使役獣ギルド

 ――使役獣ギルド


 第二の街で初登場となったギルドの一つで、主に従魔士や召喚士、そして乗馬をメインに行う騎士系ジョブなどがお世話になるギルドとなる。


 建物自体は中央のコロシアムから見て南西に位置する区画に存在する。


 この区画は冒険者ギルドや生産者ギルドの他に、専門ギルドと呼ばれるギルド施設によって構成されている。


 その専門ギルドだが、主に戦闘職向けでは使役獣ギルドの他に剣術士ギルドや魔術士ギルドや騎士ギルド、闘術士ギルドなどのジョブや戦闘技能に応じたものが存在する。


 そこでは、それぞれのジョブに応じた新たなアビリティやアイテムを手に入れるイベントが発生したり、冒険者ギルドよりも特化した装備を購入することができるようだ。


 また、生産職向けでは木工ギルド、鍛冶ギルド、彫金ギルドなどの生産技能毎に小分けされている専門ギルドが存在する。より専門的な技術や特別なアイテムなどを入手しやすくなるらしい。ここでのクラフトルームは、これらのギルドの2階以降に併設されているようだ。


 基本的に依頼関係は冒険者ギルドや生産者ギルドに向かう必要があるが、それ以外の細々とした事に関しては専門ギルドに向かう方がいいだろう。


 因みにレンは剣術士ギルド、リーサは陶芸ギルドと裁縫ギルドに入っているらしい。


 俺は今のところ専門ギルドには使役獣ギルドにしか入っていない。他に入る必要が今のところは無かったし、そもそも杖術士ギルドが存在しなかったのだから仕方ないだろう。


 それで、使役獣ギルドについて話を戻すが、使役獣ギルドは従魔士の不遇具合とは反比例に、この専門ギルドではかなり大規模な施設となっている。この世界として使役獣の役割はかなり大きいという事だ。


 その理由としてはこの使役獣ギルドの中には大きな屋内広場があるからだ。この中にはプレイヤー外の従魔士や育成家ブリーダーの従魔、各種騎乗持ち用の使役獣が常に何頭か存在している。


 空間拡張魔術が使われている設定のため、外観以上に中は広い。というか、普通に外と同じような空間になっている。空間投影魔術も併用しているらしいが、まぁあまり具体的なことは分からなくても問題ないだろう。ゲームだから。


 ここには同時ログアウト設定にした全プレイヤーの使役モンスターが集まってくる。まぁ、その手のモンスターはある程度増えれば別サーバー処理されるので、厳密には全てと言うわけではないが、ある程度の数のモンスターがこの広場に存在することとなる。


 俺たちはギルド職員たちに挨拶を済ませてから、使役獣ギルドの中の屋内広場に入ると、そこで遊んでいたノクターンとコルヌを呼ぶ。本来なら『モンスターコール』でどんなに離れていても呼び出すことができるのだが、使役獣ギルドに預けている場合はこの場で使わないと近くに呼び出せないようになっている。


 そして広場の奥からかなり黒に近い灰色の羽を持つ大きな梟と、まっすぐに伸びた角が特徴的な白い山羊が近づいてくる。


「ノクターン! コルヌ! お待たせ!」

「ホゥホーゥ!〔マスター!〕」

「ウェェェ!〔ごしゅじん! ごしゅじん!〕」


 2匹に飛びつかれて思わず後ろに倒れ込んでしまう。コイツら、テイムしたときから異様に懐っこいんだよな……。


 グレイもカリュアもかなり懐いていたし、従魔士が契約したらそういう感じに懐くのだろうか? どうだろう?


 いつの間にかグレイまで混じっていて俺にじゃれついてくる。コルヌに至っては俺の顔をベロベロ舐めていた。 やめろ、くすぐったいぞ!


「相変わらず楽しそうね、ユーク」

「そうだな。モフモフをモフる目標とやらは完全に果たしてるしな」


 リーサとレンの生暖かそうな眼差しに晒されながら俺は立ち上がる。そういえば、始めるときの目標ってそんなんだったな。


 グレイで一旦満足していたが、やはり増えるとそれはそれで嬉しい。まだまだ増やしたいところだが、これ以上は連れ歩けなくなるんだよなぁ……。


「まぁ、それでも多分テイムはやめないだろうけどな。俺はまだ見ぬ仲間を探すんだ!」

「まぁ、ユークの場合だと人型モンスターの方が自分から近寄ってきそうだけどな」

「そうね、ユークはNPCテイマーだもんね」


 ぐっ……! とうとう身内からも弄られ始めたな!


