孤児院と迷惑料

 鉱山の村、異種族孤児院に辿り着いた。


 相変わらず人避けの結界は効果があるようで、誰一人として周囲に人はいない。


 そんな中で、庭に入る門の側には人影が。


「……オヤジ!」


 ケイルは門の側で待っていた院長エルフことケイリスに向かって駆け出す。父親はそんな息子を暖かく出迎える。


「よく戻ってきたな、息子よ! そして、感謝するぞユークくん。精霊姫を救ってくれて」


 その言い振りだと、やっばりケイリスはミュアの正体を知っていたのか。まぁとか言ってたくらいだ。誰が飛ばされていたのかというのは知っていて当然か。


「あぁ、精霊姫ミュア様よ。御無事で何よりだ。もう夜分も遅い、今日はここに泊まっていくといい。うちの子供たちも歓迎してくれるだろう」

「えっ? いやでも、私はユークさんと契約しているので……」


 ケイリスからの申し出に疑問を抱くミュアにケイリスは『来訪者はこの地フロンティアに長くは留まれない』と説明してくれた。


 まぁ、幾ら長くても8時間経てば強制ログアウトしてしまうので仕方のない話だ。強制ログアウトになる前にログアウトして、そこから少し休憩すれば再度ログインすることは可能ではあるが、流石に俺にもリアルの健康とかを気にする必要はある。


 今回はこの孤児院に来る予定があったのでここに厄介になれるが、やはり宿に泊まるためのお金は必要かなぁ……。


「さて、ユークくん。これは今回のお礼だ。受け取り給え」


 そう言うとケイリスはお金が入っているであろう小さな布袋を俺に渡してくる。


 12万FGがどの程度かは知らないが、絶対こんな小さな袋には入りきれてないよな……。ゲーム的演出ってやつかな?


 その金額を確認していく。一応、アイテムを貰った扱いなので取引画面上に表示されるのですぐに分かる。


「ありがとうございます。……って、桁間違えてないです? 何か120万FGって表示されてるんですけど」

「ハッハッハ! 国の方に色々問い詰めてな。流石に精霊姫様に対し、行うべきこととそうでないことがある。精霊王様のこともあるしな。……まぁ、私達からの迷惑料の追加だと思って貰えばいい。それに、我が息子に良い機会チャンスを与えてくれたのだから、そのお礼も兼ねてな」


 ケイリスは優しい面持ちで茶目っ気たっぷりにウインクをする。どうやら精霊王との事、そしてケイルの上位精霊との契約の件も全て知っているようだ。ゲーム的演出だとしても、知りすぎだろこの人……。


 しかしこのお金の額だと……やはりフライ・ハイのメンバーには幾らか渡さないといけないな。うん。


 取り敢えず、ケイルの契約の件は確実な約束はできないことを伝えておく。


「よし、じゃあゼファーもここで泊まってくれ」

「うーん……おいら、ぶっちゃけ子供は苦手だぞ……」


 テンションだだ下がりのゼファー。まぁ前に来たときに揉みくちゃにされてたからな。


 流石に今回もそうなると大変なのでミュアにそうならないよう頼むことにした。


「はい! ユークさん! 絶対にゼファー様には指一本触れさせません!」

「あー、いや、あんまり子供たちを怖がらせちゃダメだからな?」


 どこぞの番人かの如くがっしりホールドでゼファーを守る宣言をするミュア。しかし、ゼファーのことを友と思って楽しみにしている子もいるのだから、そういう子を泣かしちゃダメだぞ。


 エミナちゃん辺りとはまた話をしたかったが、もう夜も遅い。俺もそろそろログアウトしたいからな。


 ケイルはアドレス――NPC版のフレンドコードのようなものだ――を俺に登録させ、明日ログイン来訪したときにいつから向かうのかを連絡するよう申し出てきた。


 そうか、NPCともフレンドみたいにチャットが出来る感じなのか。これも好感度や友好度が上がれば他のNPCからも貰えるのかな。


 よし、あとでミュアともアドレス登録できるのか確かめてみよう。【テレパス】は近くじゃないと使えないからな。


 取り敢えず、今日はここまで。明日に向けて俺はゼファーとミュア、そしてケイルに別れを告げてログアウトした。




 ――――――――――

(7/22更新分)『精霊王と精霊姫』にて、簡単にではありますが属性についての一部設定の変更をしています。まだの方は、ご確認下さい。


(8/29)強制ログアウトの件で一部加筆しています。少し休憩して再度ログインできるのは強制ログアウト前にログアウトした場合で、強制ログアウトの場合は3時間のログイン不可のペナルティが課せられます。

 また、強制ログアウト自体はダイブコネクト(ゲーム機)自体の仕様によるものなので、その他のVRゲームも起動できません。

 すこし説明不足な感じだったので加筆しました。

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