油断大敵
ミュアにアイコンタクトを取ると、ミュアは俺の方にヘイトが行かないよう矢を射始める。アンコモントカゲはミュアに向けて攻撃を繰り広げるが、ミュアも予備動作の間に避けている。
「よし、それじゃあ行くか! グレイ、『モンスターエンハンス・ストレングス』! ゼファー、『鼓舞』!」
従魔士のジョブスキル『モンスターエンハンス』を発動するとグレイの体に白い光が仄かに纏わりつく。このスキルの効果はモンスターのステータス強化だ。MP消費がやや高めだが、一定時間指定したステータスが1.5倍になる。現時点で使用できるのはSTR値を上げる『ストレングス』とVIT値を上げる『バイタリティ』となる。レベルが上がれば他のパラメーターステータスも上げることができるだろう。
次にゼファーに『鼓舞』をかける。こちらは一度きりではあるが次に扱うスキルやアーツの効果を高める。上昇量は従魔士のジョブレベルによって変動するらしく、元は1.2倍程度だったが、現在はジョブレベルが15になったので約1.9倍まで上がっている。どうやら奇数レベルで0.1ずつ上がるらしい。
グレイはモンスターエンハンスがかかった途端に、アンコモントカゲに向かって走り出すと、爪で攻撃したり噛み付いたりする。時たまに自主的に獣戦術アーツを使用しているようだ。
しかし、相手は物理耐性があるのか大してダメージを負っている様子はない。鱗が結構硬そうだな。それならば、ゼファーの精霊術がいいだろう。
「グレイ、下がれ! ゼファー、精霊術を使え! 『疾風の刃雷』だ!」
「グワゥ!〔了解です!〕」
「へへっ! 行くぞぉ、『
グレイは即座に離脱すると、ゼファーはその前に飛び出し、両手を前に付き出す。そして、スキル名を叫ぶと、その手の前に光が浮かび上がり、稲妻が渦巻いて『鎌鼬』のように刃の形を作り出し、それが一瞬にしてゼファーの手元から放たれる。
中々速度が速い。アンコモントカゲは避けようと身体を仰け反らせるが、雷の刃はアンコモントカゲの身体に引き寄せられるかのように移動する。成程、追尾性能があるのか。
そして、雷の刃はアンコモントカゲの後ろ左足に命中すると、焼け付くような激しい音が鳴り響く。雷属性は応用基本属性であるため、初期基本属性よりも属性効果が高いらしく、属性攻撃に弱いモンスターに対してはかなりのダメージを与えることができる。
その一撃でグレイの攻撃で微々たるダメージしか与えられなかったアンコモントカゲのHPの3割を減らすことができた。オマケにその命中した部位が焼け焦げており、どうやら火傷の効果を与えられたようだ。火傷には一定時間のスリップダメージ効果がある。アンコモントカゲは今、そのHPをジワジワ削られている。まぁ、スリップダメージだから微々たるものなのだが。
命中したのが脚なので、移動速度に影響が出ているようだ。動きが格段に遅くなる。
「よし、ミュアは霊弓術で攻撃してくれ! ゼファーは追加で精霊術だ! 『鼓舞』! ……グレイは俺と一緒に撹乱するぞ!」
「ガァウ!〔お任せを!〕」
磁器巨像の魔杖を構えてグレイと共にアンコモントカゲの近くに向かう。本当は従魔士だったら奥に控えて命令してればいいんだろうけど、やっぱり一緒に戦うとなると、こっちのほうが断然いい。後ろで見ているシグねぇたちが驚いている様子だが、まぁ気にしないでおこう。
殴りテイマーや魔法ぶっ放しテイマーみたいなスタイルも不可能ではないので、アルターテイルズはやはり面白いな。……俺はどっちつかずなのかな?
勿論、杖で殴ったところで大したダメージは与えられない。それこそ『横薙ぎ』からの『強力杖殴り』でも同じだろう(硬直が怖いので使わないが)。
それでもダメージを与えられないのは癪なので、時たま精霊術の『乱風の鎌鼬』を使って攻撃している。単発の『鎌鼬』より発生する風の刃が増えており、それでいてMP消費量自体はそこまで変わらないので、使い勝手は良くなったのだろう。ダメージは属性攻撃故か普通の物理攻撃よりは通りやすい印象だ。
魔杖を使っているのは、宝風剣だと精霊術以外の攻撃手段が無くなってしまう為である。【短剣術】を覚えるには面倒な技能習得イベントをこなさないといけない。そもそもリーチが短くて被ダメージが多くなってしまう。
グレイは元からAGIが高いためにヒットアンドアウェイの戦法で戦っている。念の為、途中から『モンスターエンハンス』の『バイタリティ』をかけておいたが、全く被弾する様子が見えないので問題はないだろう。
ミュアの霊弓術アーツやゼファーの精霊術で少しずつダメージが蓄積されていき、アンコモントカゲのHPが残り3割になろうとしていた。
そこでアンコモントカゲの動きが急に止まる。この様子は……特定HP以下になったときの特殊行動か?
「しまった! グレイ、ゼファー、下がれ!」
咄嗟に叫ぶが、次の瞬間にはアンコモントカゲがけたたましい雄叫びを上げる。地面ごと揺れそうな勢いに、思わず足が止まってしまう。広範囲のスタン攻撃が放たれたようだ。ゼファーは【精霊の息吹】の効果で何とか動けたが、グレイは完全にスタン状態になっている。無論、俺もだ。
アンコモントカゲはそんなグレイを狙って、勢いよく飛びかかってくる。レベルの差が高い上にHP減少で強化状態になっていたのか、想定以上のダメージを負うこととなり、一気にHPが削られる。
「グレイ! くそっ! 動け……!」
スタン状態から無理やり動こうとしてみるも解除されず、俺はただグレイが更に追撃を受けようとしている光景を見ているしかできなかった。
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(8/8)昨日付で『掲示板・従魔士専用スレ』を修正・追記しました。特に本筋には関係ない修正ですが気になる方はご確認ください。
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