待ち構えていた罠
俺とミュアはグレイに乗ってエリア外周部にあるアイテムが落ちているであろうスポットへと向かったものの、既にその時点である程度のアイテムが拾われていたのか、そこには障害物のあるフィールドが広がっているだけだった。
取り敢えずグレイに乗ったまま探してみたが、外から見える辺りには何かが落ちているような気配はない。
「うーん、やっぱり出遅れたなぁ……崩れる前に何かしら見つかれば良いけど」
「そうですね。取り敢えず、降りてから探してみますか?」
それもそうだな、と俺たちはミュアの意見を参考にグレイから降りることになった。
グレイは周囲を警戒しており、どうやら何かが側に潜んでいる様子であったようだが、この辺りは障害物も多く、パッと見ただけではどこに何が潜んでいるのかは分からないだろう。
まぁ、仮に何か居たとしてもバトルロイヤルという形式上、戦って勝つしかないんだが。
俺たちは取り敢えず他にも瓦礫の下辺りにその手のアイテムが無いかどうかを探していったのだが、やはりもうほとんどのアイテムは開始すぐに回収され尽くしたのか、もう残ってはいなさそうだ。
たまに他のファーストロットプレイヤーらしいプレイヤーの姿を遠くに見かけはするものの、何故か俺の姿を見てビビって逃げていってしまう。
何故だろうと思って真横を見たら、物凄い威嚇しながら周囲に睨みを効かせているグレイの姿があった。成程、君が威圧してくれていたのか……。
「さて、取り敢えず成果はゼロなんだが……そろそろ離脱するか。時間も30分に近いし」
「そうですね。ここにいる人たちは崩落する時間ギリギリまで残るでしょうから、倒すのはそれ以降に向かってきた際にすればいいでしょう」
綺麗な顔してえげつないこと言うね、ミュアさん。まぁ、実際その通りだけど。
成果がなければ長居は無用だ。コソコソ隙を狙って影から攻撃するような奴らを相手にするのは、危機探知系のアビリティが無いから結構危ないんだよな。【観察眼】はあくまで見えてる範囲が対象だから、奇襲には少し弱い。相手のレベルが高いと使えないしな。
そうなると、やはりさっきの近接系ジョブのプレイヤーたちみたいに、真正面から向かって来てくれた方が俺としても戦いやすい。
そう思いつつその場から離れようと、グレイに乗り込もうとしたが、その瞬間に突如としてグレイが威嚇して、咄嗟に俺たちの方に飛びかかってきた。
えっ!? なに、急にじゃれつき!?
そのまま俺とミュアはグレイの体当たりによって押し倒されてしまったが、当然味方である従魔からの攻撃はダメージには当たらない。フレンドリーファイアが解禁されでもしない限りはな。
「グレイ、何を――」
そう、俺が告げた時、グレイの胴体に細長い針のようなものが数本突き刺さり、その攻撃を受けたことでグレイは一瞬にしてHPをゼロにしてしまう。
――『即死』効果。どれだけHPが残っていようとも、この効果を付与された攻撃に当たればその瞬間にHPがゼロになるという、恐ろしい効果だ。
俺の持つ【致命の一撃】で使える『アサルトアタック』にも同様の効果はあるが、かなりの低確率となるため、このようなタイミングではほぼ発動しないし、確かあれは一つの戦闘中に一度しか発動しないタイプのスキルだ。
しかし、即死効果を特定条件下ではあるものの、ほぼ確定で、何度でも発動できるジョブは存在する。
「――
姿を認知されない、攻撃を認識されない、音を聞かれない、などの特殊な条件を満たすことで、本来なら極低確率の即死成功率がほぼ100%に近い成功率になるというのが、暗殺者の最たる特徴である。
本来、このバトルロイヤルというイベントにおいては姿を認識されない等の条件を満たすのが難しいため、あまり活躍しないジョブの一つであったが、この障害物だらけの外周部はある意味では彼らにとっての庭のようなものになっていた。
「ガウ……」
グレイは攻撃を受けた時にそのまま力尽きるように倒れ込んでおり、その時に攻撃が飛んできた方向に身体を向け、俺たちが狙われないように身を守ってくれていた。
俺たちには蘇生効果を持つスキルは覚えていないし、その効果のアイテムは元から持っていない。仮に持っていたとしても、今回のイベントではその手のアイテムは使用できないようになっている。そもそも入手手段が限られているものなので仕方ない。
そしてその蘇生待機状態が終了し、グレイの姿がバトルフィールドから消滅する。消えたと言ってもプレイヤーと同じく死に戻るだけであり、その場合は通常なら噴水か使役獣ギルドの方へと転送される事となるため、ひとまずは安心だろう。
だが、俺たちの中では久々となる死に戻り、それも仲間となるとほぼ初めてかもしれない。
失ったものの大きさを実感して、俺は立ち上がる。ミュアもグレイが命を賭して守ってくれたこと、そして仲間を死に戻りさせられた事への怒りを浮かべながら、その攻撃を放った方向を見つめる。
