ボスのお出まし


「ゼファー、俺たち全員にガードストームを使ってくれ! カリュアはその後に『樹痺の粉塵パラライズ・フレア』を使って、辺りの敵を痺れさせろ!」

「まかせろ! 『ガードストーム』!」

「――――!〔まかせて!〕」


 ゼファーは俺、グレイ、ミュア、そして自分自身に向かってガードストームを発動する。ゼファーにはその後レンたちの方にも同じくガードストームをかけに行ってもらった。


 これで仮に花粉が広がって、それを吸い込んでも味方が痺れることはないだろう。


 その後、カリュアは俺の側で『樹痺の粉塵パラライズ・フレア』を発動する。


 頭頂部の花から勢いよく黄金色に輝く花粉が吹き出すと、勢いよく目の前のコモンゴブリンに向かって吹き出していく。


「ガギッ!?」

「グッ、ガガァ……!」


 その花粉を吸い込んだコモンゴブリンたちは麻痺状態になって次々と体が痺れてゆき、武器を落としたり倒れ込んだりしてしまう。


 俺たちは『ガードストーム』の効果で麻痺状態にはならないので、今がチャンスだと言わんばかりにコモンゴブリンを倒していく。


 なまじ人型に似ているので攻撃しづらい点はあるものの、カリュアのように可愛らしくはないため、その点は良心が傷まずに済む。


「よし! ミュア、カリュア、ゼファー、今のうちに砦を破壊するぞ! 『従魔激励』! ――そして、ゼファーには『鼓舞』だ!」


 俺は全員に『従魔激励』を発動したあと、ゼファーに対して久々に『鼓舞』を発動する。


 『鼓舞』は『従魔激励』と違って効果対象が単体かつ一度きりで、同系統のアーツ効果である『従魔激励』の効果を打ち消してはしまうが、スキルも強化の対象になる。


 『従魔激励』を習得してから、その利便性故にずっとこっちばかり使っていたが、ゼファーはどちらかというと精霊術スキルのほうがメインなので、むしろ『鼓舞』を適時かけてやるほうがいい。


 ゼファーは久々に大技を出していいのかと聞き、俺はそれに頷いた。すごく嬉しそうだ。確かに最近使ってなかったもんな、あれ。


「行きます! 『ミスティックアロー・オーバーレイ』!」

「――――!!〔こわれて!〕」

「行くぞぉ! 『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』」


 三者三様で技を使用するが、カリュアは大技をまだ習得していないのでさっきまでと同様に蔦の鞭で砦に対して攻撃する。


 対してミュアは精霊弓士のジョブアーツである『ミスティックアロー』と『オーバーレイ』を重ねがけして発動していた。


 本来ならアーツの重ねがけは互いに衝突しあって発動しないのだが、『オーバーレイ』は対象となる弓術系のアーツに対して精霊の力を利用して更なる強化状態を与えるという強化系のアーツなので、使用可能となっている。


 ミュアの習得している『精霊弓士』はその名の通り精霊と契約していることで本来の力を発揮し、精霊と契約して初めて使用可能となるスキルやアーツも多い。


 ミュアの種族特性で、精霊契約を対象としたアビリティ効果とジョブ特性は、精霊との契約がなかったとしてもその効果を発動するのだが、スキルとアーツは対象外だったので今まで多くのスキルやアーツが使用することができなかったのだが、それもカリュアと契約したことで条件を満たし、制限は取っ払われることとなった。


 こうしてミュアは、ようやく精霊弓士としての本領を発揮することができるようになったというわけだ。


 因みにミスティックアローは放った弓から幻影を見せつつ精霊の力でそれを実体化させ、敵に大ダメージを与える強撃系アーツであり、当然ながら精霊との契約が必要となるアーツとなる。


 それを『オーバーレイ』によってダメージを増幅し、精霊弓士のジョブ補正で1.2倍、更に『従魔激励』の効果で2.1倍と、俺が使える『金剛爆打・明鏡』のような下手な必殺系アーツよりも高火力となっている。まぁ、俺の場合は高火力技は別にあるのだが。


 ゼファーの『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』は言わずもがな、俺が使う場合も含めて最高火力の技となる。


 しかも『鼓舞』使用時だと、宝風剣補正込みの俺の『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』よりも普通に強い。2.1倍だからな。まぁ従魔を強くするのが従魔士の役割なのだから、当然と言えば当然なのだがな。


「ギギガガァァァ!!」

「グギャアアア!?」


 こうしてそれぞれの大技を受けたことで、砦は大きくダメージを受けて崩壊する。ついでに砦付近にいて麻痺状態になっていたコモンゴブリンたちも2つの大技の巻き添えを食らうことで、ほぼ全滅した。


 巻き込まれて消えていったコモンゴブリンたちの断末魔が辺りに響き渡ることとなった。


「よし、これで砦が壊れたから――」

「あぁ、後はボスのお出ましってところだな」

「――うおっ!?」


 突然隣からレンが話しかけてきたので驚いて変な声を出してしまった。どうやらレンの方もあらから片付いたようであった。


 俺の変な声を聞いていたレンとミュアは「ケラケラ」「クスクス」と笑っていた。いや笑うなよ!


 その時、ズドンと地面を揺さぶるような衝突音が鳴り響き、半壊した砦の中から巨大なモンスターが出現する。それでもブラッディハウルベアよりは小柄なのだが。


 今回の集団モンスター戦のボスモンスターのお出ましである。


「ヘヘッ、出やがったな! ボスモンスター!」

「こいつは――『ロード・コモンゴブリン』か」


 俺はそのボスの頭上部に表示されるモンスター名を読む。


 ロード・コモンゴブリンは、コモンゴブリンが異常成長を果たしたことで導き手ロードとなった特異個体の事だ。


 その強さはコモンゴブリンを1とすれば、100以上の差がある。まさにゴブリンの賊の長として、この上ない存在だと言えるだろう。


 とはいえ、元のコモンゴブリンが弱すぎるので、単体で強くなっても……という点はある。


「ただの戦士ファイター上がりのロードか。だったら楽勝だな」

「あぁ、これがナイトやマジシャンとかだったらそこそこ苦戦したかもしれないけど、まぁミュアもゼファーも居るから問題なさそうだったけどな」


 レンと俺はそのロード・コモンゴブリンを見てからそう判断する。


 ロードも元となったコモンゴブリンのジョブで攻撃方法が変化するのだが、ファイターやソードマン系は更に倒しやすい。直線的な攻撃しかしてこないからだ。


 逆にやや倒しづらいのが盾を持つナイトや魔術スキルを使用するマジシャンだが、その点はミュアやゼファーがいるので余裕で対処可能だろう。


 何にしても、現状の俺達なら余裕で倒せる相手だということだ。


 さて、ボス戦が終わればこの集団モンスター戦は終わる。後ろでメリッサを守ってくれているリーサたちの為にも速攻で倒さないとな!

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