呆気ない幕引き、そして一休み

 ロード・コモンゴブリンが咆哮を飛ばす。無論この程度の咆哮にスタン効果などありはしない。


 ミュアが降りて自由になったグレイが、逆に『咆哮』を仕返したところ、その咆哮を聞いてロード・コモンゴブリンは畏怖を覚えたのか、恐怖状態に陥ってしまう。


 恐怖状態だと相手にビビってしまって思ったように力が入らずに動きが遅くなり、ダメージ量が大きく減少してしまう。プレイヤーの場合だと、動作の遅延とダメージ量が通常時の1/3になってしまうというデメリットとして現れる。発生時間は短めなものの、動作の遅延は割と致命的になりかねないので注意したい。


 そういえば、ゴースト系だけじゃなくてこういう『咆哮』みたいな威圧的行動でも、確率で恐怖状態になることを、ロード・コモンゴブリンの様子を見た俺は思い出し、ふと【臆病】なカリュアを探したら、案の定ビビって俺の足にしがみついていた。


 今回はカリュアがグレイを信頼してたからなのか、そもそも味方には作用しないものなのかは分からないが、ビビってはいるものの恐怖状態にはなっていなかった……が、これは少し【臆病】に関しては対策を考える必要があるかもしれないな。


「よし、今のうちに全力攻撃だ! 『スラッシュエッジ・デュアル』!」

「よし、ゼファー、ミュア、グレイ、カリュア! 一気に片付けるぞ! 『従魔激励』! ゼファーには『鼓舞』だ! そして、全員対象で『モンスターエンハンス・バイタリティ』!」


 レンが双剣士のジョブアーツで二つの剣撃を飛ばす攻撃を開始したので、俺は従魔たちにバフをかけて攻撃を開始させる。モンスターエンハンス・バイタリティは相手から攻撃された際の保険だ。


「いっくぞぉ―! 『疾風の刃雷エレクトール・テンペスト』!!」

「――『ルナティックシュート・オーバーレイ』!」

「グオオオオン!!〔おおお! 『ビーストラッシュ』!〕」

「――――!〔たおれて!〕」


 ゼファーの精霊術スキル、ミュアの精霊弓士のジョブアーツ重ねがけ、グレイの獣戦術アーツ、そしてカリュアの『蔦の鞭』がロード・コモンゴブリンに向かって放たれていく。


 レンの放った攻撃と共に全て命中し、ロード・コモンゴブリンはそのまま背中から倒れ込んでしまい――。


「グ、グモオオオ……」


 ――そしてそのまま全く動かなくなってしまった。


 ……おや? これは?


〈戦闘終了。緊急クエスト『コモンゴブリンからの護衛』のクリア条件を達成しました。依頼完了時の特別報酬が追加されました〉

〈魔核【小】×48、小亜鬼の角×29、小亜鬼の肝×18、ボロの棍棒×10、ボロの剣×12、ボロの盾×8、ボロの槍×7、ボロの弓×3、ボロの杖×8、『君臨者の腰蓑』を入手しました〉

〈経験値を獲得しました。レベルが1上がりました。アビリティポイントとステータスポイントが付与されました〉

〈ジョブレベルが上がりました。スキル『モンスターエンハンス・アジリティ』を習得しました〉

〈ゼファーのレベルが上がりました。ミュアのレベルが上がりました。カリュアのレベルが上がりました〉

〈ゼファーが【木工術】を上書きし、新たなアビリティ【風の声】を習得しました。新たなアーツ『盾剥がし』を習得しました〉

〈ミュアの習得可能アビリティに【精霊の歌】【精霊の舞】が追加されました〉

〈グレイがレアアビリティ【月歩☆】を習得しました。進化条件を満たしました〉

〈カリュアがレアアビリティ【歌声☆】を習得しました〉

〈称号【ゴブリンキラー】を獲得しました。特殊使役キャラ:ミュアに称号【悪鬼羅刹の制圧者】が追加されました〉


 流れるように脳裏に響き渡る大量のリザルト結果のアナウンスに少し驚いてしまうが、なんとこれで戦闘終了のようだ。


 ボスとはいえ、流石にコモンゴブリンにこれらの技の総攻撃は耐えきれなかったらしい。


 ついついブラッディハウルベアやアシュラゴーレム戦と同じものを想定して身構えてしまった。


 レンも同じ感じで、想定してたよりもあっさりと終わったことに驚いてしまっていた。


 大量のコモンゴブリン素材が手に入ったが、ぶっちゃけ魔核とゴブリン素材以外の武器類は、ほぼゴミな上にストレージを圧迫するのでその場で破棄する。腰蓑とか誰が使うんだよ、汚いなぁ。


 ステータス関連は諸々確認したいことはあるが、取り敢えずまずはグレイの進化だ。俺はグレイに進化するかどうかを確認し、向こうも肯定だったので進化を選択する。


 すると白い光に包まれ、そのシルエットが変わっていく。隣で見ていたレンも従魔の進化の様子を興味深そうに見ていた。


 やがて光が消えると、白銀だったグレイの毛並みには青白い毛がラインのように浮かび、頭頂部には金色の星型の角が生えた。潰れていた片目も元に戻っていた。体格自体は元とあまり変わらなさそうだ。

 

