装飾作製士と武装装飾
「……えーっと、フレンドチャットの内容だとこの辺りだった筈なんですけどねぇ……」
さて、ギルドを後にした俺だったが、今はリリーの案内で興味のあった武装装飾を作っている生産職プレイヤーの元へと向かっている。
本来なら明日にでも……と思っていたのだが、リリーが連絡を取ったところ、その本人が明日は無理で、今なら会えると連絡を貰ったことで急遽向かうこととなった。
他にいるのはナサとリーサ、そしてカリュア以外の従魔たちとミュアとなる。
宛もなくブラブラするよりも先ずは気になるものを見に行こうというのはミュアの案であり、それによってリリーに案内を頼んだのだが、そこに乗っかったのがナサとリーサだったということになる。
まぁ、ナサはいつもリリーと一緒になので、たとえ興味がなくても着いてきていたことだろう。
因みにサザンカさんは既に防具の制作に移っていて不在、レンの奴はコロシアムに興味があったらしくそこで行われている武闘大会の様子を見に行っていた。
「それにしてもリーサがついてくるとは思わなかったな」
「何よ、私が着いてきちゃダメなわけ?」
「いや、リーサっていつもレンの方について行くからさ。てっきり今回もそうなのかと」
「アハハ! 確かにそうね! でも今回はフィーネのためだからね」
そしてリーサはそのまま何故ついてきたのかを説明するのだが、どうやら第二エリア突入後のジョブレベルアップ時に新たに拾得した、
もしフィーネに付けた際のアクセサリーの効果がプレイヤーと全く同じなら、武装装飾でリーサの好きなメイド服を着せたりするのは可能だろう。
「なるほどな……リーサの場合、そこに普通にフィーネのステータスが上がりそうなアクセサリーを付ければいいっていう意見は聞かないんだろうな」
「あら、よく分かってるじゃない。人形は着飾ってナンボよ!」
『……マスターがそれでいいのでしたら、私は何も言いません』
お前も苦労するな、フィーネよ……。
そういう話をしている中、リリーがその生産職プレイヤーがやっている店を見つけたようで、俺たちを呼びに来た。そこははじまりの街にもあったプレイヤー向けの露天エリアであった。
「お待たせしました! こちら、私の武装装飾を作ってくださった――」
「装飾作製士のキリカよ。よろしくね、オーバークラウンの皆さん」
装飾作製士を名乗ったキリカという女性プレイヤーは、短めの金髪を携えながら和風とメイド服とが組み合わさったような侍女服を身に纏って俺たちを出迎えてくれた。
外見的に年齢は俺たちよりはだいぶ上の社会人のようだ。今日はたまたま仕事が休みになったらしく、こうして露天に顔を出していたらしい。
取り敢えず、その着ている服的に彼女はリーサと同類の人種のようだ。リーサも目を爛々とさせて彼女の装備を見ている。勿論、それも武装装飾のようであった。
「初めまして、俺はユークだ。……武装装飾ってどういうものがあったりするんだ?」
「そうだねぇ……男性向けだと、燕尾服と執事服、後はヒーロースーツとか忍者装飾とかのコスプレ系? 他には性別関係なく使える初期装備の初心者シリーズを再現したものとかも一応あるけど……それは売ってはいないわね」
そう言いながら、彼女はマネキンを何個か持ってくるが、そこには確かに衣装が着せてあるのだが、アイテムとしては腕輪や指輪としての武装装飾が表示されているため、そこにあるように見えているだけとなる。
「へぇ、初期装備のやつもあるんだな」
「そうなのよ。一応、ギルドで探せるレシピでだいたい最初に作るやつなんだけど、ぶっちゃけ初期装備の外見なんて使う人いないのよねぇ。だから売りに出してないの」
その初心者装備の武装装飾は、他の武装装飾がアクセサリー枠を服の上下で二つ使用するのに対し、アクセサリー枠が一つだけという特徴はあるが、わざわざ初心者装備の外観にするメリットが普通なる殆ど無いために、基本的には売れない商品となっているらしく、商品として登録していないようだ。
露天で売る際はちゃんと登録しないと販売できないため、途中で商品を追加する場合は一度露天を畳む必要がある。そうでないと、途中で物を提供された場合にそれを転売のように売りに出す場合があるからだ。
店を畳めば、再度露点を開く際にまた露天の使用料をまた支払わなければいけないため、基本的にはある程度売り切るか時間が経つかしないと畳むことはしない。
因みに個人経営の店であれば関係なく補充できるし、そもそも売り物を物々交換する場合は何も問題ない。かつて俺がサザンカさんが開いていた露点で『星森のペンダント』を手に入れた際はそのやり方をしている。
しかしこれを身に纏えば、どんなに強力な装備だとしても相手にバレることはない。対人戦においてはかなり有利に働きそうだ。
