メカノイド族
「さて、リーサがログインするまでどうするかなぁ……ん?」
そんな時、ふと目の前の噴水の元に突如として女性プレイヤーの姿が現れる。
フレンドやそのパーティー以外では、ログインの演出は見えない。だが、演出が見えなくてもそのキャラクターの出現自体はあるので、現れたら勿論描写される。あまりにも他人が多すぎるとわずらわしいと思うプレイヤーも居るだろうから、同時に表示するプレイヤーの数は設定可能だが、俺は特に変更はしていないので、ログインしたプレイヤーは全員見れるように設定している。
しかも、さっきのプレイヤーの現れ方はログインのそれではなく、新規のプレイヤーがチュートリアルをスキップしてゲームを開始した時のものである。俺がゲーム開始直後にチュートリアルを飛ばして始めた際は、周りからもああ見えていたということになる。俺も一日目は結構そういうプレイヤーを見かけていた。
因みに余談だが、死に戻りの場合は転移でもログインでもないので演出などは存在せず、さっきのように突然噴水の前に現れるという形になる。基本的にフレンドには演出がなく現れるために死に戻りガバレるが、認識されずに出現するためそもそも気付かれることがあまりないということだ。
つまり、目の前に降り立ったプレイヤーは3日目にしてようやくゲーム開始したプレイヤーということなのだろう。まさか初心者防具をこの3日間ずっと着けているなんて物好きがいるわけがない――まぁ中にはいるのかもしれないが、流石に縛りがすぎるだろう。
あまり赤の他人のプレイヤーをジロジロ見るのはマナー的に悪いことなのだが、どうしてもそのプレイヤーに目が奪われてしまう。
まぁ、人並み外れたレベルでかなり綺麗な顔立ちをしているし、どこかで見たことあるような顔だなとは思ったが、俺が気になったのはその点だけではない。だから睨まないでほしい、ミュア。
透き通るような水色の長い髪が仄かに発光し、初期装備を身にまとっているが、本来なら素肌が見える場所には人の肌ではないボディースーツのようなものが広がっており、そこにはラインが刻まれている。顔にも同じようにラインが引かれている。
明らかに人間というよりもロボットやアンドロイドに近い、この世界で言うと『戦闘人形』のフィーネにもよく似たような容姿をしているが、これもれっきとしたプレイヤーが選択することができるヒト種族の一つである。
そう、さっきのお知らせを見たときにも触れた、人間族・獣人族・エルフ族・ドワーフ族・ハーフリング族・竜人族に次ぐ、7つのヒト種族の一つである『メカノイド族』である。ホント、噂をすればなんとやらとはよく言ったものだ。
そんなメカノイド族だが、目の前に現れた女性プレイヤーが、俺が初めてまともに目にするメカノイド族のプレイヤーだったりする。もしかしたら、すれ違ったりしたプレイヤーが、フル装備でよく分からないが実はメカノイド族だったなんてことがあったかもしれないので、もしかしたら初めてではないかもしれないが、少なくともちゃんとメカノイド族をメカノイド族として見かけたのは、今回が初めてとなる。
まぁ、なぜそんなに見かけないのかといえば単純にメカノイド族のプレイヤーが圧倒的に少ないからだが、理由としては先程も触れた通り、メカノイド族が習得可能となるジョブがあまりにも少なすぎるという一点にある。
βテスト当時、そのロボットのような姿に憧れてメカノイド族を選択するというプレイヤーはとても多かったらしいのだが、その時に他の種族のプレイヤーがジョブを習得できたのと同じ条件を満たしていても、そのジョブを習得することができないということが多発した。いわゆる種族によるジョブ習得制限というものである。
ただ、メカノイド族はその制限が厳しく、まともに習得することができたクラス3ジョブは、一部の近接戦闘系か生産職のみという有様。しかも、種族補正によってSTRはレベルアップ時の上昇値にマイナス補正がつくという致命的な欠点を持っていた。因みにプラス補正のステータスはVITとINTであり、生産職ではあまり必要としない。まぁ、錬金術士ならまだ合っているかもしれないが。
