三度、イアンの防具店へ
はじまりの街の東門に向かう通りにある露天を見ながら、回復アイテムを売る生産プレイヤーを見て回ったのだが、俺が思う以上にアイテムを売るプレイヤーは多かったのだが、その大半があまりアビリティレベルが上がっていなかったり、クラス1のジョブだったりするのか、お世辞にもあまり良いものを売っているという印象はなかった。
というのも、それなりの腕を持つ生産プレイヤーは例の『クロノス』主催によるキャリーによってその多くが既に第二エリアに移動してしまっているらしい。適正レベルになっていなくても、まだ第二エリアの方がアイテムの種類が多いため、生産の機会は増えるし、それだけ生産職はレベルが上がりやすいということになる。
勿論、アビリティレベルやジョブクラスなどに見合っていないアイテムを使って生産を行おうとすれば失敗する確率はかなり高くなるのだが。……リーサの場合は特例である。
そんな中、ふと香ばしい匂いが漂ってきたのでその方角を向くと、そこにはセドリックの焼き串屋があった。はて、セドリックの店は西門の方だったような気がするのだが。
「……セドリック、だよな? なんで東門の方に店を出してるんだ?」
「あぁン? 何だテメェ、セドリックのやつを知ってんのかァ?」
あ、これ顔はそっくりだけど別人のパターンだ。態度が違う。
聞けば彼はセドリックの双子の兄のパトリックというらしい。兄弟揃って焼き串屋をやるとは、なんというか仲良いのか悪いのか分からないな。
あっちは謎肉の串だったが、こっちはそこに野菜を挟んだバーベキュー串みたいなものになっている。匂いは同じなので、おそらく味付けは同じだろう。
ナサとリリー、ついでにミュアといつの間にか起きていたゼファーが食べたそうに見つめていたので、取り敢えず人数分購入した。あちらが一本あたり150FGだったのに対し、こちらは200FGだ。オマケもしてくれなかった。残念。
「ハハハ、オメェがセドリックが言ってたおもしれぇ兄ちゃんか! 聞いたぜ、イアンの店に2回も行ったんだってな。あの堅物に気に入られるたァ、なかなかやるじゃねぇか」
「いや、たまたまだと思うけどなぁ……」
そもそも2回目はリーサの装備を手に入れるために行ったので、俺にはあまり得られるものはなかった。まぁ、イアンの姉が他のエリアにいるという情報が手に入ったのは得たものになるのかな?
「そういやそこにいる嬢ちゃんは初心者か? だったら今、ちょうどイアンが居るから顔を出してみるといいぞ」
パトリックが自分で焼いてた串を頬張りながらナサを見てそう呟く。店の商品のはずだが、食べちゃっていいんだろうか……。
しかし、良いことを聞いた。イアンが居るのならそこでナサの装備を揃えることにしよう。目指すのは錬金術士だから、INTとDEXとMPを上げればステータスの条件やジョブで必要となるステータス値は稼げるはずだ。
「じゃあ俺たちはイアンの店に行くことにするよ。串、美味しかったよ」
「おう、ありがとうな! セドリックの店にもちゃんと顔だしとけよ」
そうして俺たちはパトリックの店から離れて、イアンの店へと向かうこととなる。まぁ同じ通りだから、通りを外れればすぐ向かうことができる。
金は俺が肩代わりしてやってもいいだろう。本人は俺のチームに入る気満々みたいだからな。まぁ先行投資だと想えばいいだろう。
目的地となるイアンの防具店が目の前に現れる。明かりが灯っているため、勿論中にいる。まぁ、知ってるから来たわけなんだが。入り口の金具を叩きつける。
「……入ってこい」
イアンの返事が聞こえたので俺たちは、中に入っていく。相変わらず乱雑に積まれている防具を見て、各々の反応を見せる。
その装備の性能を見て驚くリリーと、何だかよくわからないけど凄そうと思っているであろうナサ、そして店自体にあまり入ったことがないであろうミュアはその品揃えに驚いている。
ゼファーは前回寝ていた為に初めての光景にキョロキョロしている。グレイは、申し訳ないが外で待っていてもらっている。どうやら設定で獣の類は入れないようになっているらしい。
「……またお前か。俺の店に3度も来る奴は、昔からの知り合い以外で初めてだぞ」
ハハハ。3回も来ればもう知り合いみたいなもんだろう? どうせ今回も俺に買える防具はないんだろうしな。
「取り敢えず、今回はこの子が来たばかりだから適当な防具をお願いしてもいいか? 金は俺が支払うから、取り敢えずINTとDEXとMPの3つが上がる装備で頼む。錬金術士を目指してるからな」
「…………今回は注文が多いな。ちょっと待ってろ。錬金術士か……」
そう言って店の奥に向かうイアン。そんな様子を見てリリーが俺の方に近づいてくる。
「あの、お嬢様の装備だったら、お金は私が払いますよ? 一応、ゲーム内通貨を課金して手に入れたので、お金はあります」
「かなり金持ってるなって思ってたけど、課金してたのか。あんまりゲーム内通貨への交換は割に合わないからやめたほうがいいと思うぞ?」
「いえ、『お布施』だと思ってるのでぜんぜん大丈夫です!」
お布施? まぁこのゲーム、課金要素がそこくらいしかないから、好きなゲームに対してのお布施って意味なら分からなくはないかな。
銀鎧装備とか服飾装備も、課金して得たFGを元手に買い集めたらしい。おかげで今月のお小遣いはほとんど無くなったらしいのだが。
まぁ、本人がそれで満足しているのなら、俺がとやかく言うことではないが……。親からなんか言われても俺は知らないからな?
