ゼファー参上!
孤児院の中に案内された俺は、院長の用事が終わるまでしばらく応接間みたいな場所で待つこととなる。
そこにはエミナとケイルもいる。ケイルはおそらく見張りだろうが、エミナは単純に興味本位だろうな。なんせ人避けの結界をしているのだから、人なんて滅多にこない筈だ。
仮に誰か来たとしても、それは食料や生活必需品などを運ぶ役割の人間だろうから顔見知りのはず。
だか俺のようなプレイヤーは興味しかないんだろうな。取り敢えず、身の上話を語ることにする。と言ってもゲーム内の話はまだ一日分しかないのだけども。
流石にリアルの話は……話が訳分からなくなるだろうから、わざわざ言わなくてもいいだろう。
とはいえ、来訪者が突然消えたりすることをさほど気にしてなさそうだったのは驚きだったが。
「へぇー。ユークお兄ちゃん、昨日ハーネスからここに来たんだー」
エミナが、キラキラした眼差しでこちらを見る。因みに『ハーネス』とは俺たちが『はじまりの街』と読んでいる市街地エリアの名称である。
ゲーム内では現住NPCはこちらの方をメインに呼ぶため、プレイヤーとの齟齬が発生しやすい……かと思えば別に『はじまりの街』でも通じるので問題はなかった。
逆に
まぁ、NPCと会話しなければ不要な知識でもあるのだが。
「確か、あそこからだと廃坑道を通らないといけないけど、ユークは一人であのセラミックゴーレムを倒したのか?」
「いや、俺の場合はもう一人、俺より強い来訪者と一緒だったな。後は今はいないけど俺の契約精霊だな。まぁ、ほぼほぼそいつの精霊術で倒したようなもんだけど」
鉱山の村に来るまでの経緯を話す中、うっかり精霊のことを知らないエミナの前でゼファーのことを話してしまう。あ、しまった。
案の定、目をキラキラと光らせてこちらを見てくる。
「精霊さん! お兄ちゃん、精霊さんと契約してるの!! どこに居るの!?」
エミナは爛々とした眼差しで辺りを見回す。あぁ、ここにいると思い込んでるな。今はいないって言ってたけど聞いてないな。
しかしあそこまで期待されていると、流石に呼んであげないと悲しまれそうだな。
ふと隣のケイルに、エミナに気付かれないように小声で話しかける。
(……なぁ、呼ばないといけないか?)
(……出来るならやってあげてくれ。俺もどんな精霊サマか気になるし)
態度には出していなかったが、ケイルも精霊が気になるようだ。
まぁエルフが精霊と簡単に契約できるならみんな契約してるわな。
しかし、どうするか。呼び出そうと思えば呼び出せる。『モンスターコール』を使えばひとっ飛びだ。
しかし、今はリーサに預けているのでリーサに了承を取らないといけない。フレンドチャットのコール機能で話をつければ問題ないだろう。
取り敢えず、院長の用事もまだ終わりそうにないから、ケイルに断って連絡させてもらうことにした。
まぁ作業中で手が話せない場合はコールに気づかない場合もあるが、その時は仕方ないのでエミナとケイルには諦めてもらおう。
『……ユーク? どうかしたの?』
「いや、ちょっと諸々あってゼファーが必要なんだが、こっちに呼び戻しても大丈夫か?」
『えっ!? なんかヤバいの? 敵?』
「いやいや、違う違う、そうじゃない」
コール先で慌ててしまったのか、素材やら何やらが散乱する音が聞こえる。大丈夫か?
取り敢えず、コールするまでに至った経緯を簡潔に説明する。説明し終わったらリーサにため息をつかれた。なんで!?
『なんていうか、ゼファーちゃんの件もだけどユークって、面白いこと起こりすぎじゃない?』
「そうかなぁ」
『そうよ』
指摘されてしまった。しかし、これが精霊関係のイベントであれば『チェーンイベント』である可能性は否めない。俺が【幸運】だったから、ではなく精霊と契約していたから、このイベントは発生したのか?
もしそうなら、ゼファーの存在は絶対必要になるな。
リーサの方もある程度焼入れの作業が終わり、今は形を加工する段階に入っているようだ。まだまだ掛かりそうだが、ひとまずゼファーが必要なタイミングは脱したと思われる。
まぁ最後までゼファーを手放すのを嫌がってたのだが、そろそろケイルの視線が気になって仕方がないので早急に切り上げることとなった。
リーサとのコールを終わらせると、『モンスターコール』でゼファーを呼び出す。
ケイル曰く、人避けの結界は精霊には効果がないそうなので、迷わずに来れるだろう。
それこそ、ものの数十秒でゼファーは俺の前に現れた。
「よう相棒! 待たせたな、ゼファー参上だぜ!」
「待ってないよ。おかえりゼファー」
俺がゼファーの到着を歓迎すると、突然ケイルが立ち上がる。そして、顔面蒼白の状態でそのまま勢いよく土下座の体勢を取った。……なんで?
突然の行動に俺もゼファーも困惑する。エミナも急にケイルが土下座したから疑問に思っているようだ。
でも、土下座っていうよりは格上の存在を敬ってるような感じにも取れる。
「なぁ、相棒。なんであいつ土下座なんてしてるんだ?」
「……さぁ? 土下座ってよりはお前を敬ってるのかもしれないぞ」
俺がゼファーと気さくに話しているのを聞いて、驚いたように顔を上げるケイル。
どうやら、上位精霊という存在はエルフにとってはかなり敬うべき存在だったらしい。
「……ユーク、お前はホント大したやつだな。風の大精霊サマ、それも精霊王サマの眷属たる方にそんな口をきく人間なんて初めてみたぞ」
「そりゃあ、俺は来訪者だからな。あいにく、この世界のマナーとやらには疎いんだよ」
ゲームを始める前にあらかた世界観とかシステムとかは調べたけども、それでも知らないものは知らないからな。そもそも精霊に会った人間なんて現地人でも数えるほどしか居ないのでは?
エミナはゼファーと触れ合ってキャッキャ遊んでいる。うーん、普通に遊んでるし、対等な態度を取るやつが二人目になったんだが、それはどうなのよケイル。
そんな思いを込めて目線を送ったが、さっと目を背けられた。解せぬ。
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