獣の抜け道
朝食を済ませ、メリッサのテントの片付けを手伝ってから俺たちはセーフエリア『旧砦の寄宿場』を後にする。
少しばかり調理や食事に時間を取られたが、【早移動】の恩恵もあってプラマイゼロ、ショートカットで用いる『獣の抜け道』で何も起きなければかなり早い時間でつく計算になる。
因みにセーフエリアからその『獣の抜け道』に移動するまでの間はそれまでの移動と変わらず、普通のモンスターが出現して戦闘となった。
途中、ハイレベルらしきモンスターが出現したので少しだけ時間をロスしてしまったが、それを除けばかなり順調な旅路となっている。
そして抜け道である『獣の抜け道』が近いということで、メリッサは正確な道の入口を探すためにグレイから降りて道の端にある低木の中を探り出した。
少なくともここしばらくは通ってなかったということで、入口が草木に覆われて分からなくなってしまっている場合があったが、彼女の記憶によればこの辺りで間違いないらしい。
「あった! ……皆さん、ここが抜け道です!」
そしてしばらく捜索した結果、彼女は『獣の抜け道』の入口である、ほぼほぼ獣道と化してしまった昔の運搬道を見つけ出した。
なるほど、ここを通るわけか……。
俺を始めとしておそらくチームメンバー全員の顔が引き攣ったのは間違いないだろう。
メリッサが言うには、途中に輸送する木材を一旦置いておくための広場があるくらいで、他は出口まで一直線になっているらしい。
どう考えてもその広場でボスモンスターとエンカウントなのは間違いなさそうだ。
「うーん、いかにもって感じがするけど、ここを通らなきゃ正午には間に合わないからなぁ……」
「男は度胸って言うだろ? 取り敢えず、今回も俺が先行するから付いてこいよ!」
そうレンが告げると、勢いよく走り出した。
仕方なく、俺達もそれまでの移動と同じように【早移動】とグレイに乗ることで『獣の抜け道』の中を進んでいく。
確かにマップでも『獣の抜け道』と表示されているが、これは例の異種族孤児院同様に隠しエリアなのではないだろうか。
「……まぁ、考えても分からないからどうでもいいか」
「なにをひとりでぶつくさ言ってるんだ相棒?」
「いや、何でもないよゼファー」
それからしばらく移動すると、レンの姿が見られたが、どうやらモンスターのエンカウントは道中では起きないらしい。やはり、広場での戦闘の為に道中は特に何も起きないということなのだろうか。
少し拍子抜けだが、エンカウントの果てにボスモンスターとの戦闘ほど厄介なものはないので、これはこれで助かる。
そして俺達は『獣の抜け道』の途中にある広場の場所に到達する。そこにはかなり昔に放置されたであろう材木が朽ち果てており、そこには数多くの茸が大量に生えていた。
「レン。何か出たか?」
「いや、特に何も。全員集まるまで何も起きないのかと思ったんだが、集まっても何も起きないな……」
「――キャァァァ!!」
俺達が不思議に思って周囲を見てみると、不意にリーサの叫び声が響き渡る。
その声の方向を見てみると、リーサとフィーネが一緒に糸に包まれて上空に浮かび上がっている。
……いや、あれは蜘蛛の糸で吊るされているのか!
「誰か、たすけてぇぇ!」
「――リーサ!」
「私に任せてください! 『ファイアアロー』!」
咄嗟に俺の前に飛び出したミュアが弓を構えると精霊弓士のジョブスキルである『ファイアアロー』を発動する。
これは魔術系スキルの一つである『ファイアアロー』そのものなのだが、それを弓で放つことができるのが精霊弓士の力である。
その炎の矢は正確にリーサたちを吊るしている糸を焼き切り、リーサたちはそのまま落下する。
「いやぁぁぁ! ぶつかるぅぅぅ〜!」
みるみる地面が近づいていくので慌てて叫んだリーサであったが、そこはグレイが【体格変化☆】によって大きくなって受け止めたことで何とか無事だった。
その後、リーサたちを包んでいた糸を俺が宝風剣を使って切断する。
「た、助かった……ありがとうミュアにグレイ……それにユーク」
「無事で何よりだ。それより、みんな集まれ! 離れてると狙われるぞ!」
何よりまず依頼主であるメリッサの安全が最優先なのだが、彼女の周りにはサザンカさんとリリー、そしてナサが着いていたので何ともなかった。
まぁ流石に目の前で人が吊るされた光景を見たらショックだろう。メリッサはかなり青ざめていて、ガクブル震えていた。
そしてそんなメリッサを中心に俺達は集結する。
「蜘蛛の糸か……敵は何だろうな?」
「さぁな。俺が知る限りではスケイルスパイダーとオークラたちフライ・ハイが鉢合わせたガーディアン・メタルスパイダーくらいしか蜘蛛系統のモンスターは居ないが……」
ボスとして考えるなら、詳細は知らないもののガーディアン・メタルスパイダー程度のモンスターならば普通に出てきそうだ。
とはいえ、スケイルスパイダーは突進攻撃しかしてこなかったので、その系統のモンスターではないことは確かだ。ガーディアン・メタルスパイダーも似たような攻撃方法だったらしいし。
「取り敢えず敵が出てくるのを待つか、こっちから切り出すかのどちらかだが……ユーク、お前ならどっちを選ぶ?」
「そんなの決まってるだろ。――時間がないから強行突破!」
そう俺が言うと、レンも似たようなことを考えていたようで、親指を立ててサムズアップする。
取り敢えず俺に任せてくれるって形でいいんだよな? 俺は宝風剣を構えると、精霊術スキルの発動を宣言する。
「行くぞ――『
俺はゼファーがレベル30になったときに習得して、本人がまだ使っていなかった精霊術を発動する。ゼファーが何か叫んでいたがスキル発動時の音で聴こえなかった。
上に向けた宝風剣の先端から風が勢いよく吹き出すと、そこから広場の上空の木々を全て揺さぶる程の嵐が巻き起こる。広範囲の拡散攻撃だ。
その衝撃で俺は片膝をついてしまうが、勢いの割には威力はそうでもないらしい。それによって隠れていた襲撃者は姿を表すこととなった。
「ギシャァァァ……」
そこには真っ黒の体に骸骨のような模様が浮かび上がった超巨大な蜘蛛が存在していた。当然ながらこんなモンスターは見たことない。
〈イベント『少女の護衛』から派生して、緊急クエスト『デスト・スカルスパイダーからの護衛』が発生しました〉
デスト・スカルスパイダーとアナウンスで呼ばれたそのモンスターであるが、レベルを確認するとまさかのレベル45――この第二エリアでのプレイヤーのカンストレベルに相当するハイレベルに位置するモンスターであることが一目でわかった。
……いや、どうしよう。勝ち目ないじゃん……。
――――――――――――
・お知らせ
本日より新作『ダンジョンの申し子たち〜迷宮生まれの魔眼使いと迷宮世代によるダンジョン探索〜』が公開されています。
もし気になった方がいれば、筆者のページから飛んで読んでみてください。
一応、そちらの方は12時と18時に更新予定です。
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