VSアンコモントカゲ
フロアボスが出現する第5階層。ここはそれまでの階層とは異なり、迷路ではなくフロアボスが待ち受ける戦闘エリアまで一直線の道となっている。その間にモンスターは出現しない。
先程までの戦いを見る限り、フロアボスもシグねぇ1人いれば十分なのかもしれないが、それでもみんなで挑むことに意味がある……筈だ。
ひとまず、フロアボスの戦闘エリア前のセーフエリアにて休憩を取る。HPやMPの回復は勿論だが、武器の耐久値の回復も必要となる。
特に弩弓はその火力故に発射機構が無茶苦茶らしく、取り扱う度に耐久値が大きく減少する為、高頻度で修復をしなくてはならず、気付いたら修復するというという習慣をつけなくてはならないという。気付いたときにはもう破損寸前だった、なんてことはホントによくある話らしい。
「弩弓はホント【簡易修復】がないと、やってられないレベル。その点、ロマンはあるけど」
「成程なぁ。俺が扱うとすぐにぶっ壊してしまいそうだ」
「へへー! その点、打撃武器は全然壊れないからなー! あたしのガントレットとか全然ビクともしないし!」
ハルの言う通り、ガントレットや俺が使ってる杖のような打撃武器の方は元から作りが違うのか、耐久値の減りも比較的緩やかだ。特にハルが使っているバトルガントレットの場合、元が防具というだけあって耐久値は格段に高い。まぁそれでも『フィーネ』よりはかなり低い。あれは完全に例外だから致し方ない。そもそも耐久値の消耗し易さも異なるので単純に比較もできない。
因みに斬撃武器は基本的に脆くはあるが、切れ味が悪くなる為に耐久値の減りが分かりやすい。切れ味が悪くなった程度の減りなら【簡易修復】ではなく、砥石などの使い捨ての修復キットで回復させる事が可能だ。まぁ使い捨てなのでアイテム消費が嵩むという難点はある。
【簡易修復】は基本的にメインカテゴリーにある武器種には使うことが可能となる技能アビリティで、スキルとアーツの2種類がある。スキルの方はMPを消費し、アーツの方は時間経過で回復する。今回、ユキはアーツの方を選択した。まぁ、ここまで飛ばしてきたから時間には余裕があるからな。
ミュアは弓の調子を見ている。あの武器はユニーク武器扱いだが、たまに弦が切れたりして一時的な破損状況になることがあるらしいので、ああしてメンテナンスをする必要があるようだ。まぁ、ミュアの場合は専用のアビリティが無くても自力で修復できるので、特に問題はないらしい。
同じように現実でその手の武器を扱っていれば【簡易修復】やその他修復系アビリティを覚えてなくても修復できるらしいが、実際のところはまだ良くわかっていない。俺の杖とかどうしょうもないしな。
ハルは回復も終わり、暇そうに小石を壁に向けて放り投げていた。
「なぁ、シグねぇ。フロアボスに関しては特に何も知らないんだけど、何か気をつけたほうが良さそうな感じ?」
俺も回復は済ませているのでグレイの体毛をゼファーと一緒にワシャワシャしながら、シグねぇにフロアボスについて問いかける。
シグねぇは俺の問いかけに、MPの回復のために行っていたであろう瞑想を中断する。
「うーん、そうねぇ……取り敢えず攻撃の前には必ず予備動作があるから、それが見えたらとにかく遠くに逃げる、って感じかしら」
「成程、結構大振りなタイプか」
予備動作がどれぐらいのタイミングなのかは実際に見てみないと分からないが、そこまで速くなければ問題はなさそうだ。
「取り敢えず、ユーくんは今回ダンジョン初挑戦だから、ボスはユーくんたちメインで戦ってみる? 私達は一応サブって形で」
「あ、それいいかも! ミュアたちとの連携もボス相手で練習したかったし」
そこでふとシグねぇからの提案が出される。
確かにセラミック・ゴーレムの時は一度攻略済みというのもあってあっさり勝ってしまったから、別のモンスターでどう戦うかを練習したかったので、その提案は渡りに船だった。
ハルとユキは戦いたかったようだが、シグねぇの提案だということで取り敢えず我慢してくれるらしい。
「とうだ、ミュア? 行けそうだと思うか?」
「そうですね……ユークさんのサポートがないので不安ですが、多分なんとかなると思います。危ないときは私がやっちゃいますから!」
「おぉ……心強いな……! よし、頼むぞミュア!」
「おいらも頑張るぞ!」
「ガゥア!〔私もです!〕」
おぉ、俺の従魔たちみんなやる気満々じゃないか。ゼファーもグレイも頼りにしてるぞ!
ミュアも現状ではNPC扱いだが、俺たちの連携には間違いなく協力してくれるだろう。こちらからサポートはできないのが不安と言ってたが、普通に強いので問題はないだろう。……大丈夫だよな?
そうして俺たちはフロアボスへと挑むこととなる。そのボスは戦闘エリアになるであろう開けた広間の中心に眠り込んでいる。かなり巨大なようだ。
俺たちが戦闘エリアに踏み込むと、それまで眠っていたであろうボスモンスターがムクリと立ち上がる。その姿は、巨大なトカゲだろうか。
頭上には『アンコモントカゲ』という名前が記されており、そのレベルは28となっている。
「キシュアアアア!!!」
空気が振り絞られるような音が響き渡ると、アンコモントカゲは勢いよく後ろ二足で立ち上がる。そして、威嚇のポーズだろうか。前足を顔の両側面に突きあげる。
「ユ、ユーくん! 予備動作!!」
「……あっ、これがそうか!」
ボーッとその動作を見ていたが、シグねぇの声でふとこれが戦闘中だということを思い出す。
そうか、これが戦闘中の予備動作か! 気付けばアンコモントカゲは目の前に伸し掛かり、押しつぶすような態勢で倒れ込んでいる。
慌てて後ろに後退したことで、攻撃寸前で避けることができたようだ。因みに俺以外の全員はそれより更に後方に移動して避けている。
「えっ、ユー兄さん……今の避けられるの?」
「すっげぇ! ギリギリ回避じゃん!」
ハルからはキラキラした目で見つめられ、ユキからはこの世の物ではない何かを見るような眼差しで睨まれている。何だこの対応の差は。
少しの間だが俺の戦闘を見てきたミュアが苦笑いしている。ゼファーとグレイはよくわかってなさそうだ。しかし、これくらいなら普通に避けられるよな?
シグねぇに問うが、あっさり否定される。
「いやいや、普通はあのタイミングで避けられないわよ。ホント、どれだけ反射神経がいいのよユーくん……」
「……そういうもんなの?」
「そういうものなの!」
そんな問答の最中も、アンコモントカゲは大振りの攻撃を繰り返していく。避けるのは簡単だが、その攻撃の範囲が広いために移動で結構スタミナが持っていかれそうだ。なるべくなら、早々に決着をつけたいな。
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