イベント後の一騒動

 その後、俺は他の勝者たちと同じようにコロシアムの入口辺りに転移されたのだが、その際に俺の姿を確認してなのか、何やらプレイヤーがゾロゾロ現れる。なんだなんだ?


「なぁ! そのエルフのお姉さんはNPCって本当かい!?」

「ねぇ、その精霊ちゃんどうやってテイムしたの!?」

「NPCとの契約ってどうやるのさ!」


 物凄い勢いで全く知らないプレイヤーたちから怒涛の質問攻めにあってしまったが、どうやらゼファーやミュアについての質問のようだ。


 まぁ、そりゃそうなるよな……。精霊に関しては存在すると分かってエルフ族スレが荒れに荒れたらしいし。ハーフエルフのミュアに関してはほとんどNPCだからな……。


 とはいえ、俺にそれらの質問に答える義理は無いので無視することにしようとするが、今度は何も答えてくれないので色々と文句を言ってくるようになった。


 流石にあることないこと色々言われだしてきたので腹が立ってきたが、そこでふと二人の人物が前に出てくる。


「あらぁ、あなた達……自分で調べもしないで人に尋ねて、教えてくれなかったら罵倒するなんて……人としてどうかしてるんじゃないかしらぁ?」

「全くですね。あなた方も教えたくないような物事はあるでしょうに」


 ナギサとクラウスが物乞いのように問い詰めてくるプレイヤーたちを前にそう言い放つ。流石に色々言ってきたプレイヤーも彼らのバトルロイヤルでの暴れぶりを見ていたのか、何も言い返せないようだった。


 まさかこんな形でナギサがまともなことを言うとは思ってなかったので、俺もシグねぇも目を点にして見つめている。いつもはこの向こう側の存在のはずなのにな。


 クラウスはこういう行為に関しては見過ごせなさそうな性格をしているので納得だ。見た目も高尚な僧侶というものなので、説得力が強い。筋肉がすごいけど。


 すると、その場にいるプレイヤーを中心に、全体に聞こえる形でのアナウンスとしてアンビーの声が響く。


〈あーあー。今更言うのもアレなんだけどね。あまりにも他のプレイヤーの迷惑になりそうな行動や、誹謗中傷するような行動を確認したら『迷惑行為』とみなして、一定時間のログイン禁止になるかもしれないから、みんな気をつけてねー〉


 流石はシステムAI。全てお見通しというのか。


 しっかりここに集まってきているプレイヤーたちに釘を刺していく。


 すると、集まっていたプレイヤーたちはログイン禁止になるのを恐れたのか、ゾロゾロと姿を消していった。そうするなら最初から来なきゃいいのに。


「えっと、ありがとう。助かったよクラウス、それにナギサ……さん?」

「ナギサでいいわ。あなた、シグの従弟いとこって言ってたかしら? ……その、もし私が契約できそうな精霊について知ってたらこっそり教えてくれてもいいのよ――ってアイタッ!」

「あなたって人は……さっき、自分で言ってたことを忘れてたのかしら?」

「なによぅ! 私はちゃんと足で調べたんですー! そこで手がかりが見つかったから話しかけたんでしょうが!」

「それもどうせほとんどオルカちゃんによるものでしょ? ……まったく。ごめんね、ユーくん」


 ちゃっかり俺に精霊について聞こうとしていたナギサに対し、シグねぇは鉄拳ではないものの頭を叩いて止める。


 まぁ、流石に精霊の隠しダンジョンに関しては説明するのは面倒だが、以前ゼファーから聞いた『精霊の泉』に関しては教えてもいいかもしれない。特にエルフ族プレイヤーの二人がいれば何かイベントが起きるかもしれないしな。


 取り敢えず俺は庇ってくれたお礼にと、ナギサとシグねぇには、後日その精霊に関して教えると告げると、ナギサはパァッと顔を明るくして喜んでいた。こうしているとただのキレイなお姉さんなんだけどなぁ……。


 結果として、俺は何故かナギサとフレンド登録することとなり、精霊の泉には次の土曜日辺りに向かうこととなった。ナギサ側の都合のようだ。


 まぁ、これが二人の仲を取り持ついいきっかけになってくれればいいだろう。……いや、なるかなぁ?


 その後、俺たちのもとにリーサが走って来たのだが、どうやら都合がつかなくてログインできてなかった他のメンバーが夜にはログインできることを知り、そこでリーサが俺とレンの祝賀会を開こうと持ちかけてきていたらしい。全員参加するようだ。


 場所は、はじまりの街のギルドルームだ。フライ・ハイやシグねぇ暁の戦姫のメンバーに考慮したらしい。


 俺とレンは饗される側なので強制参加だ。まぁ断る理由もないしな。


「一応、フライ・ハイの人たちも参加してくれるって! それで、もしよかったら皆さんもどうかなって……」


 リーサはここにいる他の勝者に対しても参加するかどうかを問いかけていく。ここで物怖じせず声をかけられるのは流石だと思う。もしかしたら見ていないだけかもしれないが。


「あら残念。パーティーには興味あるけど、夜は用事があるのよね。ごめんなさいね」

「申し訳ない。私も都合がつかず参加は見送らせていただきたい」


 ナギサとクラウスは欠席のようだ。まぁ、彼らがボコボコにしたフライ・ハイのメンバーが居るだろうから、来ないでくれるのは逆にありがたいかもしれない。流石にどんな負け方をしたかまでは、俺も詳しく知らないが。


「私は大丈夫よ。ハルとユキも夜にはログインできるから、一緒に連れてきていいかしらユーくん?」

「それはいいと思うよ。なぁ、リーサ?」


 俺がそう聞くと、コクリと頷くリーサ。一応、俺とシグねぇの関係は前に少しだけ話しているのだが、まだ何か不思議なものを見ているような表情で俺たちを見ている。どうしたのだろうか?


「さってと! 私はそろそろお暇させてもらうわ。まぁ、次の機会があったら決着をつけたいわね、シグ」

「そうね。唐突の喧嘩じゃなくて、イベントとかで戦う時がくれば、その時はちゃんと勝負してあげる」

「フフフ、確約取ったわよ! それでは失敬! オーホッホッホッ!」

「……では、私も失礼します」


 ナギサとシグねぇが互いにそう言ってから、ナギサはログアウトする。同時にクラウスも俺たちに挨拶してからログアウトした。


 最後までキャラがよく分からない人だったな、ナギサ……。


 さて、時間はまだ昼前だ。イベント終了でまたはじまりの街に戻らなければならないシグねぇに俺たちは「また夜に」と別れを告げてから、俺たちは未だお祭り騒ぎの第二の街の中へと向かっていく事となった。


 まずは、使役獣ギルドで待つノクターンとコルヌを迎えに行くことにしよう。

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