決着、バトルロイヤル

 ――第5フィールド


 戦闘開始から30分以上が経過し、俺とミュアはコロシアムの中央に戻っていく。他のフィールドは既に戦いが決着しているようで、さっきもレンがいた第1フィールドの決着がついたことが、アンビーのアナウンスで分かった。おそらくはレンの勝利だろう。


 コロシアムの中央では、勝ち残っているプレイヤーが互いに戦い合っている。基本的にここまでくると、共同戦線をはっていたプレイヤーも踵を返して、一対一の戦いが繰り広げられているようだ。


 この場合、有利になるのは対多数に特化したスキルやアーツを持つプレイヤーとなる。例えば、広範囲を攻撃できるのは大剣や長槍、鞭などの攻撃範囲の広い武器を持つプレイヤーや、弓術アーツの『アローレイン』を始めとした広範囲アーツや範囲系の術式スキル持ちなどがそれに当てはまる。


 俺の場合、手持ちの武器的にゼファーが習得している精霊術スキルにある『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』や『天嵐の息吹ブレース・テンペスト』辺りがその広範囲系の攻撃になる。


 ミュアは自身のMPを消費して弓を作り出せる為、『アローレイン』がほぼほぼ無制限に放つことができる。


 持ち込み制限がある為に矢も限りがある為、このアドバンテージはかなり高いだろう。見たところ、他のエルフ族プレイヤーで精霊弓士であるプレイヤーはこのフィールドには居なかったので、少なくともこのフィールドではミュアの独壇場となっている。


 ゼファーは言わずもがな、俺と同じ精霊術スキルが使える。まぁ、こっちが本家本元なので、俺がゼファーと同じスキルを使えるわけなんだがな。


 流石にこうなってくると、接近して戦うのも被ダメージの可能性が高いため、精霊王の宝風剣に持ち替えてから戦闘を行うようにした。


 たまに接近されて攻撃の対処をする場合があるのだが、その際は【短剣術】を習得していないことが仇となってか、対処に手間取ってしまうも、その時はゼファーが助けてくれている。


 ゼファーが覚えた『盾剥がし』のアーツが思いの外役に立ってくれており、接近して武器を吹き飛ばされたプレイヤーには俺が至近距離で精霊術をお見舞いして吹き飛ばしてやった。


 基本的にはそろそろ怪しくなってきたMPの消費を抑えるためにトドメの方はミュアが行っており、俺はMP消費が軽めの精霊術を使っての牽制兼囮役となっている。


 まぁ、こっちの外見に騙されて近寄ったやつに精霊術を使って驚かせて、その隙にミュアがズバンと射抜くというパターンだな。


 それのお陰で、俺たちもかなりのプレイヤーを倒すことに成功していた。


 これならわざわざ外周部に行かなくても良かったかも……とも思ったが、実は途中で流石に避けきれない位置で範囲攻撃アローレインに巻き込まれてしまい、その直前に何とか無敵状態になる『ムテキキャンディー』を使用する事で難を逃れた。


 マジであと数秒遅れてたら矢だらけになって死んでたな……。


「……ふぅ、ある程度倒したか?」

「おー、残り3人だってよ、相棒!」

「残り3人……ってことは向こうから近づいてくる奴らが俺以外の残りのプレイヤーか。ミラルカはやっぱり負けてしまったんだな」


 俺の前から走ってきていたのは魔術士系のプレイヤーと騎士系のプレイヤーの二人組だ。どうやらここまで一貫して共同戦線として戦ってきたプレイヤーのようだ。


「あいつを落とすまで協力しろ、ルスト!」

「仕方ねぇなぁ! しっかり守れよダン!」


 ルストとダンと名乗った二人のプレイヤーは俺たちの目の前で立ち止まると、騎士系ジョブであるダンが自分の身の丈以上の大盾を構えて、背後にいる魔術士系ジョブのルストを守るかのように立ちはだかる。


 ルストはその間に詠唱スキルを行いて、魔術スキルの火力を上げていくようだ。おそらくは、その一撃で全てを消し去るつもりなのだろう。


 その詠唱が始まったのと同時に『エリアバリア』のような膜が広がったように見えたが、すぐに見えなくなった。なんだ?


 俺の【観察眼】には確かに『エリアバリア』の状態が見えているので、おそらくは敵のアビリティか何かの効果でスキルの仕様が認識されにくくなっているのだろう。俺の知る限りではクラス3の『幻影騎士ミラージュナイト』がその手のアビリティを習得していた気がする。


 ミュアにテレパスでそのことを伝えると、バリアを越えて後ろにいる魔術士を狙い、詠唱を阻止すると宣言する。いやはや頼もしい限りだが、【正射必中】のアビリティ持ちのミュアなら不可能でないのが恐ろしい。


 そしてミュアは弓を構えて、彼らの上の方向に向けて矢を放つ。【曲射術】のアーツ、『カーブショット』のオマケ付きだ。


 その矢は確かにエリアバリアの上を飛び越え、そのまま詠唱を続けるルストの首元に突き刺さる。頭部にはヘルムのようなものを被っていたので、矢が通らないと思ったのだろうか。


 当然ながらその時点で詠唱は途切れ、ルストが首に手を当てている。当たり前だが、声が出ないようだ。


 アレは痛覚がないとしても怖いわ……。つかヘッドショットより難度高いんじゃないのミュアさん?


