森林エリアと初エンカウント

 ――森林エリア・入口


 はじまりの街に戻って、東門から出るとそこには森林地帯が広がっていた。


 草原エリアからも森林エリアに行くことはできるらしいが、普通に高レベル地帯に入ってしまう為、出直して行くのが正解となる。


 この森林エリア入口での出現モンスターは、草原エリアにもいたホーンラビットと、今装備している森狼の革鎧の元となったフォレストウルフがメインとなる。


 現状、レベル1の俺がまともに戦えるのはホーンラビット1体程度。フォレストウルフは耐久値が高いらしいので、今のレベルだと火力不足だ。挑むならレベル上げが必要だろう。


 複数体出てくるのは更に先になるため、今のところは心配しなくて良さそうだ。


 現実と見紛うほどの光景に俺の歩む速度は知らず知らずのうちに早足になっていたようで、全くエンカウントが無いため気付けば先の方まで行っていたようで、推奨レベルから大きく離れていると警告がなる。慌てて戻る。


 そしてしばらく歩いたある時、突如として前方の茂みが不規則に揺れ、中から白い小さな影が飛び出してくる。ようやくのエンカウントである。


「ピューイ!」


 そこに居たのは一匹のホーンラビットであった。


 次の瞬間、目の前の風景が若干薄くなり、頭の中に直接焦燥感を刺激するようなBGMが流れ始める。


 どうやらモンスターとの戦闘に移行したことで、バトルフィールドが形成されたようだ。


 この状態では前述の通り、基本的に他のプレイヤーからの干渉は受けない。干渉するにはこちらが救援要請を出して向こうがそれを受理した場合に限る。初めての戦闘とはいえ、最初から救援要請のお世話になりたくはないな。


 気を引き締め、自身の武器である杖を掲げる。因みにこちらも初心者装備なのでSTRに与える数値はない。まぁ得意武器補正でダメージは1.2倍にはなるが。


 ホーンラビットはゲーム開始時に出現する敵の中ではかなり弱い部類に入る。これより弱いのは草原エリアに出てくる草原ラットくらいだろう。


 とはいえ向こうは数の暴力を働いてくるらしいので、初心者には向いていないと考察サイトに書かれていた。


「まずはこの時点でテイミングを試してみるか。――『テイミング』!」


 スキルは念じる事で選択ができる。俺はテイミングスキルの使用を念じ、杖をかざしながらスキル名を発言することで『テイミング』を使用する。


 MPを消費して杖の先から白い光が瞬くも、ホーンラビットは首を傾げている。


「まぁ、失敗するよな。……って、うわっ!」


 テイミングに失敗した隙を見てか、ホーンラビットは勢いよく俺の方に向かって飛びかかってくる。自身の角を使って攻撃をしてきたのだ。


 十数センチほどとはいえ、あの角が刺さったらマズい。まぁ【緑の息吹】があるので、掠ったところでダメージは食らわないが。


 咄嗟にその攻撃をサイドステップで避け、そのまま自身の隣を飛んでいくホーンラビットに対して杖を振りかざす。


「キューン!?」


 手首に伝わってくる衝撃はかなりのものであったが、打ち出されるように真横に叩きつけられたホーンラビットはそのままの勢いで大木に打ち付けられる。


 普通はある程度のAGIがなければ避けられないと思ったんだが、案外見てからも避けられるもんなんだな。


「うわぁ……この感じ、ゲームじゃなかったら割とくるな。でも!」


 ホーンラビットが再び立ち上がり、こちらを見つめてくる。やはりSTR補正のない初心者武器だからか、杖の通常攻撃ではホーンラビットのHPを3割ほどしか削ってない。いや、補正がない割には3割も削ったというべきか。防具の補正も合わせれば30はあるのだからダメージが全く無いワケがないのだ


