第二エリアへ

 深緑の寝床と次のエリアとの境界線。俺たちは全員横並びでその前に立っていた。


 この先に進めば第二エリアへと足を踏み入れることとなる。基本的にここから先に踏み込むとここに通じる道は閉じられ、後戻りはできないようになっている。第一エリアには、市街地エリアに辿り着いてから噴水ではじまりの街へと転移するか、開拓の村に着く前に死に戻りするかとなる。


 因みに第二の街まで辿り着けば、その日最初のログインに限り、はじまりの街か第二の街か選択できるようになる。プレイヤーハウスがあればそこにプレイヤーハウスが追加される(プレイヤーハウスは毎回のログインで選択可能となっている)。


「はぁ〜……まさかガセネタだと思ってた激昂個体を引き寄せるとはなぁ……やっぱりよく分からん状態でイチから攻略するってのは最ッ高に楽しいな!」


 感嘆の意を顕にしているのはレンだ。結構感慨深い様子だ。まぁ、確かに最初から攻略方法全部知った上で戦うのと、自分たちで手探りで攻略法を見つけながら戦うのだったら、後者の方がやってて楽しいよな。


 レンも俺が出した隠しクエストやらリーサのレベリングやらに付き合わせたせいで自分がやりたかった冒険ができなかったかもしれないし、いいフラストレーションの開放になったのではないだろうか。


 まぁ、結果として色々手を貸してもらってばかりだったから、今後レンが何かしらやりたいと言ってきた時はできるだけ手を貸すようにしないとな。


「不思議……私、記憶だとほとんど草原でスライムを倒してたような記憶しかないわ」

『マスター、スライムではなくスライミーですよ』


 リーサはまた昨日のレベリングのことを思い出している様子。どれだけ過酷だったんだと思ったのだが、レンに目線を向けるとそっぽを向いてしまったので分からず終いだ。


 因みに第二の街まで辿り着いたらフィーネ以来の人形製作の方に取り掛かる予定らしい。その時は『コンチェルト』で人形作りを実行するフィーネの姿が見られるかもしれないな……。


「……この先にはまだサイモンさんも行ってない。そして未知なる素材があるわけね……腕が鳴るわ」


 サザンカさんはゲーム内での師であるサイモンさんよりも先に第二エリアに向かえること、そしてそこにあるであろう未知の素材に心躍らせている。サザンカさんには我がチームの武器の強化や鎧系防具などを充実させる為にも頑張ってほしいところだ。


 サザンカさんは先程の特典で追加入手したアビリティポイントを使って【裁縫】の技能アビリティを取ることにしたらしい。師であるサイモンさんと同じような方針みたいだが、どうやら彼女なりにどういうスタイルにしていくのかは既に考えているらしいので、それがどういうものなのかを実際に見せてもらえる時を楽しみにしたい。


「……ねぇ、私ほとんど最初の場所の冒険してない」

「そうですね。第二の街に辿り着いたら、私達ははじまりの街に戻りましょう。それから、鉱山の村やルプス牧場に行きましょうね」

「……牧場! ねぇ、牛とかいるのリリー?」

「えーっと、確か居るはずですよ? ブラックラウドカウって名前だったはずです」


 ナサに至っては昨日の夜から始めたのにもう第二エリアという流れになってしまったので、第一エリアにある様々なスポットを見ることができていない。なので、取り敢えずいつでも戻れるようになる第二の街に辿り着いたら再びはじまりの街へと戻る予定にしている。


 リリーはそんなナサに付き添う形で第一エリアに戻るようだ。彼女の場合、ナサのお目付け役という立場もあるし、彼女がいなければナサもまともにフィールドエリアを歩くことはできないだろう。


 そんな彼女たちが行こうとしていたスポットの一つであるルプス牧場には俺もまだ行くことはできて無かったので、運営イベントやメンテナンスが終わったら戻って見に行こうと画策している。


 牧場主との好感度が高まるとモンスターを譲ってもらえるイベントが発生するらしいので、どんな従魔を仲間にできるか楽しみだ。


「さて、俺はこのゲートを通る必要は無いから、ここらへんで別行動にさせてもらおう。……ちょうどフレイも戻ってきたみたいだしな」


 少し離れた場所にいたケイルは上空から現れた火の鳥の姿をした精霊フレイが自らのもとに舞い降りてくるのを確認し、そう話す。


 てっきり一緒に着いてくるのかと思っていたが、やはり別行動になるか。メニューを確認したら既にケイルは俺のパーティーから抜けていた。


 因みに契約後の姿を見ていた俺以外のメンバーは突如現れた精霊に驚きの声を上げている。まぁ、ゼファーよりは断然精霊らしい雰囲気が出ているから仕方ないといえば仕方ないのだろう。


