迷子のユークと隠しエリア
散策開始からしばらく経ち、薄暗く狭い路地裏の中で俺は周囲を見回しながら歩いていく。
因みに今どこを歩いているのかは分からない。迷子真っ只中だったが、ログアウトすれば広場には出るのでいざというときはそのようにする予定だ。今はこの迷子の状態を楽しみたい。
未だに全ての箇所は見回りきれていないが、今のところはセドリックみたいに自分から話しかけてくるようなNPCは、店の商品を見ていたときにセールトークを繰り広げてきた商人くらいだったが、見た感じだと俺以外にも同じような対応をしていたので、あれが普通なのだろう。
……つまり、特に進展はない。
売っている商品もいろいろ見てみたが、はじまりの街よりもレベル制限が高い分、少しだけ性能が高いって感じの装備品が多かった。
逆に食料品関係はほとんどが保存の効きそうな携帯食であった。周囲が鉱山だから生鮮食品は手に入りづらいのだろう。現状、生鮮食品を必要とするプレイヤーは
鉱物関連だが、これに関してはそもそもはじまりの街に売っているものと売ってないものとがあるため純粋な比較はできないが、供給が太いからこそ値段が安いという印象だ。
レンたちが行っている鉱山ダンジョンには銅や鉄の他にも銀も出てくるときがあるらしいが、この村の市場には銀そのものや、銀を使った装備やアイテムは全くと言っていいほど存在しない。
鉱山夫みたいなNPCに話を聞けば、この国の首都や貿易都市に送られているのでここでは出回らないという事だった。
そういう設定で序盤に銀装備を出回らせないようにしているのか、本当にそういう仕様なのかは、正直調べることはできないが、まぁそういう細やかなところは知ると面白いなと思う。
因みにそこでゼファーのダンジョンで回収した宝石を売ろうとしたが、値がつけられないとか、ここでは支払いきれないと言われて断られていた。それ以外の素材は売れたので当面の資金はいくらか確保できたが、宝石が売れないのは想定外だった。
はじまりの街か、それで無理なら次のエリア以降の街か。いずれにせよ、この宝石がそれなりどころではない価値を持っていたことに驚愕するのであった。
ゼファーよ、そういうのを軽々と渡すもんじゃないぞ……。そしてリーサよ、すまん。えらいもんを渡してしまったかもしれん……。
そういう流れで商人に、そして他にも色々なNPCに適当に話しかけてみたが、彼らは全員もれなくちゃんと会話が成立した。
NPCはAIで言動が判断されていると考えられているが、少なくとも一人一人それぞれAIがあるとかじゃないと、ここまで流暢な会話は難しいのではないかと思う。
少なくとも現在俺が知っている市街地エリアだけでもログインしているプレイヤーの半数近くは居るはずだ。
それら全てに一つずつAIがあるのだとすれば、モンスターなどの情報処理も含めるととてつもないレベルのサーバーを使っていることになりそうだ。
まぁ、ワンダー・エクシレル社の持てる技術の全てを注ぎ込んだと言われているゲームなのだから、それくらいは余裕なのかもしれないな。
「さて、取り敢えず何も成果は無かったし、この先にある場所を確認してから、リーサたちの様子を見に戻るかな」
気付けば小一時間散歩していたことに気付き、リーサやゼファーがどうしているのか気になり、取り敢えず路地裏の狭い通りを走り抜ける。ここが行き止まりならログアウトして出直そう。
すると村の端に辿り着いたのか、開けた場所に出る。そこには孤児院だろうか、子供たちが遊ぶ広場がある施設があった。その周辺にある施設は表から見える場所だったのでなんとなく場所がわかったのだが、こんな施設がこの村にあったなんて知らなかった。
気になってメニューからマップを開くが、村の場所を示しているマップのうち、村の外を示す地点に俺の居場所を示すアイコンが点滅している。
つまり、ここはマップ上ではこの場所は存在しないことになっている。
「マジか……ここで隠しエリア見つけちゃう?」
流石に乾いた笑いしか出てこない。
取り敢えず、ここまで来てしまったからには中の様子とか見ておいたほうが良さそうだ。正直、ここに再度来れる自信はない。
俺がその孤児院のような施設の方に近付こうとすると、急に物陰から眼前に向かって何かが飛んでくる。矢尻――弓士の放った矢か!
とっさに避けると、その矢は俺の背後に突き刺さる。
「誰だ!」
「……誰だ、はこっちの話だ。人避けの結界を張っていたというのに、来訪者がこの場所に何の用だ」
声がした方向を振り向くと、急に景色が揺らいで小型の弓を手にしたやや背の低めなツリ目の若いイケメンが現れる。年齢は見た感じだと俺らとそんな変わり無さそうだがその耳は長く尖っており、どうやらエルフ族のNPCのようであった。
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※7/8:プロローグの時系列を変更しました。イベント開催をゲーム開始後一週間となる日曜に変更しました。
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