ユーリカと精霊

 黙って俺たちの契約までを見守ってくれた他のメンバーたちには感謝だが、この後は精霊王による報酬の話になる。お金に関してはケイルが、父親であるケイリスから渡されるから精霊王から無心しないでくれと頼み込む。


 誰もそんなことするつもりは無かったから大丈夫だと思うが。


 そして、精霊王は俺以外のメンバーに対して、何か報酬が必要かどうかを尋ねる。因みに俺に対しての報酬が、先程のミュアとの契約ということらしい。


 そして、いの一番に手を上げたのはユーリカだった。


「はいはーい! 私は精霊と契約したいです!」


 あまりにも直球に欲望をぶつけてきたので、俺とケイルは思いっきり吹き出してしまう。


 まぁ、確かに精霊を束ねる王なのだから、頼み込めば何とかしてくれそうな気はするが……。


『ふむ、精霊と契約か。ならば我が権限を持ってして、中位精霊との契約を結ぶがいい。そうだな……お主の場合だと、精霊術よりも霊弓術を扱う者の方が良さそうだな』


 そう言うと、精霊王は空間に穴を開けるとそこから一体の精霊らしき存在を引っ張り出す。どこからだしたんだ。


 何故、らしきというのかといえば、そこにいたのは一体のデフォルメされたイルカのような姿をしたナニカだったからだ。


 それに関してはゼファーが、中位精霊は基本的に獣の姿をとっているからと説明をしてくれた。因みに下位精霊は光の玉に近い姿をしているらしい。人の形を取っているのは上位精霊の中でも特別な存在だけのようだ。


 なお、上位精霊より下の位の精霊は基本的には喋ることができないようで、突然こちら側に呼び出されたそのイルカは見るからに怯えているがしゃべることができないので、精霊王に身振り手振りで状況説明を求めていた。


「キュイキュイキュー!」

『ん? あぁ、済まぬ済まぬ。実はな、あそこな娘が精霊と契約したいと我に願ったのでな。お主が最適だと思って呼び出したのだ。どうだ? 確かめてみよ』

「キュー?」


 精霊王がそう促すと、そのイルカの精霊はすーっとユーリカの方に向かって宙を泳ぐ。


 そしてユーリカを見定めるかのようにグルグル回って調べていく。


 その様子をドキドキした面持ちで見つめるユーリカ。その光景を見てリーサが「かわいい……」と蕩けていた。


 やがて、確認ができたのか精霊王の方向に頭を向ける。


「キュイキューイ!」

『成程、お主も其奴がいいと言うのだな? よし、ならば我の名の下にお主らの契約を執り行う。さぁ、契約を求む者よ。この子に名を授けてやってくれ』

「分かったわ……。そうね、あなたは『エコー』よ。そう、エコー! 宜しくね!」


 ユーリカが授けた名が気に入ったのか、力いっぱい宙を泳ぐ中位精霊エコー。


 その後は基本的に『テイミング』のスキル名を言わない形でのゼファーとの契約と似たような流れで契約が進む。この場合、使役モンスターとしてサポートをしてくれるようになる。ただし命令系のアビリティは無いので、精霊の気が向いた際にのみ助けてくれるという形にはなるだろう。


 とはいえあの精霊もユーリカの事が気に入った様子なので、自ら力を貸してくれることだろう。


 今もほっぺにスリスリなすりつけてきている。いや、かわいいかよ……。


 ああいうのを見てると、俺も小動物系モンスターをテイムしたいなぁって思う訳で。


「……って、あっ! 【霊弓術】に新しいジョブの出現ってユニークジョブ!? ……じゃないのかぁ。残念」


 その時、ユーリカは新しいジョブの発生条件を満たしたらしい。どうやら精霊と契約したことで新しくエルフ族の種族アビリティである【霊弓術】を強制習得したので、それによってエルフ族の種族限定ジョブである『精霊弓士エレメントアーチャー』の習得条件を満たしたらしい。因みにミュアがその精霊弓士のようで、その名前に反応していた。


 どうやら俺の習得した精霊使いや精霊術士は習得候補者にはならなかったらしい。まぁ前者は従魔士向けだろうから【テイミング】が必要そうだし、後者は……精霊術自体がエルフ族の種族アビリティな事も考えると、何が条件なのかが分からない。が、精霊術を覚えてる状態で精霊と契約すれば習得対象になるのかもしれない。


 なお、ユニークジョブであればその場で変更が可能だが、通常のジョブや種族限定ジョブなどはジョブチェンジチケットを使うことで変更可能となる。


 女神は転職ジョブチェンジの際には神殿に行く必要があると言っていたが、実は神殿に行かなくてもその場でチケットは使用することができる。神殿で使えば、神殿系のNPCの好感度が上がるらしい。


 ユーリカの場合、ジョブチェンジチケットを偶然にもドロップしていたので、ジョブの詳細を確認するために一旦使用する。転職さえ行わなければ使用前に戻るため、ジョブの詳細を確認する為には丁度いい。


「なになに〜? えーっと、あっ、弓の攻撃が魔術扱いになって、INT参照になるんだ……。えっと、今の私のINTって確か7だったわよね……うん、今のところはやめましょうか」


 ジョブの詳細を見て、魔術系アーチャーになることを知ったユーリカはそっと習得を断念する。


 ジョブ習得時に追加されるステータス値は別のジョブに変わるときに無くなるものの、レベルアップ時のステータス補正に関してはそのままとなるため、INT重視の精霊弓士になるにはユーリカのINTでは厳しかったのだろう。


 本来ならばキャラメイクの時点で【霊弓術】アビリティを習得していれば、エルフ族ではいの一番に出現しているジョブである。


 その時点から育成していればちゃんと魔術系アーチャーとして成長できたのだが、基本的に戦闘技能アビリティはキャラメイク時に一つしか取れないので、ユーリカは汎用性のある【弓術】の方を取ったのだという。


 元からINT特化の種族であるエルフ族なので、ユーリカは無理やりSTRなどを上げたりしていたわけだが、それで実用レベルまで育っているあたり、サイモンさんの装備の凄さがわかる。


 実用になるかどうかは不明だが今後は【霊弓術】のスキルやアーツも使えるので、戦略の幅が広がったと本人は喜んでいたのが幸いといったところか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る