バトル開始

「居たぞ! 例の初心者装備!」

「ハハハ! チョーツイてるな俺ら!」

「景気付けにぶっ倒そうぜ!」


 いかにもガラの悪そうな3人のプレイヤーが俺たちの前に立ちはだかる。それぞれ斧、戦棍、大剣とものの見事に近接武器で統一されている。


 俺の姿を見て気になったのだろう。それで徒党を組んで潰しにかかったという流れだろうか。おそらくはβテスターの一人だろう。じゃないと、ここで自信満々に潰しに来るとは思えない。


 まぁ折角だし、新たに強化した魔杖の力でも試してみるか。


〔ゼファー、グレイ。取り敢えず最初は俺が倒すから、あまり手を出さないように。ミュアはプレイヤーと思って誰かが戦いを挑むかもしれないから、軽くあしらってやってくれ〕


 俺がテレパスで従魔たちとミュアに命令を送ると、グレイは一吠え上げて後ろに下がる。ミュアは静観する様子だ。


「おいらはお前と一緒にいるぞ、相棒」

「ハハッ、分かったよ相棒!」


 俺は阿修羅巨像の魔杖+を構えると、目の前に近付いてきていた3人のプレイヤーに対して『飛突』を放つ。


 いきなり目の前に衝撃波が飛んできたことに驚いたのか、3人のプレイヤーたちはそのままの勢いで攻撃にぶつかりに向かい、吹き飛ばされる。


 えっ、嘘だろ。あれ、避けられないの?


 当たりどころが悪かったのか、3人中2人のプレイヤーが伸びてしまっている。斧と戦棍を持ったプレイヤーだ。大剣を持ったプレイヤーは咄嗟に大剣を前に構えて防御したようだ。まぁ、確かに大剣は防御動作が可能だもんな。


 そんな伸びてしまっている彼らに対して、申し訳ないと思いながらも、俺は精霊術スキルの一つである『乱風の鎌鼬スクランブル・エッジ』をゼファーと共に発動し、伸びてしまっているプレイヤーを吹き飛ばし、切り刻む。


 ろくに受け身も何もできなかった彼らは、その風の刃に切り刻まれてHPが無くなったことでリタイアとなった。


 え? 幾ら何でも早くないか? ……あ、そうか。今の俺のINTの数値、500は超えてるもんな……。


 相手のMINがどの程度だったか知らないけど、もし100程度しか無かったら、ある程度のHP量なら簡単に飛ぶかもしれない。


 流石に相手のレベルとかステータスとかまでは見ることはできないから、相手が弱かったのかどうなのかまでは俺には察することはできない。……いや、【観察眼】を使えば分かるのか?


「てめぇ! よくもアタルとルーバを!」

「いやそういうやつでしょ、このイベント!?」


 そう叫ぶプレイヤーを【観察眼】で見ると確かにステータスが見れた……ということは俺よりは下のレベルなのか。名前はシータというらしい。


 そのレベルは、レベル27。うわぁ、微妙なライン……。


「クソッタレが! 俺の技を喰らいやがれ、『スラッシュエッジ』!!」


 仲間であったであろう斧と戦棍を使うプレイヤーたち――どちらがアタルで、どちらがルーバなのかは知らない――がリタイアしたことで、怒りを顕にしたシータは、その巨大な剣を振り切って剣術アーツを使い、剣撃の刃を飛ばしてくる。


 成る程、『スラッシュエッジ』の攻撃範囲は武器の大きさによって変わるのか。レンが使っていたときよりも、かなり幅広い範囲の斬撃が吹き飛んできている。これは、今更サイドステップなどで避けても避けきれなさそうだ。


 またジャンプして避けようにも、これが過ぎ去るまで滞空していられる自信は俺にはない。まぁ、『緑風の弾丸ストーム・バレット』を下に打ち付けて吹き飛ぶという手もあるけど、アレは地味に痛いからな。


「どうだ! これなら避けきれないだろ! そのちっぽけな杖で防げるかな!?」

「……成程ね。確かに避けきれなさそうだ。だけど!」


 そもそも杖は防御動作はとれない。だが、俺はこの場にいないもう一体の仲間の姿を思い出し、そのスキルを口にした。


「――『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』!!」


 俺がそう叫ぶと目の前の地面に光が宿り、そこから勢いよく緑色の蔦が生えてきて、あっという間に巨大な蔦の盾が形成される。


 これはカリュアが用いる精霊術の一つで、対物理に特化した防御用のスキルとなる。術式スキル対策なら『神秘の風盾エアロ・シールド』の方が効果は高い。


 前のエリアボス戦ではそっちを物理攻撃に無理やり使ったのですぐ壊れたが、『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』はちょっとやそっとの物理攻撃では削れない耐久性を持っている。まぁ、俺のVIT値次第だけどな。


 結果として、シータが放ったスラッシュエッジは『蔦精の壁盾アイヴィー・ウォール』によって打ち消される。壊れていないということは、思ったよりも相手のSTRが低いようだ。……ホントにコイツらβテスターなのか? 俺の勘違いかもしれない。


 突然湧き出た謎の蔦の盾に呆然としていたそのプレイヤーの元に、俺は駆け出す。ここも特にバトルフィールドと指定されていないためか、戦闘中にも関わらず【早移動】の効果が適応されるようで、案外早く辿り着くことができた。


 俺が近くに来ていることをそのプレイヤーが気付いたときには、俺は『横薙ぎ』が【中級杖術】で強化された『大薙ぎ』発動からの『強力杖殴り+』の構えを取り終わっていた。


「なっ、待て――」


 彼が何かを言い残すよりも前に、俺が横に大きく魔杖を振りかざし、そのまま『強力杖殴り+』の衝撃も加わることでかなり向こうの方まで弾き飛ばされたそのプレイヤーは、地面に激突して土埃を上げていたが、その煙が消えたときには既にその姿は残っていなかった。


「お疲れ様です、ユークさん」


 俺が戦闘を終わらせた事でミュアが近づいてくる。当然ながらダメージ一つ負ってはいないようだ。


「そっちもお疲れさん。結構攻撃されたろ?」


 俺が三人組と戦っている間、想定通りミュアは他のプレイヤーから攻撃を受けていたようだが、それらに対して牽制の矢を放ったことで皆散り散りに逃げていったようだ。臆病者め。


「はい。素直に倒してしまえば良かったですね」

「ハハッ、それは言えてるな。まぁ、取り敢えずアイテムを拾いに行こう。思ったより時間をかけてしまったみたいだから、もうある程度拾われてるかもしれないけど」


 開始早々、出鼻を挫かれかけてしまったが、取り敢えず予定通りアイテムを回収しに行こう。予想外に時間を食ってしまっているが、仕方ないだろう。


 それからどのようにするかを考えないといけない。特にMPに関してはある程度、精霊術スキルを使う量を考えないと、あっという間に枯渇しかねないからな。


「よし、グレイ。乗るぞ!」

「ガォン!!〔待ってました!〕」


 そして、俺たちはグレイに跨って外周部に向かうことにしたのだが、結果としてその判断があんな事態を引き起こすことになるとは……その時の俺たちはまだ知らなかった。


「……なにを一人でブツブツ言ってるんですか? 縁起でもないですよ?」

「へ? あ、いや……こういうモノローグ的なのってなんか面白いからつい……」


 まぁ、ゼファーもミュアもグレイもいるんだ。そんな事態なんて起こるわけが、ないだろうからな。


 ――――――――――

(10/22)アドミスの妹のギルド受付嬢の名前を「エミリア」に変更しました。

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