「……そ、そうか。じゃあ今回はリリーに任せるよ。取り敢えず、ここなら初心者にはかなり良い防具を揃えてもらえるから安心していいと思うよ」
「そうなんですね! うーん、私も買いたいですが、先程からの反応を見るとホントに初心者向けの防具店なんですね」
「イアンが頑なに売ってくれないからな。そこの上下の防具とか結構良さげなんだけどな。割と普通に欲しい性能だ」
「どれどれ……? あ、確かに! これなら普通にプレイヤーメイドの防具に引けを取らないですね!」
俺が指を向けた方にあったのは、ちょうど今装備している『灰狼の革鎧』の上下によく似た胴体防具と脚防具が飾られていた。
『宵白狼の胴鎧』と『宵白狼の脚鎧』という名前で、そのステータスは両方ともINT+40にVIT+40とあって、マイナス補正がHP-20となっている。装備可能レベルは28だ。
宵白狼がなんのモンスターなのかは分からないが、もしかしたらアッシュウルフの進化種の素材なのかもしれない。アッシュウルフの進化種は第一エリアには現れないらしいが……。
「……ほう、やはりお前はそれに目をつけたか。わざわざ目立つところに置いておくものだな。そうだな、それならお前に売ってもいいぞ。久々に出来たかなりの自信作だ」
「えっ、マジで?」
ナサに向けた防具を一通り持ってきたイアンが俺が良さそうと言った防具を一瞥して、売ってやってもいいと言ってきたのだ。
あの初心者向けの防具しか売ってくれないイアンが俺にまた防具を売ってくれるというのか?
「その代わり、素材を隣の街から取り寄せたから値段はそれなりにすると思え」
「まぁ、俺の金もそれなりにあるから大丈夫だろうけど……」
まさか売ってくれるとは思ってなかったので驚いてしまったが、ここでまさか戦力強化できるとは思ってなかった。
もし、阿修羅巨像の魔杖と一緒に強化してもらえれば、更にステータスが上がるだろう。装備変更することで今よりSTRとHPが減ってしまうのがやや気になるところだが、まぁなんとかなるだろう。
取り敢えず、俺はナサたちに断りを入れて、ナサの防具の確認の前に自分の防具の購入を先にする。料金を支払ってから2つの防具を受け取る。思っていたよりは普通に高かったので、少し焦った。
ナサの防具の支払い、リリーに任せる形にしておいてよかった……。
「さて、そこのお嬢さんの方だが……取り敢えず前に来た子と同じで俺の姉の防具を幾つか用意した。一部は俺の作ったものも入ってるが……とにかく確認して良さげなものを選んでくれ」
リーサのときのようにイアンの姉が作った防具が入っている。それにしてもかなり量が多い。
かなり具体的な注文をしたのでてっきりある程度まとめてくるのかと思っていたが、各部位で2〜3個ほど準備されている。それぞれステータスの数値が微妙に違うので、ここから最適な防具を選べということなのだろう。
取り敢えずリリーとミュアにはナサの育成方針を伝えて、一緒に考えてもらうことにした。
さて、どう選ぼうかな?
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