後の祭り

 その後、俺たちは未だ活気冷めやまぬ第二の街の中を進んでいく。特にコロシアムの付近は元から歓楽街だったのか飲食店や商店が多く、そこに出店がたくさん出ている感じとなっている。


 とても楽しそうな雰囲気が伝わってくるので、俺もついつい浮かれてしまう。


「よし、それじゃあ色々見て回るか! 結構、出店とか色々あったし、食べ歩きも悪くないな!」

「オイラ、色々食べたいぞ!」

「そうだな、今回のでゼファーも表立って外に出れるし、色々食べような!」

「おー!」


 ゼファーもまた、今回のバトルロイヤルで存在が明らかとなったことでエルフ族を中心に精霊の存在が話題になったものの、シグねぇとナギサの二人が俺が教える精霊の泉の情報をエルフ族スレに載せると宣言したことで落ち着いたらしい。


 まぁ、俺の手を離れたものがどうなろうと、俺の知ったことではないし、ゼファーも特に気にしてないようだから大丈夫だろう。


 結果として、ゼファーは精霊として人々に認識されたことから、普通に姿を隠して移動しなくても良くなった。まぁ、可愛いから触らせてと言ってくる女性プレイヤーも多い。本人がそういうのを拒んでいるので、断ってはいるが。


 ミュアはうまいもの食いまくると宣言している俺らを見てクスクスと笑っていた。レンはため息一つついて俺に忠告をする。


「やれやれ……一応夜にも祝賀会やるんだぞ?」

「それはそれ! これはこれ! どうせ腹は満たされないんだから問題ないだろ!」


 メンテナンス後に空腹度が実装されると、同時に満腹状態も実装されて何でもかんでも食べられなくなるらしいので、こうして暴飲暴食できるのは今日限りとなる。


 勿論、空腹度関係なく食べることができるようになるアイテムなども実装されるらしいが、流石に作り方も分からないし、買うとなればかなり高くなるのは確かだろう。


 そんな俺らの様子を見て、仕方ないなとレンとリーサは笑いながらため息をつくのだった。


「まずはあそこの焼き串だな!」


 俺がまずいい匂いをさせている焼き串の屋台に向かって走っていくと、そこには見覚えのある顔があった。


「お! ユークの兄ちゃんじゃねぇか! 久しぶりだな!」

「あれ、セドリックに……パトリックか!?」


 そこにいたのは瓜二つの風貌をしたいかつい男が二人。はじまりの街で焼き串の店を営んでいたセドリックとパトリックの兄弟だった。


 なんでこんなところにいるのか――と思えば、普通にお祭りだから出張って来たらしい。まぁ、儲けそうなところには足を運ぶってのが露天商みたいなもんだからな。


「おうおう。やっぱり、オメェさんただモンじゃなかったみてぇだな。来訪者のバトルロイヤルの噂はすっかりこの街に広がってるぜ」

「それどころかはじまりの街の方にも闘技系の話題は広がるからな。ユークの兄ちゃんの話は向こうの方でも広がってるはずだぜ」


 パトリック、そしてセドリックが互い違いに話してくれるが、どっちがどっちなのか分からなくなる。

 一応、俺のことを「兄ちゃん」呼びする方がセドリック……の筈だ。


「今日はお祝いだ! オメェさんたちの分は特別にタダで提供してやるぜ!」

「その代わり、俺たち兄弟の焼き串をアピールしてくれよな!」


 そう言って、二人は俺たちにどっさりと焼き串を提供してくれた。この焼き串の味は俺が初めてこのゲームで味わった物だからな。格別だ。


 ゼファーもこの焼き串はお気に入りだったようでとても嬉しがっていた。


 グレイは……そういえばこの前は与えてないから今回初めて食べるのか。取り敢えず満足そうに食べているので良かった。


「はぁ〜……可愛い女の子だけじゃなくて、普通に無差別なのね、 NPCたらしって」

「おいリーサ!? なんか変な誤解生むからそういうのはやめて!?」

「ハハハ。まぁ、【友好化】様々って奴だな」


 そう、俺がNPCにここまで好意的に見られるのはやはり【友好化】のアビリティ効果が大きい気がする。


「……実際、【友好化】の評価って今どうなってんの?」

「俺が最初に見たときは、大して大きな効果は無さそうだけど少なからず恩恵はあるから、ランダムならアタリでもハズレでもないって感じの評価だったな。……ただ、お前を見てると結構副次効果がデカそうだし、もしかしたら今後始めるプレイヤー向けのサイトとかだと結構上位に上がってきてるかもしれないな」

「まぁ、戦闘には直接起因しないからなぁ……。でも、わりかしこの手のゲームだとあって損はないと思うぜ」


 結果として、NPCとの出会いで色々イベントが発生したわけだしな。


「惜しむらくはゲーム開始後に習得不可能ってところだな」

「それだけど、ホントに習得不可能なのか? 先の方とかで開放されるとかじゃないの?」

「うーん、ぶっちゃけNPCの好感度が上がりやすいって効果なら序盤のほうが恩恵が高いから、先の方で開放されるってのは無さそうだと思うぞ?」


 レンの言うことは尤もだ。先の方であればそれだけNPCと触れ合う機会は多いはずなので、その間で幾らでも好感度を上げる機会は存在する。


 この【友好化】の効果が一番発揮するのは序盤のほうである。例えば、イアンの防具店なんてその際たる例だろう。正直、先の方で【友好化】が手に入って仲良くなっても、その頃にはイアンの店を紹介されても防具は売ってもらえないし、プレイヤーメイドの防具の方が性能がいい場合がある。


「まぁ、そんな難しい話は置いておいて、今は祭りを楽しむわよ! 向こうにアクセサリーのショップがあるから見に行くわよフィーネ!」

『畏まりました、マスター』


 俺たちの話題を無理やり断ち切って、リーサとフィーネは先の方にあるアクセサリーショップへと向かっていく。


 俺とレンは小さくため息をついてそんなリーサの後を追う。そんな俺の後ろからミュアと従魔たちは仲良く連れ立ってついてくるのであった。

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