「そうか、寂しくなるな」

「フン、そこまででもないだろうに。まぁ何かあった時にはアドレスを使え。……もし暇なら足を運んでやるよ」


 そう言って俺たちが進もうとしている道とは別の方向に歩んでいく。ホントにここを通らなくても別のエリアに行けるんだな。


 なんか色々付き合わせてしまったみたいで申し訳ない気もあるが、本人も満更ではなさそうだったので良しとしよう。ありがとな、ケイル。


「……さて、俺たちはここから第二エリアへと足を踏みいれる! 準備はいいか?」


 俺がそう問いかけると、全員がゆっくりと頷く。もう大丈夫みたいだな。


 俺はその頷きを確認して、まず代表として足を踏み入れる。その動きに合わせてレンたちやミュアも光の中へと足を踏み入れる。


 その瞬間、目の前が光に包まれることとなった。






 ――第二エリア『導きの草原』


 次に俺が目を開いたとき、そこは森を抜けた出口だった。


 その眼下には広大な平原が広がっており、その中央付近に街の中心に大きくコロシアムが存在する市街地エリアがある。距離が遠いので小さく見えるが、実際にはかなり大きいだろう。


 その向こうには森林エリアよりも鬱蒼としている様子の密林が広がり、その密林の右隣には険しい山脈が広がっている。また、密林から左にかなり離れた方には霧がかっているものの湖らしきものが見える。


 全体的に第一エリアが平坦な感じだったのが、こちらは立体的な雰囲気がある。


 何にせよ、この光景は圧倒的だ。はじまりの街から草原エリアに出たときは違う意味で圧巻していたが、それよりも遥かに幻想的な光景が広がっている。


 もしもこれで空にドラゴンでも飛んでいたら、最高にファンタジーってところだが、残念ながら現時点でドラゴンは未確認モンスターとなっている。


「さて、取り敢えず下に降りて開拓の村に向うことにしよう。そこで一泊して翌朝から昼にかけて第二の街に向かうか、簡易テントを購入して道中のセーフエリアでログアウトしてから朝のうちに第二の街に着くかの二種類あるんだが、ユークはどっちが良さそうか?」


 第二エリアのことについて調べていたであろうレンからニ種類の提案を出される。


 ここから一番近い開拓の村にも結構歩くことになるため、辿り着くとしても昼過ぎとなる。


 そこから第二の街には少なくとも8時間近くはかかるため翌日に一気に向かうか、また簡易テントを使って途中ログアウトを挟んでから朝のうちに再出発して到着することも可能らしい。


 因みに昼から出発して夜のうちに到着しても、初めて街に入る場合には検問を受ける必要があるらしいので、どの道泊まらないといけないらしい。そして、第二の街の周辺は普通にセーフエリアがないので、結局遠くのセーフエリアでログアウトしなくてはならないらしい。


 なお、宿泊キット自体は開拓の村で昨日、プレイヤーの誰かがNPCとの交流の末に入手できたようで、以降は普通にNPCのショップで売られるようになっているらしい。


 効果は一度きりのセーブポイントを作れるアイテムと言ったところか。これを使うとフィールドエリアでログアウトしても宿屋などで宿泊した時のような回復効果が得られ、またアバターも残らないのでログアウト中に死に戻るということもない。


 野外でずっと行動する場合にはほぼ必須級となるアイテムだが、ネックとなるのはその値段であり、使い切りアイテムなのにかなりの値段となっているらしく、少なくとも複数個を買い揃えるのは懐的に厳しいものとなっているようだ。


「うーん、まぁ取り敢えずまずは開拓の村に到着するのが先決だろうな。辿り着く前に死んでしまってまた森林エリアからやり直しは結構キツイ」

「まぁ、それは確かにな」

「取り敢えず到着してからみんなの予定を聞いて決めるよ」

「オッケー。了解だぜ、リーダー」


 なにはともあれ、まずは誰も死に戻らずに開拓の村に向かうことが最優先となる。その後の話はその時に決めればいいだろう。


 その後、俺たちは第二エリアから新たに出現するようになったモンスターとも出会うことはなく、ただ群れで出現するようになったホーンラビットやアッシュウルフとの戦いを幾度か繰り返した末に、無事に開拓の村へと辿り着いた。


 時刻も昼の1時を過ぎようとしていたところだったので、取り敢えずここで一度昼休みとして解散することとなった。


 その際に先程レンに提案された第二の街に行く方法をメンバーに聞いてみたが、やはり全員夜のうちに移動し始める方を選択した。まぁ、金は俺とナサ以外はある程度余裕があるので何とかなるだろう。リリーは普通に課金してそうで怖いが。


 そして、全員で集まるのは夜の8時以降となった。理由としては普通にレンとサザンカさんに用事があったからだ。レンは昼の間にゲームができないことをすごく悔しそうにしてた。でもまぁ、実家の商店の手伝いなんだから仕方ないよな。


 それまで一応自由行動となるが、おそらくリーサやナサはプレイしないだろうし、また一人で時間を潰す必要がある。あと、集合時間前には一度ログアウトしておかないと、うっかり強制ログアウトしかねないので気をつけよう。


 俺は、従魔同時ログアウトで騒ぎになったことをふと思い出し、ミュアにゼファーとグレイの事を任せてからログアウトすることとなった。


 取り敢えず、間の時間の事は昼飯を食ってから考えることにしよう。




 ――――――――――――――――

※次回は別のチームのお話です。


(9/12)昨日更新分でのレンの称号の数について、リーサと一緒に戦ったエンペラースライミーの称号を入れ忘れていたので、個数を変更しています。

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