強敵
「くっそ~、全然テイム成功しねぇ!」
あれから何度かホーンラビットとフォレストウルフと出会い、戦いながらテイミングに挑戦していたが、今のところ全戦全敗となっている。
ホーンラビットなら攻撃を受けずに倒せるが、フォレストウルフはかなり早いため、対応しきれずに何回か掠り傷を受けることもあった。
まぁ一撃目は【緑の息吹】で耐えられるため、その隙に【杖術】のアーツである『強力杖殴り』でぶん殴り、かなりのダメージを与えることができた。その戦法も相まって、何とか2体程度なら同時に戦えるようになっていた。
しかし、幸運の眼鏡のアビリティ効果が働いているにも関わらず、テイムに失敗しまくるのはもはや呪われているとしか思えない。
まぁ肝心の【幸運】の効果説明がやや曖昧なのも問題なのかもしれない。
『【幸運】:効果アビリティ。幸運になる。様々な成功率が上がる』
様々なって流石に広すぎません?
それに上がると言ってもどれだけ上がるのかも定かではないし、仮に倍になっても元がめちゃくちゃ低かったらあんまり変わらないことになる。
「取り敢えず、パーソナルレベルはある程度上がったけど、テイミングのレベルはまだ2だからなぁ……何回使えば上がるんだろうな」
――――――――――――――――
名前:ユーク
種族:人間族
得意武器:杖
ジョブ:来訪者
HP:117 / 135
MP:60 / 190(+50)
STR:42(+10)
VIT:52(+35)
INT:32
MIN:17
AGI:17
DEX:72〈+30〉
SP:0
・アビリティ(5ポイント)
【杖術 レベル3】【テイミング レベル2】【友好化】【緑の息吹】【黒龍の印】【観察眼】【幸運】
・スキル
『テイミング』
・アーツ
『強力杖殴り』『横薙ぎ』
〈装備〉
・武器
メイン:初心者の杖
サブ:なし
・防具
頭:なし
胴体:森狼の革鎧(上)◎
腕:森狼の革鎧(上)
手:なし
腰:森狼の革鎧(下)
脚:森狼の革鎧(下)◎
靴:森狼の革鎧(下)
外套:なし
・アクセサリー
幸運の眼鏡
なし
なし
なし
なし
――――――――――――――――――
今回、ある程度ステータスポイントが溜まったので、すべてDEXに割り振った。
ステータスポイントの割り振りは1ポイントにつきゲージステータスが+10、パラメーターステータスは+5となる。レベルアップで上昇する量よりも多いので、このステータスポイントの割り振りが結構重要だったりする。
今回は6ポイントあったので30増えた形だ。
因みにステータスポイントを割り振ったことで増えたポイントは、装備で増えたものとは形の違う括弧で表記されており、区別されることとなる。
ステータスポイントは専用のアイテムを使って振り直すことができるので、どこがどう割り振られてるのか判別しやすくするためなのだろう。
あとは、戦っているうちに新たに習得可能となったアビリティはなかった。結構特徴的な戦いをした気もするが、条件は満たせなかったようだ。
まぁ、だからといって【サイドステップ】を取る意義は見つからないので、今のところアビリティポイントを使う予定はないのだが。
因みに【杖術】がレベル3まで上がって、その間に新しいアーツである『横薙ぎ』を覚えた。
『横薙ぎ』は高速で横に杖を一閃するアーツなのだが攻撃性能はプレイヤー本人のSTR値ではなく、使用している武器のSTR値の方を参照するため、初心者の杖でそのまま使ってもあまり効果はなさそうだ。
しかし、AGIが一番低いのに避けまくってるのはホント何なんだろうか。……なんか、自分で自分に疑問に思ってしまってるな。
まぁ、無意識に動けてしまっているのだから仕方ない。実際にフォレストウルフは避けきれてないしな。
MPもテイミングに失敗しまくったから結構減っている。そろそろ回復しておいたほうが良さそうかな?
ストレージからMP回復薬を取り出したとき、ふと周辺の草むらが揺れたような気がした。
「……なんか、かなり鬱蒼としてるな。心なしか木の色がだいぶ黒くなってきたような」
周辺の木々は新緑から深緑へと葉の色を変えており、ここがさっきまでいた場所とは全く違うことを明確に示していた。
本来ならば、推奨レベルがかなり離れているエリアに移動しようとした際には危険なことを示すアラートが鳴っている筈なのだが、ちょうどそのレベル帯が切り替わるポイントを移動した際にメニューを弄っていたようで、どうやらそちらの処理が優先されてしまいまアラートが鳴らず、結果的に気付けなかったようだ。
しかもアラートはずっと鳴り続けるわけではないので、メニューを閉じても鳴ることはなく。危ないことを示す表示はされていたが、今度はそれに俺が気付かずにそのまま先に進んでしまった訳だ。
つまり、思っていたよりもだいぶ奥の方に進んでしまっていたらしい。……マジかよ。
【観察眼】を覚えたから大丈夫だろうという安心もあったのかもしれないが、【観察眼】で認識できる敵は自分の現状のレベルと同程度だ。つまり、上位の敵に対しては全くと言っていいほど意味がない。
結果、気付いたら周囲を白っぽい灰色の毛皮を持った獣の群れに囲まれてしまっていた。
「これは……アッシュウルフ!? 嘘だろ、まだ出てくるのは奥のはず――って、その奥の方に居るんだったか!」
出てくると思い込んでいた敵とは全く違う敵が現れて焦りを見せてしまう。
フォレストウルフの上位種であるアッシュウルフはこの森林エリアで出現するモンスターの中では最初の関門となる。
ジョブを習得したプレイヤーでもソロでは討伐が厳しいほどの強さを持つモンスターだが、その恐ろしさは戦闘力に限った話ではない。
厄介なのは、ウルフ系のモンスターは入口付近と特定のレア種以外は群れで狩りを行うという習性があった。
目の前には、3体のアッシュウルフが鋭い牙を見せつけている。3体出てくるってことは想定よりも更に奥ってことなんだが、一体どこをどう行ったらここにたどり着いたんだ……? まぁ、まだレベル20台とかじゃないだけマシなのか……?
