強化の確認
翌日、予定の8時より少し早めにログインした俺は、ログインしたことを察知したグレイから夜中には特に何も起きなかったということを説明された。
ゲームがリアルタイムで進行している以上、夜中であろうと何かが起きてしまってもおかしくはないからな。
結果的には何もなかったので取り越し苦労だったのだが。
この依頼、おそらく本来なら交代でログアウトして、ずっと依頼主を見張っておく必要のある依頼内容なのだろう。そう考えると、この依頼が残っていたのも分かるというものである。
俺たちの場合、俺の優秀な従魔が居たのでそのログアウト問題は解決されたも同然だ。いざというときはグレイが彼女を逃してくれる算段になっていたからな。
レンの姿がないが、外にもいないということはまだログインしてもいないのだろう。こういう宿泊系のログアウトでアバターはどうなっているのだろうと思ったが、どうやらしばらく経つと消えるらしいな。
「さて、まだみんなログインしてなさそうだし、ミュアやゼファーも起きてこないから、取り敢えず昨日の戦闘でゼファーたちが獲得してたアビリティを確認するか」
そう言って俺は簡易テントから出ると、砦の近くにある木の下に座り、ステータス画面からゼファーたちのものを確認していく。
ゼファーは今まで全くと言っていいほど使ってなかった【木工術】を犠牲にして【風の声】のアビリティを習得することとなり、新たに『盾剥がし』のアーツを習得した。
『盾剥がし』自体は、 目の前にいる相手が持つ武器を風を起こして弾き飛ばすというアーツだ。
アーツ名に盾とは書いてあるものの、対象は武器なので剣だろうと槍だろうと関係なく弾き飛ばすことができる。
ただし、発動するには敵の目の前にいる必要があるので、ゼファーの場合その隙を狙われて、攻撃されてしまう可能性があるので使い所は考えないといけない。
【風の声】のアビリティについては、戦闘フィールドが屋外である場合に反応速度が少し上がるという効果になっている。おそらくは風の声を聞いて敵の攻撃を先読みするみたいなものなのだろう。
ゼファーが自ら考えて攻撃を行うようになれば、かなり有用なアビリティになるだろう。
しかし、いくら使っていないからといって【木工術】を上書きするとは思わなかった。従魔のアビリティ習得の法則については、少し調べる必要がありそうだな。
ミュアは習得可能アビリティが増えたが、どちらもエルフ族の種族アビリティとなる行動アビリティだ。【精霊の歌】は歌を歌うことで契約した精霊によって異なる追加効果をパーティー全体に与えるというもの。【精霊の舞】はそれの舞バージョンとなる。
どちらも強力なバフ効果を味方に与えるものだが、前者は効果発動時に自身がスキル使用不可、後者はアーツ使用不可となる。しかも効果発動時なので、使用不可なのはなんと歌ったり舞ったりしてから、その効果が切れるまでずっとである。完全に後方支援向きのものとなっているので、アタッカーであるミュアには完全に合っていないアビリティであった。
そもそも与える追加効果も精霊によってランダムとなっているので、後方支援でも狙って使うのは中々難しいかもしれない。
それにしても、第二エリアで精霊契約が解禁されることもあって、結構精霊の契約を前提としたスキルを習得するようになったな。これは他のエルフ族プレイヤーも結構強化されているのかもしれないな。
グレイは進化の際に触れなかったレアアビリティについて触れるが、【月歩☆】というアビリティを習得していた。これは移動の際に限り、自身のAGIが2.5倍になるという効果を持つ。要するに移動速度が超速くなるというものだ。
現状、俺と従魔たちだけで行動する際でしか使えなさそうだが、移動速度が上がったのでこのだだっ広い第二エリアでも比較的移動しやすくなったのではないだろうか。
その時、ふと横を見ると土の中からカリュアが顔を出してこちらを見つめていた。
「――おはよう、ますたー」
「あぁ、おはようカリュア。やっぱり喋れるようになったんだな」
「うん。うたごえのおかげ」
俺は喋れるようになったカリュアの頭を撫でると、気持ちよさそうに笑顔を浮かべていた。
カリュアもグレイと同じタイミングでレアアビリティ【歌声☆】を入手していたが、これは単純に歌が歌えるようになるというだけのアビリティで、追加効果とかは特に無い。
βテストの段階で同じアビリティがプレイヤー側にもあったらしいのだが、そっちは歌うときの声を変えることができる
しかし、今回カリュアはその副次効果として、声帯を得ることが出来たようで、こうして挨拶をしにきてくれたのだ。
昨日の時点で喋られるかどうかを確認したかったのだが、昨日は夜も遅くだったため眠かったのか、俺たちのログアウトの前の時点で土の中に潜り込んで眠りについてしまっていた。
まぁ、見た目や話す内容からもまだまだ幼いのだろう。仕方ないな。
称号に関しては俺の場合はゴブリン種に対して1.2倍ダメージの効果のキラー系称号だ。ゴブリン種はコモンゴブリンの名前からも分かるようにレアリティみたいに分類されているためかなり種類が多いので、使える場面は多いだろう。
そしてミュアも新たに称号を獲得していたが、その【悪鬼羅刹の制圧者】の効果が凄まじかった。
ゴブリン種やオーガ種といった鬼系モンスターに該当するモンスターに対して、最終ダメージが1.5倍になるという、キラー系称号を越えた効果を持っていたのだ。
一体何が彼女をそう至らしめたのかと思ったが、一度の集団モンスター戦で討伐した鬼系モンスターの数がパーティー内で最も多く、そして最終的にロード種の鬼系モンスターに最も多くのダメージを与えてとどめを刺したから、が要因だったようだ。つまり、条件を満たしていればミュアではなく俺やレンがこの称号を獲得していたかもしれない。
どうやら昨日出現したコモンゴブリンの半数以上は彼女のアーツやその巻き込みで消滅していたらしい。ゼファーやレンもそこそこ数を減らしていたが、流石にミュアには敵わなかったようだ。
ロード・コモンゴブリン戦では確かに必殺系アーツではないものの精霊弓士が早くに覚える大技である『ルナティックシュート』に『オーバーレイ』を掛け合せているのだから、そりゃそうなるよなという感想である。
しかしこれで、ミュアの場合はゼファーと違い、従魔士の称号の条件には関わらない事が明らかとなったのだが、それが元からなのか、第二エリアに突入してから変更になったのかどうかは、今となっては分からない話だった。
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