 これで3割ならば、同じことをあと3回続ければ倒せるということだ。


「キューン!!」


 特に学習することもなく、全く同じように角を突きつけて飛びかかってくるホーンラビット。まぁ、序盤の敵で早々学習されても困るのだが。


 それを見て、避けて、杖で殴るという動作をそこから4回行って、ホーンラビットとの戦闘を終わらせることができた。


 結局4回だったのは、最初の一回がたまたま大木に当たったから最初はその衝撃分のダメージも入っていたからだろう。


「って、倒しちゃったらテイムできないじゃん! うわぁ……やらかした」


 そこでホーンラビットを倒す前にテイミングスキルを使用するということを忘れてしまっていたことに気付き、ガックリと項垂れてしまう。


 しかし、忘れてしまったことは仕方ないと、気を取り直す。


「取り敢えず杖の使い勝手は悪くないし、今のところは得意武器は別に変更しなくても問題なさそうだな」


 杖を振り回しながら呟く。


 仮に変えてもリーチの極端に短い短剣か、扱いが難しそうな鞭しかない上に、既に【杖術】を覚えている手前、新しい戦闘技能アビリティを覚えるのは余程のことがない限りはアビリティポイントの無駄になる。


 まぁ、あるとすればかなり強力な短剣や鞭を手に入れるという場合だが、その時にはレベルも10を越えて変更自体出来なさそうだ。そのときは黙って技能アビリティを習得することにしよう。


「しかしホーンラビット可愛かったなぁ……。また出たら今度こそテイムしよう」


 幾つかのドロップを残し消えてしまったホーンラビットの姿を思い出す。まだ見ぬもふもふ……。


〈獣骨【小】×2 、魔核【小】を入手しました〉

『経験値を獲得しました。レベルが1、上がりました。アビリティポイントとステータスポイントが付与されました〉

〈習得可能アビリティに【観察眼】【サイドステップ】が追加されました〉


 ドロップアイテムが消え、周囲の鮮明さが元に戻った瞬間、脳内に複数のアナウンスが響き、アイテム入手やレベルアップなどを知らせる。


 流石は草原エリアよりもレベルが高い森林エリア、ホーンラビット一体でレベルアップすることができた。


 習得可能アビリティは、文字通り現状習得することができるアビリティである。習得するにはアビリティポイントが必要なのはキャラメイクの時に説明したとおりだ。


『【観察眼】:効果アビリティ。周囲の情景にある情報を視覚に映し出すことができる。レベルが低いモンスターの場合、隠れていても発見できる』


『【サイドステップ】:行動アビリティ。サイドステップ使用時の硬直時間とスリップが減少する。アビリティレベルが上がるごとに効果アップ』


 【観察眼】のアビリティは鑑定に近いものだが、スキルではないので常時発動となる。調べることができるのは周囲の情景のみという制限付きとなっているが、隠れている敵も認識できるようになるため、使い勝手はわりといい方だろう。


 俺の視力がなまじ良い方ではあった為に視力系のアビリティを覚えたのかと思ったが、それでは視力が悪いプレイヤーは覚えられないことになるので、まぁ違うだろうな。


 【サイドステップ】はサイドステップ時の硬直時間とスリップの低減だ。さっきの戦闘では特に気にはならなかったが、確かにサイドステップで避けたあとに攻撃しようとして何かがつっかえたような感覚があった気がする。あれが硬直なのだろう。


 習得可能条件はおそらく戦闘中でサイドステップを5回以上使用といったところなのだろう。


 取り敢えず、おそらく今後必要になるであろう【観察眼】だけ習得することにした。必要なアビリティポイントは1だったので、ポイントはレベルアップ前と変わらない。サイドステップは3必要だった。


 ステータスポイントはもう少し上がってから振ることにする。




 因みに俺は後で知ることになったのだが、【観察眼】の習得条件は、後に検証班が検証を行った結果、『周囲の様子をよく観察しながら30分フィールドエリアを探索する』ということが条件であったらしい。


 通常、森林エリアはだいたい入ってすぐにエネミーモンスターとエンカウントするため、初エンカウントまでにそんなに時間はかからない筈であったが、少し前に森林エリアに入ったプレイヤーが入口周辺のモンスターを狩り尽くしていたらしく、そうとも知らず一人森の奥へと歩んでいったというのが答えだった。


 気付けば俺はかなり奥の方へ足を踏み入れてしまっていたようだった。

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