満身創痍の決着

「――『ライトニングアロー』!」


 その時、突如として目の前を突き抜けていく閃光の矢が、グレイに追撃を仕掛けようとしていたアンコモントカゲを刺し貫く。


 その矢を放ったのはミュアだ。離れていた為スタン効果が俺達よりは弱かったのかそもそも効かなかったのかは不明だが、とにかく動ける状態だったので咄嗟に霊弓術アーツを放ったようであった。


「すまん、助かったミュア! ありがとう! ……グレイ、『緊急招集』!」


 その間に俺は『緊急招集』を発動してグレイを引き寄せる。そして既にこちらに来ていたゼファーに回復術の一つである『ヒールストーム』を使わせ、全員の消耗したHPを回復する。それでも前に出て戦うには心許ない体力ではあった。


 そして、回復と同時にゼファーはMP切れになったためにグレイの上に落ちてしまう。魔力欠乏の影響でしばらく動けなさそうだ。


 先程のライトニングアローで更にダメージを受けた事でアンコモントカゲも消耗し、動きが鈍くなっている。俺のMPも残り少なくなっていたので、この間にアイテムからMP回復薬を選択して使用することでMPが回復する。


 しかし、その回復量は初期の初期のアイテムであるためか、一回で30程度しか回復しない。いくらミュアが前にいてヘイトを集めているからといって、複数使用してる暇もない。


 すると、突然MPが使用したアイテム以上に回復し始める。何が起きたのかと思って背後を見ると、少し離れて戦闘を見守っていたはずのシグねぇが杖を掲げている。どうやら、何らかのスキルで俺のMPを回復してくれたらしい。


 まぁ、あぁ苦戦してた様子を見せられたら手を出したくはなるよなぁ……。一応、パーティー内ならステータスは確認できるし。


 しかし、これでを一発撃てるだけのMPは回復することができた。


「サンキュー、シグねぇ。でも、これ以上は手出しはさせないぜ!」


 さっきのライトニングアローによってミュアにヘイトが集中してしまった為、アンコモントカゲの攻撃はミュアに向かっている。


 予備動作は健在なので避けるのはそこまで難しくは無さそうだが、攻撃回数が増えた為に今度は攻撃ができなくなっている。しかも、このままのペースだと行動ゲージ切れで回避すら危うくなりそうだ。


 しかし、だいぶ俺たちのいる場所からミュアが居るところまで離れてしまっているようだ。


「――『あか突き』」


 俺は魔杖を顔の横に真っ直ぐ構えると、杖術アーツの一つである『赫突き』を使用する。AGIが上昇した状態になるので、これで全速力で走れば一気に追いつくことができるだろう。オマケに確定クリティカルだから、物理耐性がある敵でもそれなりのダメージは与えられるはずだ。クリティカルダメージに耐性は関係ないのだ。


 赫突きの欠点はアーツの発動から実際に効果が発生するまでに少し時間がかかるという点。だが、これはミュアがアンコモントカゲを引き付けているということで何とかなっている。


 ようやく効果が発動し、足が自然と動き出す。追尾効果があるので自動で敵であるアンコモントカゲに向かって走り出す。


 普通に走れば、走り続ける限り行動ゲージが少しずつ減少していくのだが、これはアーツなので発動時の消費だけとなっている。赫突きの取り扱い自体は難があれど、移動するのにはそれなりには便利なのだ。移動速度も速くなるし。


 そして俺は、アンコモントカゲが『疾風の刃雷』でダメージを受け、体表が焼け焦げて鱗が剥がれ落ちている箇所を狙って魔杖を突きつける。


「グギャオオオ!?」


 確定クリティカルをダメージを負っていた部分に打ち付けられるのはさぞかし痛かろう。


 ギュンとアンコモントカゲが俺の方向を見る。明らかに怒り心頭という様子だ。とはいえ、関係はないだろうがな。


 アンコモントカゲが攻撃の予備動作の間に魔杖から宝風剣に持ち替え、精霊術スキルの使用を脳内で選択する。


「――『緑精の大旋風』!」


 先程シグねぇのお陰で回復したMPのほとんどを消耗してスキル名を唱えてからしばらく、それこそアンコモントカゲの爪が俺の眼前に迫った瞬間、宝風剣に埋め込まれた宝石から緑色の光を纏った嵐が解き放たれ、瞬く間にアンコモントカゲを飲み込んでしまう。


 そのまま嵐によってあらゆるものが削り取られ、やがて上空から地面へとアンコモントカゲだったものは墜落する。これで終わりだ。


〈戦闘終了。蜥蜴の大皮×4、竜骨【小】×2、魔核【大】、『ジョブチェンジチケット』を獲得しました〉

〈経験値を獲得しました。レベルが1、上がりました。アビリティポイントとステータスポイントが付与されました〉

〈ジョブレベルが上がりました。アビリティ【従魔補正】のレベルが上がりました。スキル『モンスターエンハンス・インテリジェンス』を習得しました〉

〈ゼファーのレベルが上がりました。グレイのレベルが上がりました〉


 結局最後は連携もクソも無かったが、まぁ結果として何とか勝てたから良しとしよう。どのみち、ゼファーもグレイもミュアも満身創痍だ。


 レアアイテムの代表格であるジョブチェンジチケットをゲットしたが、今のところは使い所は無さそうだ。


 俺も緑精の大旋風で残りMPを全て使い切ってしまい、その影響でその場に倒れ込んでしまうが、そこにふと手が差し伸べられる。ミュアではなくシグねぇだった。

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