エルフと少女
アルターテイルズを始めてすぐの頃、防具を探している時にはじまりの街の通りを見て気付いたのが、プレイヤーは人間族以外のヒト種族がいるのに、NPCは人間族しかいないということ。
来訪者は来訪者で一括にしているので、この世界には人間族以外は存在しない? と思えば、NPCがエルフ族プレイヤーに対して「エルフ族は久しぶりに見たね」とか言っていたのを小耳に挟んだので、存在はするがあまり見ないというのが正しいのだろう
もしくは、ここが世界の中でもかなり辺境の方にあって、人間族以外の種族は寄り付かないのかもしれない。
今後エリアが開放されたらエルフの国とかそういう感じで実装されていくことになるのだろう。……まぁこれも、今朝方見た考察サイトの考察そのままなんだが。
取り敢えず、少なくのも目の前にいるNPCは人間族ではなくエルフ族なのには間違いない。
問題は、そのエルフの青年が明らかな敵対意識を持ってこちらに睨みを利かせている、ということだろうか。
うーむ、こういうことになるのなら、ゼファーを連れてくるべきだったし、ちゃんとステータス割り振りとかアビリティ習得とかをやっておけばよかったな。
ボスエネミー戦でレベルが14から18まで上がったから割り振ってないステータスポイントとかいっぱいあるんだよな……。
流石に今、そんなことしたら今度こそ狙撃されそう。ヘッドショットされたら流石に即死だ。
とにかく今は、こちらに敵意が無いことだけを伝えることに専念しよう。駄目だったらその時はその時だ。
「えっと、俺はユーク。別にそっちに危害を加えるためにここに来たんじゃない。道に迷って、出たらここだったんだ」
嘘は言ってない。全部本当の話だ。
武器も持っていないとアピールするが、武器は装備状態であればいつでも取り出せるので、いざという時はレンから譲ってもらった魔杖で攻撃を防ぐ。
「道に迷って? ……なら、人避けの結界は働いてたのか。それでここに来るとは中々幸運なやつだな」
エルフの青年は切れ長の目を薄くし、クスリと笑みを浮かべる。
俺が【幸運】のアビリティを持っていることに気付いた? というか、【幸運】にそういう隠しエリアに行きやすくなる効果があるのか?
うーん、確かに幸運の眼鏡以外でこのアビリティが付いてる装備なんて見てないからなぁ。
「そうそう。道に迷ってな。だから、人がいたから話を聞こうと思ってたんだ。別にやましいことはない」
「どうだかな。罪を犯すやつはみなそう言う」
おいおい、なんか子供を連れ去ろうとしてると思われてるのか俺。
しかし、対照的にエルフの青年の雰囲気は柔らかくなっており、いつの間にか矢を構えていた体勢は崩れている。
クスリと笑みを浮かべて、小型の弓を腰の方に回し格納する。
「いや、すまない。本当はお前がそういうやつじゃないってことは見たときには分かってたんだ」
「見たときには?」
「そうそう。だってお前、精霊サマと契約してるだろう?」
そう言われてドキリとする。そういえば、エルフ族は精霊と一緒に暮らすって設定だったか?
精霊石もエルフ族の装備用の強化素材だったし、精霊のことはすぐに分かるのかもしれない。
「エルフ族でも精霊サマと契約するのは難しいのに、人間族なんかが……あぁいやでも、こいつは来訪者だから普通の人間族とは違うのか……でも、上位精霊って……」
今度は何やら一人でブツブツと問答を始めるエルフの青年。最初の険悪な雰囲気は、どこにいったんだろう。
そんな時、エルフの青年の背後から一人のいかにも村娘みたいな服装の少女――おそらく普通の人間族の子供だろう――が近付いていることに気付いたが、その少女がこちらに黙っててとジェスチャーで示したので黙っておくことにした。
そしてその少女は勢いよくダッシュしてエルフの優男に飛びかかった。あ、驚いてる驚いてる。
「うわっ、エミナ! 突然なんだ!?」
「だってケイルー、考え込んでてー、隙だらけだったからー」
村娘風の少女、エミナに抱きつかれたまま困惑した様子のエルフの青年ケイル。
その様子をじっと俺が見ていたことに気付いて、コホンと咳払いをする。
「そうそう、院長先生がねぇー、あのお兄ちゃんを案内してだってー」
「オヤ……院長がか? 成程、分かった」
エミナから院長なる人物からの話を聞いたケイルは、そのまま俺のほうを向くと手招きするように手を振る。
「おい、ユークだったか? 着いてこい。院長が話があるんだとよ」
「あぁ、分かった」
実際には全部聞こえていたのだが、まぁそれは別に気にする話ではないだろう。
ケイルに招かれ、俺は孤児院のような施設――本当に孤児院だったようだ――に足を運ぶことになった。
それと同時に、リーサからフレンドチャットで「ゼファー、貰っていい?」って来たけどやらんぞ。「断固拒否」だ。
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