料理クエスト

「ん~~~! いい天気ね!」

「……リリー、おはよう」

「おはようございます、お嬢様!」


 8時を過ぎたのか、他のメンバーもログインしてきて次々と簡易テントから出てくる。


 簡易テントは一度きりなので、全員出てくるとそのまま消滅するので片付けは不要だ。レンが出てきてから俺たちが使っていたテントは『ポンッ』と音を立ててから消えた。


「お、おはようございます……」


 そして最後に依頼人のメリッサがミュアとゼファーを連れ立って、自身のテントから表に出てくるが、何だかあまり元気がない様子だ。


 聞けば、どうやら昨日のあれこれですごくお腹が空いてしまっているらしい。なるほど 、これが空腹状態か……。


 現状、このゲームでは空腹度は実装されていないが、今度のメンテナンスで実装予定らしいことが昨日の夜に公式サイトに追加されていた。今後は俺たちも空腹にも注意しながら行動する必要があるのだが、その空腹状態をこうして前もって見れたのは、良かったと取るべきなのか……。


〈緊急クエスト『空腹の依頼主を満足させろ』が発生しました。このクエストに成功すると、依頼完了時の特別報酬がランクアップします〉


 おっと、ここでも緊急クエストか。結構忙しないなこのイベント。


 さて、クエストの内容としては、依頼主であるメリッサを満足させる料理を出すというものになる。


 ここでいう『料理』とは、生産技能アビリティである【調理】持ちや調理士クッカーなどのジョブについたプレイヤーが作った料理アイテムのことになるが、実はアビリティとかが無くてもちゃんと工程通りに作れば料理アイテムは作れる。因みに前者の場合だと、アビリティなどの効果で料理にバフが付いてたりするので一応差別化はされている。


 おそらくだが、メンバーに【調理】を習得していたリリーがいた事で派生したクエストだろう。


 まだその報酬が明らかになっていないのでなんとも言えないのだが、何にせよランクアップするのであれば、その方がいいに決まってる。


「リリー、料理はここでもできるか?」

「はい! 調理キットはを購入してますから、ここでもフルコースが作れますよ! まぁ、それは流石に材料が足りませんが。――えっと、後はお手伝いしてくださる方が居てくれると助かるのですが……」

「じゃあ、私がやるわ! これでも喫茶店で料理を出してるからね!」

「俺も料理は普通に作れるから手を貸すよ」

「ありがとう、リーサ! ユークさん! よろしく頼むね!」


 料理に関してはアビリティ関係なしで問題なければ、俺もリーサもリアルでそこそこ作れると自負しているので手伝うことになった。


 サザンカさんは一人暮しではあるもののほぼ自炊しない方なのでパスをして、レンは家族が基本的に作るので無理といい、ナサは家柄的にそういうのは人にやってもらう方だろうから最初から除外、ということでこういうメンツになった。


 ミュアやゼファーは俺が料理を作る方に回ったことに驚きを隠せない様子だった。まぁ、こっちでは作らないからその反応も仕方ないか。


「取り敢えず簡単に作れるもので、今ある食材からウサギ肉のスパイス煮にしましょう。私はスパイスの調合とスープの準備をしますので、ユークさんはホーンラビットのお肉を捌いてもらって、リーサには野菜を切ってもらいましょう。お願いします!」

「ああ、任せてくれ」

「オッケー! 野菜はニンジンと玉ねぎ……ゲームの中も野菜は同じなのね」


 リリーが展開した超高級調理キット――というよりも屋外で使用可能な立派なシステムキッチン――が展開されて俺たちはそこで調理を開始する。


 ……リリーはどこでこれを入手したんだろうか。クラス3ジョブの一流料理人トライスターシェフでもこういうのは持ってなさそうなんだが。


 調理の最中で聞けば、はじまりの街でかなり高額で売られていたのを、リアルマネーも駆使して購入したのだとか。俺はその値段を聞いて、自分のギルド口座の金額を思い出したが、それでも桁が足りない。


 ナサに手料理を振る舞うなら、この規模のものは絶対必要だということで割と初期の頃に購入していたらしい。


 リリーの金銭感覚がよく分からないが、知り合いがこのゲームで破産しないことだけは切に願いたいところだ。


 そんなこんなで俺たちは分担して作業したのだが、その結果かなり速く調理することができ、また調理キットの追加効果で時短調理が可能だったのか、煮込みの時間もかなり短かった。


 こうしてリリー主導で、俺とリーサが手を貸して作った、俺たちの中では初となる料理アイテム『ホーンラビットのスパイシー煮込み(☆6)』があっという間に完成する。料理アイテムとしては割と高めのランクなので、味の方はおそらく問題はないだろう。


 現時点ではシステム的に食事を必要とはしていないが、俺たちもこのスパイスのいい匂いを嗅ぐと食欲が唆られてくる。カレーほどじゃないけど、やるこういうスパイシーな香りは堪らないな。


 今すぐにでも食べたいが、まずはメリッサに食べてもらうのが先だ。


「…………それではいただきます」


 メリッサはよく煮られたウサギ肉をフォークで崩し、そして一欠片を頬張る。


 メリッサはおそらくは元々貴族かそれに近い位置にいる人物のはず。その彼女が果たして冒険者が作った料理に満足するのか……。


「お……」

「「お?」」


 メリッサがもらした言葉にリリーとリーサが復唱する。


「おいしいですわぁ〜! なんですの、このホーンラビットのホロホロ具合に絶妙なスパイス加減! お野菜もホクホクで堪りませんわぁ〜!」


 口調が完全にお嬢様口調になってしまっているが、これが本来のメリッサの口調なのだろうか。


 何にせよ、元貴族(推定)のメリッサを満足させるなんて、中々やるなリリー。俺もアビリティを使わない調理キットでも探してみようかな……。


〈緊急クエスト『空腹の依頼主を満足させろ』を大成功でクリアしました。依頼完了時の特別報酬が大幅ランクアップします〉


 取り敢えず、緊急クエストはクリアとなったのを確認したので、俺たちもそのスパイシー煮込みを食べることになった。


 結果、食した全員から称賛の声が上がることとなり、安堵の表情を浮かべるリリーであった。


 ……うん、スパイスが良く効いてる!




 ――――――――――――


 ここで突然ですが、お知らせです!


 日付が変わって10/1に新しい作品を投稿します!

 現代ファンタジーもので、突如日本にダンジョンが出来てから十数年後、そのダンジョンが出来た年に生まれた子供たちが迷宮探索を行うという作品になります。

 気になったという方は、是非とも読んでいただけると助かります!


 取り敢えず新作は公開しますが、アルターテイルズの毎日更新の方はもうしばらく頑張るつもりです。目指せバトルロイヤル! ……ただ、ホントに無理なときは別途お知らせします。

 なお、新作に関しては現在ある程度書きまとめているので、しばらく毎日投稿できるとは思いますが、そのページまで公開した後は不定期更新になると思いますので、その点はご理解いただけると助かります。

 それでは、興味のある方は今夜0時をお楽しみに!

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