それぞれの戦場にて(前編)

 ――第1フィールド


 戦闘開始の合図がなった瞬間、攻撃されないように他のプレイヤーから離脱する者と、それを追って攻撃を仕掛けようとする者の二手に分かれる。


 そんな中、レンは特に行動することもなく敢えて余裕の表情で中心で待ち構えていた。


「さ、どっからでも来いよ」


 すると、そんなレンに向かってファーストロットプレイヤーであろう、鎖帷子のような装備を身にまとった少年のようなプレイヤーが挑みかかってくる。


「うおおお!」


 そのプレイヤーは手に持った2つの短剣を器用にレンに向かって投げつけていく。短剣使いショートブレーダー系のジョブが持つジョブアーツ『ブレードショット』という技で、武器を一時的に手放すことになるが、確実に敵に当てることのできる必中系のアーツになる。


 しかし、当たる瞬間にレンは『メタルボディ』のスキルを発動、自身の肉体を硬質化することでそのダメージを大きく減らすことに成功した。


「なっ!?」

「あと少し、手が足りなかったな。――『ダブルスラッシュ』!」


 レンはそのプレイヤーに向かって走り出すと、一瞬で目の前に辿り着き、彼が武器を拾うよりも前に手に持つ『エレメントモノクローム』による2連撃を繰り出して吹き飛ばすと、そのまま『スタートダッシュ』により飛んでいるそのプレイヤーに追いついて、今度は『クロススラッシュ・デュアル』を放つ。


 そのままレンは攻撃を繰り返し、何もできないまま流れるように攻撃を受けたそのプレイヤーは叩き切られたまま消滅し、リタイアとなる。


 これにより、実力を見せつけられたことでレンに挑もうとするプレイヤーは少なくなるものの、そうなれば今度は彼が他のプレイヤーを追う番となる。


「流石ですね、レンさん! 俺も挑ませてもらいます!」


 すると、そんな彼の前に一人のプレイヤーが現れる。


「なっ!? …………いや、誰だお前?」

「アハハ、ジュンです。シャインバードの従魔士のパーティーの。開拓の村ぶりですね」

「あぁ、開拓の村でユークに話しかけてきたパーティーの戦士か! スマン、忘れてた!」


 そのプレイヤーは、彼が開拓の村に居た際に出会った従魔士サトルらのパーティーのリーダーである軽装戦士ライトファイターのジュンだった。リーダーだが、知名度的にはやはり目立つシャインバードを連れているサトルの方が上なのは仕方なかった。


 クラス2のジョブではあるが、軽装戦士は速さを求めたレンとはほぼ同じ構成のスタイルとなる。その上、戦士系なので盾を持つことができるため、守りの方も抜けがない。


 おまけにクラス2は早熟型なのでレンよりもジョブアビリティやジョブスキル、ジョブアーツをより多く習得している可能性がある。


 何より、ジュンが先程の圧勝を見せつけられても挑みに来たことからも、彼の気合が分かるというものである。


「まぁ、話したのはあの時だけでしたからね。まさかβテスターだとは思いませんでしたが。……でも、俺も負けませんよ! 勝負です!」

「自信満々ってか。まぁ、そうでなきゃ挑んでこないよな。よぅし! 楽しいバトルにしようぜ!」


 そう言ってジュンとレンは互いに激突する。AGIはかなりレンの方が上だったが、ジュンも またレンの攻撃を剣や盾を使って受け流すことで致命的なダメージを受けずに対処する。


 βテスター対ファーストロットプレイヤーであるが、ジュンにバトルの才能があったのか、ステータスの差は感じない程にバトルは白熱する。そんな激闘の様子を他のプレイヤーは戦闘そっちのけで見ていた。


 その戦いでは、終始レンのほうが圧倒しており、やがてレンのスピードに追いきれなくなったジュンがダメージを受けていき、倒されてしまう。


「いやー、やっぱ速いなぁ……! 俺もそれくらい速い戦士になりたかったなぁ」

「フッ、俺に速さで勝ちたいならまずは良い生産プレイヤーと知り合うことをオススメするぜ」


 そしてリタイアしたジュンはその場から消える。


「さて、次の相手は……って、うぇぇぇ!?」


 戦い終わって後ろを振り返ったレンは、そこで自分と戦闘をしたいと並んでいるプレイヤーの列を目撃してしまう。


 あのジュンとの戦いを見たプレイヤーがこぞってレンと戦いたいと思うようになったのか、何故か順番に戦い出すという奇妙な流れになっていた。


「いや、何で一人ずつ対処しなきゃならねーんだよ! まどろっこしい! えぇい、全員まとめてかかってきやがれ!!」


 結果としてこのフィールドでは、途中で全員まとめて相手することで対処したレンにより、30分過ぎになって決着の時を迎えることとなったのである。




 ――第2フィールド


 一方、第2フィールドでは、大魔女シグ以外のβテスターたちが試合開始直後、シグに向かって攻撃を開始していた。


 その理由としては、彼女と一対一で戦ったところでここにいるプレイヤーでは勝ち目がないからである。最早最初からソロでは敵わないからと、集団戦闘を行うようだった。ファーストロットプレイヤーもそれに便乗してシグに向かって攻撃する。