 そのNPCテイマーだが、公式が今回のバトルロイヤルの勝利者の結果を公式サイトに載せていたのだが、その際にプレイヤーネームの隣に二つ名のようなものが付けられており、そこに何故か記載されていた。


 元から『大魔女』や『破壊僧』、『殲滅姫』という二つ名を持っていたシグねぇたちはともかく、今回ようやく日の目を見たレンの場合は『神速』というカッコいい二つ名を貰っていたのに、何故か俺は『NPCテイマー』である。……いやなんでだよ!


 お陰でここまで来る間にも、多くのプレイヤーから『NPCテイマーさん』と呼ばれるようになってしまった。まぁ、あのアナウンスや公式サイトに記載された注意によって、俺に色々なことを無理やり聞いてくるようなプレイヤーが居なかったのが幸いだったが。


 同時にミュアがNPCではなく、NPC扱いにも従魔扱いにもなる特殊使役キャラであるということが、一応公式サイトでハーフエルフという種族に関する注釈とともに記載された為、ミュアの事では特に大きな騒ぎにはならなかった……と思う。


 理由としては、特殊使役キャラに関して今後のアップデートで全プレイヤー向けに開放される予定であるという旨が記されており、おこらくはそっちの方に注目が集まっているからだろう。


 まぁ、その全プレイヤー向けに開放されるのは、主にプレイヤーハウスを所有しているプレイヤー向けのハウスキーピング的なキャラらしい事も書かれていたのだが。


 戦闘もできるような特殊使役キャラは本当に特殊な例になるのだろう。ぶっちゃけ、戦闘できるNPCなら普通に冒険者NPCなりを雇えばいいだけだしな。


 そして、従魔としても契約するのであれば、ミュアのハーフエルフのように、ヒト種族に近しいがヒト種族ではない特殊な種族である必要があるため、また条件が難しくなる。つーか他には流石にいないだろ。


 まぁ、俺もそういうキャラやモンスターを今後テイムすることはそう無いだろうから、気にする必要も無いか。


 俺はノクターンとコルヌを引き連れて屋内広場にある受付の方に向かっていく。


 この広場に預けた従魔を再度連れ歩く際には、ここの広場の受付であるNPCに話しかけて、従魔を引き取る必要がある。特に預けるのに料金はかからないのだが、一応の管理のために行っているらしい。


 今日この広場の受付をやっているのは、お下げ髪の幼そうな容姿の少女、ジーニャのようだ。エルフ族なのに小柄で、なおかつモンスターが好きすぎて使役獣ギルドの職員になったという(この世界の世間的には)変わり者らしく、グレイや実際に会わせてはいないがカリュアのことを伝えると目の色を変えていたな。


 容姿はかなり幼げというか、見た感じだと中学生にしては平均的な容姿のハルやユキと同じくらいの見た目をしているが、設定上は俺たちよりも上の歳のようなので、あまり幼そうとか言ったら好感度がガクンと下がるらしい。俺も一度それで下がったが、グレイやゼファーたちのお陰でトントンになったという形だ。


 因みにNPC好感度スレでは当然のことながらNPCテイマーの存在が挙げられており、NPCたらしとしてかなり妬まれているらしい。そして、今回のイベントの結果で、NPCテイマー=俺という等式が成り立ってしまったことから、その掲示板ではかなり炎上しているらしい。俺が。


 流石に怖くて俺は直接見てないが、レンがさっき移動中に覗いてくれた。それはもう大炎上ということだった。怖っ!