 ――――――――――――――――――


 名前:グレイ

 レベル:30

 種族:スターライズウルフ【レア】

 状態:従魔

 契約者:ユーク


 HP:350 / 350

 MP:200 / 200

 STR:450【×1.5→675】

 VIT:300【×1.5→450】

 INT:150【×1.5→225】

 MIN:100【×1.5→150】

 AGI:350【×1.5→525】

 DEX:50【×1.5→75】


・アビリティ

【獣性・優】【獣戦術】【助け合いの精神】【忠誠心】【レア個体】【星の獣】【超感覚☆】【体格変化☆】【月歩☆】

・スキル

『スタイルガード』『獣変化』

・アーツ

『咆哮』・獣戦術(『単爪斬』『連獣爪』『グラビティバイト』『ノックアタック』『ビーストラッシュ』)


 ――――――――――――――――――


 全体的にステータスが上がり、ややMPやINTが高くなったが、おそらく種族特性みたいなものなのだろう。


 従魔士の補正込みではあるが、STRは更に上がり、AGIに至ってはとうとうエリアボス戦直後のレンのステータスよりも高い数値になっていた。


 スターライズウルフということで、他のウルフ種とは全く違う系統に進化しそうだ。種族補正を示唆する【星の獣】も更なる進化で変化することだろう。


 【獣性】もグレイの性格が反映されてか優と追加されている。また【孤高の狼】が消えて【助け合いの精神】に変化しているが、これが仲間とともに戦う為にグレイが取った選択ということなのだろう。


 『獣変化』のスキルに関しては姿を変えることができるらしいのだが、MP不足で使用できなさそうだった。後でモンスターリンクでMPを共有化してから試してみることにしよう。


 他にもミュアやゼファーの方も気になったが、後ろでメリッサを護衛していたリーサたちが戦闘終了のアナウンスを聞いて、メリッサを連れて俺たちのもとに歩いてきていたので、とりあえず中断する。


「終わったみたいね! お疲れ様! って、もしかしてグレイ進化した? もっとかっこよくなってるー!?」

「そっちも無事で何よりだ。取り敢えず、これでしばらくは何も起きないはずだ」


 レンがそう言うが、メリッサは不安だろう。取り敢えずモンスター除けが機能してなかった理由を探さないといけないな。


 そう思って、俺はゼファーたちにモンスター除けの気配がするものを探してもらう。こういうのはモンスターである従魔が気付きやすいだろう。


 そして、グレイが半壊して元の旧砦の形に戻った砦の中で、封印の札のようなものを貼り付けられたモンスター除けとモンスターを誘き寄せるお香を発見した。


 取り敢えず俺たちはその状態をスクショにとってから、札を剥がすことでモンスター除けを再び発動した状態に戻した。


 一緒に置かれていたモンスターを誘き寄せるお香は俺が代表して俺がストレージの中にしまい込むことになった。これでもうここにモンスターは現れないだろう。


 因みにそのアイテムの元の所有者だが、サザンカさんが鑑定した結果、『ハルトマン』という人物になっていたので、メリッサにその人物に心当たりがないか聞いてみると、彼女は少し不安そうな顔をする。


「えぇ、知ってます。だって、その人は私の叔父ですから……」


 そう呟くメリッサの瞳からかすかに光が失われそうになったのを俺は見逃さなかった。


 ただの護衛依頼からのイベントとは思っていなかったが、これは相当闇が深そうな話になってきたな……。


「……まぁ、なにはともあれだ。こうしてモンスター除けが機能するようになって、モンスターを誘き寄せるお香も無くなったから安全だろう。時刻も良い時間になったし、予定通り休むことにしようぜ」

「えっ、でも流石にここでは……」

「さっきまで戦闘があったここで休むのに気が引けるのは分かるけど、ここより先のセーフエリアは深夜で強化されたモンスターたちと戦いながら移動する必要があるんだ。流石に君を庇いながら進めるだけの余力は残ってない」


 このセーフエリアで休むことに気が引けてしまっているメリッサを説得する。流石にこれより先のセーフエリアを目指すとここから更に小一時間以上歩く必要があるし、何よりモンスターが強くなるので危険が伴う。


 それに、せっかくショートカットできるのにそのセーフエリアだと教えてもらったショートカットのポイントを過ぎてしまうので、余計なタイムロスをしてしまうことになりかねない。


 そもそもさっきも言ったが、モンスターを引き寄せるお香は俺がストレージに入れていて、もう効果は発動しないのだが、まぁNPCには分からないか。


「それに、もし何かあれば俺の従魔がどうにかしてくれるさ。このグレイはそういう気配には機敏だからな」

「ガゥア!〔お任せを!〕」


 取り敢えずログアウトすることで動けなくなる俺たちとは違い、グレイを始めとする従魔たちは問題なく動ける。


 護衛のためにミュアとゼファーと共に寝てもらっても大丈夫か聞いてみたが、取り敢えず大丈夫とのことであった。


 取り敢えず、後のことはミュアたちに任せて俺たちは総じて簡易テントを立てて、野宿することとなった。


 俺は当初の予定通りレンと共に寝ることとなった。


 カリュアとグレイは流石に簡易テントの外で寝るようだ。グレイにはさっきいざというときの対処を頼んでたからな。カリュアはどちらかというと寝やすい状態で選んだようで、すぐに土の中に潜っていた。


 女子組のテントはナサとリリー、そしてリーサとサザンカさんの二組に別れている。やけに姦しいが、何の話をしているのやら。


 取り敢えず、明日はできるだけ8時にはログインできるよう全員に通達して、俺たちはログアウトすることとなった。


 さて、一休み一休み……。

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