「その売りに出してない初心者装備を表示できる武装装飾を、購入したいと思うんだが大丈夫か?」
「え? それ買うの? ……うーん、だったら他の武装装飾を買ってくれるなら、タダで譲ってあげるわよ?」
成る程、そういう手もあるのか。タダでやるには惜しいが売りには出せないので、他の商品のオマケで渡す感じか。一応、対価を必要としないトレード扱いなので、フレンド登録する必要はあるが。
「ほう。……なら、この燕尾服のやつと……このドレスのやつを購入するかな」
「あら、そのドレスを誰に着せるのかしら? ふふっ、取り敢えず毎度あり〜」
俺はキリカから燕尾服と緑と白の生地で作られたドレスの武装装飾を購入し、フレンド登録後に初心者装備の武装装飾を譲ってもらうこととなった。
普通に単独で買えばかなり安かっただろうが、売りに出してない以上は買えないからな。それに、一応はリリーの知り合いということでこちらも仲良くしたいという意思表示として購入することにした。
案外、燕尾服とかはすぐに使う機会が来るかもしれないしな。
一方、リーサもフィーネに着せたいメイド服を物色していたようで、俺の方の会計が終わった途端にキリカもそこに加わり、最終的にクラシカルなメイド服を着せることに決まった。
そっちの方の武装装飾が、キリカが実際に身に纏ったフィーネの姿を見て「いいものを見せてもらった」ということで無料になった。
これは俺もミュアに着せてみれば良かったかと思ったが、こちらを見て微笑み返してくれたミュアの姿を見て、そんな邪念は霧散していったのだった。
その後、一度ログアウトして諸々の買い出しに行き、溜まっていた洗濯物を洗ったり、掃除などを済ませる。久々にかなりの時間をゲーム外に使った気がするな。流石にちょっとやりすぎかもしれない。
そして、ゲーム内での打ち上げの予定時間である9時頃に再度ログインし、予約しておいたチームルームの中に入るとそこには既に様々な料理アイテムが用意されている。
どうやらリリーが腕を振るったものだけではなく、この街でNPCがやっている料理店のものも購入して並べているようだ。
ジュースは『星葡萄のスパークリングジュース』というもので、一本で5000FGする高級品らしい。図鑑に載ってた売却額で推測した。
なんかめちゃくちゃお金かけてるなと思ったら、どうやら買って用意したものではなく、俺たちが打ち上げをすることをエミリア経由で知ったアドミスが用意してくれたものらしい。
『おそらくは予想よりも報酬が少なかったであろう君たちへの俺からのささやかな贈り物だ。これで英気を養って、君たちの言う「イベント」とやらを頑張りたまえ』
……というのが一緒に添えられた手紙だった。準備をしていたリリーたちに贈られてきたので一瞬焦ったらしいが、予定よりも料理を作らなくて済んだので助かったらしい。
何から何まで済まないな、アドミス。ありがとう。
そのまま俺たちは打ち上げを行い、アドミスの言う通り英気を養うこととなった。高級品であろうその食事は、たしかに美味かったのだが……やはり今朝食べたスパイス煮が自分たちで作ったこともあって美味しかったような気がした。
そして、その翌日、俺やレンはパーソナルレベルやジョブレベル、アビリティレベルのレベル上げを必死に行い、またサザンカさんに新たな装備を用意してもらった。
レベル上げはあまり目に見てた効果はなかったものの、取り敢えずこれで準備は完了だ。
日曜はいよいよ運営イベント『バトルロイヤル』の本番となる。当日は7時から9時までが受付となっているので、俺もそのタイミングでログインすることになるだろう。
取り敢えず、チーム内で参加できるのは俺とレンだけだし、観戦もリーサだけだが、そう簡単に負けるつもりはない。
不遇職と言われてる従魔士でもやれるんだぞってところを皆に見せつけてやろうと、誰にも聞かれることもなく俺は胸に誓ったのであった。
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・お知らせ
本業の多忙化もあって、とうとう書き溜めてた本編に追いついてしまったので、次回の掲示板回以降はちょっと更新頻度が不定期になるかもしれないです! 申し訳ない!
一応、書き上げ次第更新していくつもりではありますが、こればっかりはその時次第なので二、三日かあるいはそれ以上開くかもしれないですがご理解いただけると幸いです。
次回が一応、運営イベント編なので少なくともこれだけは書き上げる勢いで頑張ります(そこで完結の予定はありません)。
もう一つの方の小説も、前もってお知らせしている通り、現在毎日更新している第一章終了後はしばらく書き溜めのために休載します。ご了承ください。
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