクラスのはずだ。ただし、その分STR以外のステータスに悪影響を与えたりする。ハルの装備しているものはDEX値にマイナスがあるため、打撃武器の売りであるクリティカルの出易さに少し陰りがある。まぁ、元々の火力が高いので問題はないだろう。


 因みにメイン武器とサブ武器とで設定されているステータス効果は基本的にどちらを装備していても全体のステータス値に反映されるが、実際に攻撃する場合はその武器の持つ攻撃系のステータス効果の全体のステータス値における割合によってダメージ値が算出されているらしい。


 詳しい計算式は明らかにはなっていないが、単純にSTR+20とSTR+40の武器では後者の方がダメージを多く与えられるということになる。


 また、メイン武器の場合にはメイン武器補正というものがあるらしく、詳しい数値はβテスト時と変更されたようだが、とにかく多少はダメージ量が上がるらしい。サブ武器の場合は補正なしとなる。


 とはいえ、得意武器補正と同様で誤差の範囲内にしても問題はないレベルの補正らしいので、基本的には好きな方に好きな武器を装備しておけばいいだろう。まぁ、基本的には武器を持っていない状態で戦闘に入った際にはメイン武器の方が装備されるため、使いやすい方をメイン武器に装備しておけばいいだろう。補正もかかるし。


 ミュアとユキが矢と弩弓で牽制をしている最中、矢の中を掻い潜りながらグレイに跨ったハルはアシュラゴーレムに攻撃を仕掛けるが、当然のごとく効果は薄い。


 アシュラゴーレムの3方向ある顔のうちの一つが動き出し、グレイ目掛けて攻撃を繰り出そうとしている。その際に光っているゴーレム核は別の顔がある方の核だ。どうやら光っている核を攻撃しないと意味がないらしい。


「ハル! グレイ! 光ってる核を狙え! ミュアは核を狙うグレイたちをサポートして牽制を頼む! ユキも別角度から牽制をしてくれ!」


 俺は咄嗟に指揮を飛ばす。本来ならこのパーティーのリーダー扱いのシグねぇがしたほうがいいだろうが、シグねぇは後方待機なので状況が見えづらいというのもある。


 まぁ、わざわざシグねぇまで伝令するよりは俺が指揮したほうが手っ取り早い。ハルとユキはともかく、グレイとミュアは色々あって俺の指示じゃないと多分聞いてくれないだろうし。


「りょーかい! 頼むぞグレ公!」

「ガォン……〔主殿の命だから、仕方なく付き合ってやるぞ〕」


 再三言うが、【テレパス】の効果で俺しかグレイの話している内容は分からない。だから、ハルはグレイの感情に気づいてないのだが……雰囲気で分かりそうな気もしなくないが、本人がかなり鈍感な方なので仕方ないだろう。俺も人のことは言えない。


「了解です、ユークさん! できればゼファー様をこちらに! アーツをなるべく多く撃ちます!」

「まぁ、シグねぇのアレが決まればゼファーの火力はぶっちゃけ必要としないだろうし、いざというときにミュアをゼファーの精霊術で守れるか。……よし、ゼファー頼むぞ!」

「えぇー……あんまり、あいつと一緒には居たくないけど、相棒の指示なら仕方ないぞ……」


 未だに苦手感が抜けきらないゼファーであったが、精霊が近くにいれば行動ゲージの回復が早くなるので居てくれるだけで助かるのだ。おそらくミュアもそれ以外の意味はないはずだ。


 ゼファーと入れ替わりでシグねぇの元に行く。現在、アシュラゴーレムの周囲をグレイに乗ったハルが駆け回り、右後方にミュアとゼファー、左後方にユキがいる。そしてシグねぇは更に後方で魔術スキルの発動の準備を行っている。


 何を行っているのかというと、詠唱を重ねる事で爆発的な威力を最期に発動する魔術スキルに与えるという、大魔導士のジョブアーツ『多重詠唱』である。現在、4節目まで詠唱完了している。


 実のところこれを行っているから指揮ができないというのもある。


 唱える詠唱の長さで込められる威力が変わるというが、戦闘前に聞いた話ではだいたい12節まで唱えれば自分のレベル以上の敵を一気に削れるらしい。眉唾ものではあるが、1節唱えるのに1分以上かかるらしいので、12節ともなるとかなりの間、無防備になる。因みに何を唱えているのかは本人にもよく分からないらしい。謎言語が自然と頭に浮かぶのだとか。不思議だ。


 危ないときは自分の意志で中断はできるものの、中断した状態ではアーツの効果を発動できない上に、その節は最初から唱え直す必要がある。


 だからこそ、ハルもグレイもミュアもユキもシグねぇに攻撃がいかないようにするための牽制となっている。まぁ、一応は正攻法でダメージを与えようとはしているのだが。


 グレイに乗ったハルが戦棍で光っているゴーレム核を攻撃したところ、それまで細かすぎて減っていることが視認できないレベルのゲージ減少だったのが、ようやく目に見えて減ったことが分かるレベルの減少量となった。とはいえ、それでもまだほとんど削れていない。いや、硬すぎるなこれは。


 取り敢えずシグねぇの方は、まだしばらくかかるだろうから俺も精霊術でダメージを与えることにしよう。


 ――――――――――

(8/14)昨日付で『強敵』のページで一部追記しました。詳しくはページ最後の追記部分を確認ください。

 こういうゲームでは、システムや仕様が完璧であるということはほとんどなくて、人が運営している以上は少なからずバグや運営の至らぬところはあるものだろうと思っているので、そういう点も描写していきます。そういった点が不愉快に思うかもしれませんが、ご理解いただければと思います。

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