そこには数人のプレイヤーが立っていた。
「フッ、従魔士のプレイヤーを倒せれば簡単だったが、一番面倒そうな従魔を倒せたのだ。まずは重畳と言っておこう」
「ハハッ、さっきは運良く従魔に救われたが、ここからは簡単に抜け出せねぇよ?」
「大人しく他のプレイヤーみたいに倒されてリタイアしなぁ?」
どうやら彼らは同じようなジョブの使い手たちが集まって徒党を組んでいたようで、俺たち以外にも他のプレイヤーを幾らか既に倒していたようだ。
ぞろぞろと出てくるプレイヤーによって取り囲まれている。確かにここから離脱するのはかなり苦戦しそうだな。
グレイを倒されて凄く腹が立っているが、流石に多勢に無勢というもので、正攻法でここの全員に勝つなら問答無用で『
ふと時間を見ると、思いの外最初の戦いで時間を食ってしまっていたのか、結構時間が経っていて、既に26分くらいになっていた。
気持ちは晴れないだろうが、ここはあの手でいくか。
「……ゼファーはガードストーム。ミュアは眠り粉を頼む」
「任せろ! ――『ガード・ストーム』!」
「分かりました。矢に込めて放ちます! 『
そう言うとミュアは弓を構えてそのプレイヤーたちに向けて矢を放つ。なにやら俺たちが動き始めていたので相手は警戒していた。
しかし、誰を狙ったわけでもないその矢は彼らの頭上を飛んでいき、その軌道を見たプレイヤーたちはゲラゲラ笑い始める。随分な余裕だな。まぁ当然か。
「ハハハ! どこ狙ってんだよ!」
一人のプレイヤーが的外れな軌道に指を指して笑うものの、その矢からは彼女が発動したカリュアの精霊術スキルから放たれた催眠性の粉塵が彼らの元へと降り注ぐ。
やがてその粉を吸い込んだプレイヤーたちは次々眠りについていく。こうなると、ある程度のダメージを与えられない限り、時間経過で回復するまでは身動きが全く取れなくなる。
そして、このカリュアの精霊術で発生した眠り状態はテイムの時に試した限りだと5分は持続する。普通は攻撃するからもっと短くなるのだが、かなり強力な状態異常効果のスキルだ。敵味方の判別が付いていないのがやや使いづらいところか。
もし、眠気覚ましの回復アイテムがあれば即時回復が可能なのだが、見たところ誰一人として起き上がってこない為、その手の回復アイテムは持ってきても手に入れてもいないらしい。ハハハ、残念だったな!
そのまま崩落に巻き込まれてリタイアするといいだろう。グレイを倒した報いで殴り倒してやりたいところだが、そんなことをしてたら俺らまで巻き込まれてしまうし、普通にアイツら起きるからな。
どうせ他のプレイヤーもわざわざ時間で脱落するプレイヤーに手出しをするような真似はしないだろう。
「コイツラはほっといて中心に向かおう。俺等まで崩落に巻き込まれたらグレイに合わせる顔がない」
「おう! グレイの為にも勝ってやるぞ! おー!」
ゼファーの掛け声に呼応するように俺とミュアも手を挙げる。
そんな時、ふと奴らのいる近くの瓦礫の下に、カプセル自販機でよくあるまん丸の球体のようなカプセルが2つも落ちている事に気づく。かなり小さなかったが、反射で光ってたので何とか見つけ出すことができた。
それらを俺とミュアとで拾い上げると、「カポン」と小さく音を立てて中からアイテムが出てくる。音までカプセル自販機のヤツみたいなのか。
俺が拾った方のアイテムは『ムテキキャンディー』と呼ばれる30秒間『無敵状態』を付与するアイテムで、ミュアが拾った方のアイテムは『ゲージアップドロップ・MP』と呼ばれる10分間、MPのゲージステータスの上限を倍に引き上げる効果のアイテムだった。
どちらも説明のときにアンビーが言っていた回復アイテムではない特殊な効果を持つアイテムのようだ。
無敵状態のアイテムはありがたいな! しかし、今回のイベントだと、一度アイテムを所有すると他人に譲ることができない設定になっているようで、俺とミュアの間でもこれらのアイテムを渡すことは出来なかった。
まぁ、本来なら対人戦でアイテムの受け渡しなんてやらないのが当然なのだから、仕方ないといえば仕方ない。従魔が消費アイテムを持てる事自体異例なのだから。
しかし、最後の最後でこんなアイテムを入手できるとは災い転じて福となすとは正にこのことだろう。
まぁ、グレイの事は俺の油断が招いた事だから、悔やんでも悔やみきれないが……それなら出来る限り勝ち残るしか報いる方法はないだろう。
……とはいえ、グレイは死に戻りして今頃、使役獣ギルドでノクターンとコルヌに会っているのだろうが。そこから応援しててくれよな、グレイ。
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