初フロアボスを終えて

「お疲れ様。予想外に苦戦したなって顔ね。……まぁ、普通に準備不足ってところかしら。もうちょっとランクの高い回復アイテムを用意しておいたほうがいいかも」

「あぁ、流石に痛感したよ。やっぱ、生産職プレイヤーの知り合いって大事なんだな」


 ユーリカの知り合いの調薬士然り、やはり安定して高ランクの回復アイテムを入手できるアテというものは必要なのかもしれない。特にはじまりの街でNPCのショップで買えるアイテムなんて、HPですら50回復するのがやっとなのだ。


 一つ上のランクの高回復薬、そして更に上のランクのポーション系アイテムなら100以上回復することができるので、流石にレベル20を超えたらこちらを使うべきなのだろう。そこら辺は特に考えずにNPCショップで買っていた俺の落ち度だろう。


 思えばレンも隠しイベントの前とかは普通にポーションを使ってたしな。


「ユーくんが良ければ、私の知り合いの生産職プレイヤーを教えるわよ?」

「えっ、マジで? めっちゃ助かる! じゃあ、ダンジョン出てから教えてよ!」

「わかったわ」


 その後、次の階に向かうための扉が開かれ、戦闘エリアとなった広間の入口近くに入口へと繋がるショートカットが開かれる。これで再度挑むときはまたアンコモントカゲから挑むことが可能となる。


 シグねぇの習得していた【神聖魔術】のスキルの一つである『ホーリーオーラ』が俺や俺の従魔、そしてミュアにかけられ、HPがあっという間に回復する。


 しかし【神聖魔術】といえば、はじまりの街にある教会で発生するイベントの中でかなりの難易度のものをクリアしないと習得できないものだと聞いていたが、それすらも習得していたのかシグねぇ……。


 どうやら、大魔導士のジョブ習得条件に術式系統の技能アビリティを3つ以上習得というのがあるらしいのだが、どうせなら後々でも使えるやつがいいだろうと【神聖魔術】を選んだらしい。


 もう一つは『エンハンス』系のスキルを覚える技能アビリティの【強化術】だとか。こっちの方は習得も簡単だし、効果はそこまで高くはないが対象が自分と味方と選べるので中々有用ではある。


 因みにシグねぇ曰く、【テイミング】も術式系統の特殊技能アビリティになるらしい。何故【従魔術】という名前にならなかったのは謎だが、同じ響きの【獣魔術】という獣人族専用のアビリティがあるので、それと区別するためだった……かどうかは不明だ。そもそも区切りやアクセントが違うわけだし。


「それにしても、流石ユーニィ! あんなギリギリで必殺技ぶっ放すとか、やるねぇ!」

「あんな至近距離まで動かずにいるなんて、正気の沙汰じゃない」


 同じく俺たちの戦いを見守っていたハルとユキは称賛なのか貶しているのかよく分からない褒め方をしていた。


 まぁ、あそこで攻撃受けても死に戻りするだけだからとは返事したが、イマイチ理解されない。確かに死に戻りしたら一定時間のステータス減少に所持アイテムや経験値の一部ロストがあるので、なりたくてなるものではないのは確かなのだが。


「……ユーくん、現実でも同じようなことをしちゃダメだからね?」

「え? 何言ってんのシグねぇ、そんなの当たり前じゃん」


 因みにこのゲーム、というかダイブコネクトを始めとしたワンダー・エクシレル社のVR機器ではログアウト時にゲーム内の出来事が鮮明に残らないように一部の記憶処理が行われている。フルダイブ式VRが普及し始めた時に、仮想空間を現実と勘違いしてしまうという問題が発生したためだと言われている。


 まぁ、それ以前に現実じゃあここまで動体視力というか直感とかが働かないだろうし、そこはゲーム内の効果なのかなとは思っている。


「ミュアっちも凄かったなぁ! いよいよヤバいってところであのライトニングアローは痺れるっ!」

「うん。あれは真似できない。流石はユー兄さんのパートナー」

「そんな、パートナーだなんて……」


 次はミュアを双子が褒め称えている。いいぞ、もっと褒めてやれ。でも、ミュアさん? なんでパートナーと言われて、頬を赤らませているんですか?


 そんな中、ゼファーが「おいらは? おいらは?」と聞いてきたので良くやったぞと褒めておいた。ついでにグレイもワシャワシャしておく。どっちもにまーっと顔が緩んで可愛いなオイ。


「……えー、コホン! さて、次のフロアに向かいましょう。目指すは10階層のフロアボスよ!」


 その後、シグねぇが場の空気を変えるために一度咳払いし、次のフロアへと向かうことを促す。まぁ確かに時間もそうかけてられないからな。


 次は第6階層だ。まぁ、シグねぇが居ればしばらくは手出ししなくても大丈夫かな?

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