「詠唱なんてさせません!」


 ミュアは俺の隣で勝ち誇ったようなドヤ顔で叫ぶ。流石だなぁ……。


 ルストが狙われたことで、エリアバリアを張っていたのに攻撃されたという衝撃を受けていたであろうダンは一瞬だが、俺たちの方から意識が外れているようだった。


 よし、今なら盾を剥がせるだろう。


「よし、ゼファー。あいつの盾をふっとばしてこい!」

「あいよー! 任せな相棒!」 


 その後、ダンは慌てて盾を構えようとしたが、その瞬間彼の手元にゼファーが現れ、更に驚いていた。


「なっ!? 子供!?」

「子供じゃねぇ、おいらは精霊だぜ! さてと、邪魔な盾は飛ばしちゃうぞ!」


 ゼファーは自身を中心として勢いよく風を巻き起こして『盾剥がし』のアーツを発動し、ダンが持っていた盾は遠くへと吹き飛んでいった。


 何回か繰り返して分かったのだが、『盾剥がし』は攻撃扱いにはならないようで、バリア等のスキルの阻害対象にならないのだ。そして盾がなくなったことで、エリアバリアの効果も終了する。


 これで彼らを守るものは無くなったというわけだ。


「よくやったゼファー! あとは俺に任せろ!」


 俺は最後くらいは自分の手で決着をつけるため、宝風剣の刀身についている宝玉を前に出すように構える。宝玉が淡く光りだした。


 もちろん使うのはあの精霊術だ。溢れんばかりの緑色のオーラが俺といつの間にか戻ってきていたゼファーを包み込んでいく。


「行くぞ! 『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』ッ!!!」


 そう俺が叫ぶと、一際宝玉が輝き、次の瞬間には凄まじい勢いの竜巻が目の前――ダンとルストの二人に向かって放たれた。


 その勢いは並の魔術スキルとは比較にならない。理由としては、彼らとの戦いの直前でミュアに対して『モンスターエンハンス・インテリジェンス』を使用したあとに『スキルスワップ』を使用したからだ。


 この効果は俺と従魔の強化状態を入れ替えるというスキルで、これによって『モンスターエンハンス・インテリジェンス』のINTアップ状態が俺のものとなったのだ。


 つまり、この『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』はそれまで俺たちが使ってきたものよりも、かなり高い。それこそゼファーに『モンスターエンハンス』を使った時と同じくらいかそれ以上あるかもしれない。


 ルストとダンは竜巻に巻き込まれ、一瞬にしてHPゲージは全て無くなり、残ったのは俺たちだけとなる。


 試合終了の合図が鳴り響く中、俺は流石にMP切れになったために座り込んでしまった。やはり、『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』は【MPセーブ(精霊術)】があっても、かなりMPの消耗が激しいな。まぁ、それまでに細々使ってきたからな仕方ない。


 ゼファーは俺の上で慌てふためいていたが、側に歩み寄ってきたミュアが手を差し出してくれたことで俺はゆっくり立ち上がる。


 そういえばミュアが拾った方のアイテムは使う機会がなかったな。あれを使ってから『モンスターリンク』でMPを共有化してれば、もっとガンガン精霊術も使えたような…………まぁ今更気にすることではないな。うん。


 フィールドの上部に投影されているこのフィールドの勝者が俺であることを示していた。


「お疲れさまでした、ユークさん」

「ありがとう。流石にミュアがいなきゃ真っ先にやられてたよ。ゼファーもありがとな」

「へっ、あんくらい朝飯前さ! 相棒も中々やるじゃん!」


 俺はミュアとゼファーに対して笑顔で話しかける。あとは途中で俺を庇って倒れてしまったグレイにも感謝だな。今日は使役獣ギルドで買った高級ブラシでしっかりブラッシングしてやることにしよう。


 そんな時、頭上からかなりの歓声が俺に向かって飛び込んでくる。どうやら、俺の試合を見ていた観客によるものだったようだ。結構見てるプレイヤー多かったんだな。もしくは他が早々に終わって流れ込んできたってやつ。


 ふと上を見上げると、リーサやレン、フィーネの姿をすぐに見つけることができた。まぁ、ほとんどフィーネのお陰だけどな。やはり、メイド服の戦闘人形バトルマトンはかなり目立つ。


 二人共俺たちに声援を送ってくれているようだが、周りの歓声で全く聞こえない。


 そこから対角線にあるNPC向けの観覧席にはアドミスとメリッサがいることだろう。目を凝らして探すと、確かにいるな。表情までは流石に見えないものの、拍手をしてくれているようだ。ありがとう!


 そして、観客の歓声は、また別の形となって俺たちに浴びせられることになった。


「「「お前が噂のNPCテイマーか!!!」」」


 どうやら、噂の存在だった『NPCテイマー』=俺という構造がここではっきりと等式が立ってしまったようだ。


 ……うーん、これは後が大変そうだな。

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