 自分たちの勝ち筋を少しでも残すために、まずは全員が一番の強敵を狙うことにしたのだが、その考えは既にシグには読まれていたようだ。


 シグは試合開始の数秒で【中級魔術】の『リフレクト』に、【魔導術】で習得した『フィジカルレジスト』を、ジョブスキルの『エンチャント』で効果付与することにより、物理にも魔術にも強い反射障壁を作り出したことで、自身の目の前に来た攻撃を尽く強化してから跳ね返し、敵におみまいしていった。


 当然ながら、その反射攻撃に巻き込まれ、ファーストロットプレイヤーたちも次々ダメージを受け、VITもMINも少ないプレイヤーはそれらの攻撃だけでHPが全損し、リタイアすることとなった。


 そんな中、反射攻撃をも避けきったユーリカは不敵にもシグの前に姿を現す。


「ハハハ! 中々やるじゃない、大魔女! やはり、私の相手はあなたしか居ないようね!」


「あら、そんな無用心に出てきたら狙ってと言ってるようなものよ。『ファイアボール』『アイシクルランス』『サンダースラッシュ』『ウィンドショット』『グランドエクスプロード』」


「えっ、あっ、ちょっ!」


 連続で放たれ続ける魔術系スキルに何とか避けていくユーリカであったが、単体攻撃に範囲攻撃を織り交ぜられて次第に避けきれなくなり、トドメは大地が爆発する広範囲攻撃で、周辺のプレイヤーごと吹き飛ばされ、リタイアする事となった。


 結果として、このフィールドの決着は開始早々に様々な魔術をぶち撒けたシグの圧勝によって幕を閉じることとなった。




 ――第3フィールド


 クラウス、リック、そしてサーヤの三人がいるこのフィールドでは、開始早々に暴走状態というか、手の付けられない状態になったクラウスによる破壊活動が繰り広げられることとなった。


 最早クラウス以外のプレイヤーは、他のプレイヤーに戦いを挑むなんて事をしている状況ではなく、とにかく彼の拳から逃げることだけを考えていた。


 追いつかれれば、その圧倒的な力を持つ拳で一撃で粉砕される。


 βテスターであろう、巨大な鎧を着た騎士系ジョブのプレイヤーがいの一番にクラウスに殴りつけられ、その結果として彼の着ていた鎧はたった一撃で大きく凹むこととなり、そしてそのプレイヤーはリタイアとなった。


 そんな光景を目の当たりにしているのだから、誰も彼の元に向かおうなんて思わなかった。


「くそー! なんだよ、クラウスのやつ! 前より破壊衝動高まってるじゃんか! 誰だよ、落ち着いたって言ったやつ! ……俺じゃん!」


 外周部で暴れまわるクラウスの姿を見て、リックはやはり試合開始前に和気あいあいと話していたあの善人らしい風貌の男と同一人物だとは思えなかった。


 すっかりβテストの時よりも落ち着いていて、これなら試合も大丈夫かと思ってたのだが……結果は案の定であった。


 リックは姿を隠す『隠遁の術』で何とか紛らせているものの、いつ見つかるか分からない恐怖でいっぱいだった。


「フハハハハハハ! 次の相手はドイツだぁ!?」


 普段のおとなしい様子の彼からは想像つかない荒々しい戦闘に次々とプレイヤーたちは逃げていく。


 そんな彼の様子にビビって外周部の障害物の中に隠れるサーヤ。


 しかし、そんな彼の攻撃に障害物など関係なく、ものの見事に砕かれては、隠れていたプレイヤーごと吹き飛ばす。


「こ、怖いよ……サトル……ジュン……ミッチェル……!」


 サーヤは流石にこの時ばかりは恐怖で心が押しつぶされそうになっていた。


「ハハハ! 面倒くせぇ、こうなりゃこの地面ごとぶっ壊してやるぜ!!」


 そうクラウスが叫んだ瞬間、彼は地面に向かって大きく拳を振りかざす。すると、その場を中心に外周部一帯を包み込むかのように亀裂が走っていき、まだ30分にも満たないというのに外周部が崩壊する。


「うっそだろ! 地面ごと壊すのってありかよ! ちくしょー! 間に合わねぇ!」


 当然ながらそれによってリックもサーヤも崩壊に巻き込まれてリタイアすることとなった。彼らにとってはクラウスに殴り飛ばされるというトラウマを抱えなくて済んだだけマシなのかもしれない。


 当然ながら、このフィールドの決着がついたのはそれからそう時間はかからず、『破壊僧』の恐ろしさを多くのプレイヤーに晒すこととなったのであった。


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