「レベル12……完全に格上だな」
いつの間にかバトルフィールドに移行しており、3体のアッシュウルフとお互いに対峙し合う。
とはいえ、現状のAGIではフォレストウルフの攻撃ですら完全に避けることはできない。
そうなるとレベルが上のアッシュウルフだとどうなるのか。
「ギャウ!」
「ガルゥゥァ!!」
次々繰り出されていく獣爪によるひっかき攻撃に翻弄されていく。【緑の息吹】はとっくにかき消されていた。
咄嗟に体を避けることでなんとか致命的なダメージは回避していくが、それでもHPはガリガリ削られていく。
対して俺が振りかざした杖の攻撃にはアッシュウルフは当たりはしない。時々、空中で当たりそう――と思ってもすぐさま機敏な動きで的確に杖の軌道から外れてしまう。
それは、アッシュウルフのAGIがずば抜けて高いことの証明であった。
「クソっ、これじゃどのみち負ける!」
万事休す。とはいえ、ここで死んだところで死に戻りするだけだ。それこそレベルが10になっていたら一定時間のステータス減少に所持品紛失などの影響があるが、まだレベルは7なので、それらの心配はしなくてもいい。
だからこそ別にこのまま負けてもいいのだが、それは何となく嫌だ。
少しだけだが高揚感を感じていたことに気づき、自分にもかなりバトルジャンキーじみた思考があったことに苦笑を浮かべる。
攻撃されながら笑う俺の姿は、アッシュウルフにはさぞ奇妙に見えたことだろう。
「取り敢えず、やるだけやってみるか」
そう言ってアーツの使用を頭に思い浮かべる。このゲームにおいてスキルやアーツは思考することで使用を選択することができるのは先述のとおりだ。
そして選択したスキルやアーツを発動するにはその名前を唱える必要がある。
俺は『強力杖殴り』の待機状態である、杖を左腰の横に添えた姿勢のまま静止する。
これですぐにでもスキル名を発言すればスキルは発動するが、敢えてその状態のまま待機する。
その間、敵は攻撃し放題だが、それでもただ立ち止まって周りを見ていた。
アッシュウルフは前方と左右の3方向からそれぞれ飛びかかってくる。かなり速い為、おそらく今からアーツを発動しても左右のアッシュウルフの攻撃は当たる。……だが。
「――『横薙ぎ』『強力杖殴り』!!」
左右のアッシュウルフの噛みつきを受けながら、2つのアーツを使用する。
杖に光が走り、杖を持った右手を横薙ぎに振りかざす。
同系統のアーツの同時打ちははっきり言って効果はない。それは先に発動したアーツは後に発動したアーツにかき消されてしまうからである。
だが、それでも『横薙ぎ』で初動が早くなったことから、前方のアッシュウルフが飛びかかってくるよりも前に『強力杖殴り』を打ち付けることができた。
前にいたアッシュウルフは攻撃のタイミングがズレていたために予想通りまだ眼前にいた。その杖の軌道上にはちょうどアッシュウルフの頭があった。
――バゴンッ!
何かが砕けるような音が響き、前方にいたアッシュウルフはそのまま杖の軌道に則って、右前方へと吹き飛ぶ。ダメージ表示はクリティカルだった。流石はDEXが一番高いだけはある。
いくらアッシュウルフでも頭に直接、クリティカルダメージのアーツを叩きつけられればひとたまりもないだろう。
左右のアッシュウルフに噛みつかれてHPがゼロになり、蘇生を促す画面になった中、我が渾身の一発を受けて動かなくなったアッシュウルフが光となって消える様子が見える。
幾ら横薙ぎの勢いが付いたからといって、強力杖殴りで格上のアッシュウルフを一撃で倒せるだけの力は本来ないだろうから、これはバグ技に近いのかもしれないな。今後も使っていく予定だが、バグとみなされて修正されないことを祈ろう。
(取り敢えず、これが使えればアッシュウルフ一体なら、なんとかなりそう……かな?)
蘇生待機の30秒がちょうど切れる頃、薄れゆく意識の中でそう思うのであった。
――――――――――
(8/13)推奨レベル帯を逸脱したエリアに移動した際のアラートの描写で、一部誤解を与えるようだったので追記しました。あまり変わらないですが、ユークの落ち度は半分です。また、運営はこの時点ではこのアラートが鳴らないバグをはじめとして、バグに関してはまだ報告されていないので認識できていません。
また、『強力杖殴り』と『横薙ぎ』に関してのユークの心情を一部追加しました。
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