おそらくは種族専用ジョブに種族補正にバッチリ合ったものがあるのだろうが、当時のβテスターたちがメカノイド族は地雷と判断した結果、本サービス開始時に選択するプレイヤーはほぼ居なかったようで、未だ一部の種族専用ジョブしか明らかになっていない。
因みに種族専用ジョブには、その種族専用の戦闘技能アビリティを習得することで条件を満たし、習得可能になるジョブもある。ユーリカが種族専用アビリティ【霊弓術】を習得したら『
他には獣人族が【獣戦術】(グレイなどのモンスターが覚える【獣戦術】とは別物)を習得すれば『
そういった種族専用の戦闘技能アビリティは基本的にはゲーム開始時に選択可能となり、メカノイド族の場合は【技巧術】という術式スキルなどが習得可能な生産技能アビリティとなる。そして、その【技巧術】を習得したことでに条件が判明する種族専用ジョブは『
その効果は簡単な機械系アイテムを生産可能とするらしいのだが、古代遺跡が普通にあったβテストならともかく、はじまりの街にはそれらの素材は基本的に存在しない。そのため、現状では無用のジョブであることは確かだ。そして、メカノイド族で明らかになっている種族専用ジョブはこれだけだ。他のヒト種族の種族専用ジョブは2、3個は明らかになっている。
現在、プレイヤーが選ぶ種族の大半は人間族となっているが、次いでエルフ族や獣人族が多く、その次に竜人族・ドワーフ族・ハーフリング族が続く感じとなり、そこから圧倒的な差をつけられてメカノイド族がいるという感じだ。
公式もメカノイド族に関しては『古代遺跡に関係する種族』とだけ説明して、今までは特にテコ入れも何もしてこなかった為、公式からも見捨てられた種族というのは半ばアルターテイルズ界隈の認識となっている。まぁ、後で正式解禁となる古代遺跡と関係があると言ってるので、後々ピックアップされる種族なのかもしれないが、それにしてもだ。
とはいえ、これらの種族格差については今度のメンテナンスで改善されることとなるので、近い将来には過去の話にはなるだろう。それで少しでも数が増えるといいのだが……。
……で、そんな現状の不遇種族をわざわざ選んで始めたプレイヤーが目の前に現れたのだから、そりゃ気になるよなという話なのである。もしかしたらさっきのお知らせを見て決めたのかもしれないが、それなら始めるのは今ではないと思うし、違うとは思う。
「…………」
そんな激レア種族なメカノイド族の女性プレイヤーと目が合ってしまう。……いや、かなりじっと見つめられてしまっている。どういうことだ?
他のプレイヤーを見ているのかと思って後ろを振り返ってみたが、周囲にプレイヤーの姿はあまり見えない。
まぁ、この時間帯は夕食などで多少は人が減るし、ここで立ち止まっているのは待ち合わせをしているようなプレイヤーくらいだ。何よりこんな時間までも遊んでいるプレイヤーの多くは既に第二エリアへ行ってたりする。
勿論現在進行系でログインしてくるプレイヤーはいるだろう、それでもすっと立ち止まっているプレイヤーは目の前のメカノイド族の女性プレイヤーくらいしかいない。
どうしたものかと判断に困っていたところ、その女性プレイヤーはふとこちらに向かって歩みだしてくる。
ミュアが多少心配しているのか、後方に居たところを隣に立ち並ぶように移動する。ゼファーは相変わらず俺の頭の上で寝ている。グレイはよく分かっていない様子だ。
「…………」
メカノイド族の女性プレイヤーは普通に俺の目の前に立つ。かなり近いので嫌でも顔が目に止まってしまう。ツリ目気味の瞳の中に眼鏡をかけた俺の顔が映り込む。
改めてよく見ると確かに見たことあるような顔立ちだ。ここまではっきりした顔立ちのアイドルや女優なら顔と名前が一致しそうだが、特に思い当たらないのでそれらではないだろうとは思うのだが……。
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