院長エルフのお願い

 エミナとゼファーが遊んでいると、外で遊んでいた子どもたちも騒ぎが気になったのか次々顔を出してくる。よく見れば人間族だけではなく、獣人族や竜人族らしき子供も見える。


 どうやらここは人間族の中では暮らせない異種族の子どもたちを保護している異種族孤児院という施設のようだった。


 人避けの結界は、そういった異種族の子供たちが人間族の貴族に高く売れるので、人攫いが押し寄せてこないようにかけているとのことだった。


 成人して既に別の街に行った子もいれば、残って子供たちの面倒を見続ける子もいる。


 人間族の子供がいるのも、種族偏見を無くすためなのだとか。そう聞くと、成程はじまりの街に人間族以外のヒト種族が居ないわけだなぁと思うわけである。


 因みにさっきまでの説明は、俺の問いかけに意気揚々と答えてくれたケイルのものである。なんかすごい嬉しそうだったな。


 すると、部屋の入口が大きく開かれ、その向こうから老齢だがまだ若々しい顔立ちのエルフ族の男性が歩いてくる。レンジャーのような軽装のケイルとは異なり、神父のような白黒の衣装を身に纏っている。


 おそらくこの人が院長なのだろう。優しそうな雰囲気の人物で、周辺にいた子供たち一人一人を撫でながらこちらに歩いてくる。


「すみませんね、お待たせしてしまったようで」

「いや、大丈夫ですよ」


 エルフの院長は俺の前に立つとスッと手を差し伸べてきたので、俺も立ち上がりながらその手を握る。


 子供たちはゼファーによっていって遊び始めていた。……頑張れゼファー。


「私はここの院長をしています『ケイリス』と言います。今回は私の息子が迷惑をかけたみたいで……申し訳ない」


 エルフの院長ことケイリスはおそらくケイルのことを言っているのだろう、謝罪を申し出てきた。


 うーん、確かに二人をよく見たら似て……はいなかった。全然違うわ。まぁ髪型はどちらも前髪を上げたブロンドのロングヘアだが。


 しかし、先程の子供たちの種族を見るに、おそらくケイルはこの孤児院の出身ってところなんだろう。そこから同じ種族だから養子にした感じかな? まぁ、この世界の養子縁組の制度とか知らないから真相は分からないけども。


「おい、俺は別に迷惑かけてないぞオヤジ!」


 背後でケイルが何やら言っているが、ケイリスは完全にスルーしていた。


 それでいいのか父親よ。あ、咳払いした。


「……さて、来訪者どの。いや、ユークどのでしたな。実は折り入って頼みたいことがあるのです。精霊サマ、それも精霊王の眷属たる風の大精霊ゼファーさまとの契約を果たしたあなたにね」


 ケイリスは真剣な眼差しをこちらに向ける。

 やはりというか、ゼファーとの契約で発生した精霊関係のイベントだったようだ。


 そしてケイリスはその頼み事を、自身の経歴の説明とともに語り始めた。


 ケイリスはこの異種族孤児院の院長になる以前、エルフの国において古代遺跡を調査する遺跡調査隊に配属されていたのだという。


 古代遺跡というのは、このゲーム内に存在していた古代文明が残した遺産などがある施設のことで、βテストの段階では特殊なジョブがいなければ詳細な調査ができない施設として有名であった。その時は特殊なNPCを連れていたらしい。


 残念ながら本サービス開始時点での第一エリア内では、古代遺跡はまだ発見されていない。


 ケイリスは昨日、その遺跡調査隊からとある連絡を受けたのだという。


「実は昨日の夕方、調査隊がエルフの国の近くにある遺跡の調査をしていたところ、遺跡の施設が急に動き出して一人の調査員が転移ゲートによって転移してしまって行方不明となったのです」


 転移ゲートがどこに繋がっているのか調査した結果、この鉱山の村のすぐ近くにある鉱山ダンジョンから入ることができる遺跡に転移していることが分かったのだという。


 しかし、夕方頃といえば俺がゼファーと契約したタイミングなのだが……。


「調査隊は、その調査員の身の上から精霊との契約者が現れたことがきっかけだと判断したようです」


 はい、やっぱり俺が原因でしたわ。


 どうやら俺がゼファーと契約したことで遺跡の機能が一部復活し、それによって調査員はこの鉱山の村の近くまで飛ばされてしまったということであった。


 しかもその調査員、ちょっと特殊な身の上の存在らしく、かなり精霊に近い存在らしい。魔力が並のエルフよりも高く、それ故に遺跡のエネルギー源として魔力を吸い取られているのかもしれないとのことであった。


 魔力を全て吸い取られてしまったら、最悪命を失ってしまうとのことだった。幸いにもその速度は遅いらしいので、あと何時間しかないという話ではないのだが、それでも一刻を争う問題であることには違いない。


「私はここの管理をしなくてはならず、息子一人ではなにぶん頼りなく……そんなところに精霊サマと契約した来訪者様が『幸運』にもこちらに来ていると知ったというのが事の経緯です。どうかあの子を……お願いしたいのです」


 成程、お前が原因だからお前でなんとかしろって……いや、そうじゃないな。うん。


 取り敢えず、人の命がかかってるのなら助けに行かないわけにはいかないし、それが回り回って俺がゼファーと契約したのがきっかけだったら、やっぱり無視したらあとにしこりが残りそうだよな。


 だけど古代遺跡か……。鉱山ダンジョンから行くのだから、おそらくそこもダンジョンなんだろうが、俺ひとりだけだと流石に攻略できる気がしない。


 一応、ケイリスに知り合いのプレイヤー《来訪者》を連れて行ってもいいのかと聞いたが、そこは俺に任せるとのこと。仮にフルパーティーでも、ケイルは着いてきてくれるということだった。


「元々一人で行くつもりだったんだから関係ない。それに俺がいないと場所がわからないだろ?」

「それは確かにな」


 おそらくこういうイベントじゃなければ通れないようなところの先にあるのだろう。そうでなければ気付かずに入って勝手にイベントが進行されてしまいかねない。


 その好意に黙って甘えることにしよう。


「分かりました。その調査員の人、俺たちが助け出します」

「ありがとうございます。よろしくおねがいしますね、【精霊の守護者】どの」


 ケイリスはそう告げて、再び院長の仕事へと戻っていく。普通に俺の称号のことを言っていたが、称号って見えるものなのか……?


 ケイルに聞いてみたが、別に何も見えないと言っていた。


〈シークレットクエスト『精霊姫の救出』を受託しました〉


 その時、クエストを受託した旨を知らせるアナウンスが流れる。


 やはり隠しシークレットクエストだったか。しかし、精霊姫? 確か転移したのは調査員って言ってた筈だが……。


 まぁいいか。取り敢えずクエストの中身を確認してみよう。

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