 俺や知り合いに危害がなければいいのだが、先程のアンビーのアナウンスもあることだし大丈夫だ ろう。とはいえ、メンテナンス中に少しでも熱りが冷めてくれることを願う限りだ。


「あ! こんにちは、ユークさん! ノクターンくんとコルヌちゃんの引き取りですね」

「あぁ。お願いします」

「はーい! あ、今日の来訪者同士のバトルロイヤルの結果、見ましたよ! 勝ち残ったんですってね! おめでとうございます!」


 挨拶ついでに話をしていると、早速今回のイベン トの事をジーニャが祝ってくれた。


 おや、NPCも祝ってくれるのか。まぁ、アドミスやメリッサたちも祝ってくれてたし、知り合いなら祝ってくれるのかもしれないな。


「ありがとう。まぁ、グレイたちのお陰だよ」

「ホントですよね! まさかミュアさんがハーフエルフさんだったなんて思わなかったですし、ゼファーちゃんも凄かったですよ!」


 因みにジーニャは前述の通り、ゼファーの存在は知っている――というか、ケイル同様に俺が精霊と契約していることを直感的に理解していた。


 そういえば、さっきの確認の際にメンテナンスの情報が更新されていたので見てみたら、従魔士を始めとした人間族限定のジョブの習得条件が緩和されて、一部のジョブに関しては普通に他のヒト種族にでもつけるようになるらしい。


 種族変更チケットでその種族につけないジョブに習得していた場合はどうなるのかという質問が運営に向けて出された結果、その場合はジョブ変更をしない限りはそのジョブのままになるという話にはなっていたのだが、その中でも一部のジョブに関してはジョブ変更をしたとしても、どの種族でもつけるようになるように仕様変更されることとなったらしい。


 まぁ、相変わらず人間族以外の種族限定ジョブはその種族以外はつけないのだが、仕方ないだろう。


 これで普通にエルフ族従魔士や竜人族従魔士が出てくることとなるので、ますます従魔士熱が高まりそうな予感がする。


 そして、おそらくはその仕様変更後、目の前のジーニャは従魔士になっていることだろう。前に話をしててなりたがっていたし。うん、楽しみだな。


「そういえば、ギルドマスターがユークさんにひと目会いたいって言ってましたよ。今日はお疲れでしょうから、都合がつくタイミングで私か他の受付の子に教えてくださいね」

「えっ? ギルドマスターが? ……俺に?」


 何でも精霊やハーフエルフ、ドライアドと契約した従魔士なんてそういないらしく、その上今回のバトルロイヤルの戦績を知って興味を持ったという話だったらしい。


 まぁ、ギルドマスターなんて早々会うことなんて無いだろうと思っていたが、予想外に向こうから接触をはかって来たようだ。


「へぇ、ギルドマスターから直々に会いたいって言われたの、プレイヤーじゃユークくらいなんじゃねーの?」

「いや、サザンカさんとかサイモンさんは普通にはじまりの街の生産者ギルドでギルドマスターに会ったって言ってたぞ」


 前例は普通にある。他にも『クロノス』のチームリーダーとかも呼ばれていたらしいが、特に会ったって話は聞いてないな。


 今回は専門ギルドなので、冒険者ギルドや生産者ギルドよりは会う難易度的には高いのか低いのかはよく分からないな。


「……で、そのギルドマスターってなんなの?」


 ふと、リーサがそのギルドマスターという存在に対して疑問を呈する。確かに普通にプレイしていたら会うことはしばらくなさそうだしな。


「ギルドマスターはその名の通り、ギルドの代表者ですね! それぞれのギルドを統括的に管理する役割の役職です。ここ使役獣ギルドのギルドマスターは、従魔士系のジョブでギルドランクがAランク以上の元冒険者が条件となっています。まぁ、ここで一番偉い人、という感じですね!」


 そんなリーサの疑問に対してジーニャが丁寧に答えてくれる。まぁ、概ねその通りで問題はないだろう。


 どんな人物なのかは会ってみないと分からないだろうが、まぁ使役獣ギルドを束ねている人物なのだ。きっと従魔や使役獣に優しい人なんだろうな。


 そしてこういう系のイベントにはしっかり顔を出しておくのが一番だ。何かしらの強化があるかもしれないしな。なので、答えは決まっている。


「取り敢えず、色々あるから落ち着いたら顔を出させてもらうよ」

「はい! ギルドマスターにはそう伝えておきますね!」


 そして俺たちはジーニャに別れを告げ、使役獣ギルドを後にするのであった。

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