古代遺跡と精霊姫

鉱山ダンジョン

 鉱山の村、そのすぐ近くにある鉱山に発生したダンジョン。俺たちの目的地はその中にあった。


 このゲームにおいて『ダンジョン』とは、ゼファーがいた精霊の隠しダンジョンという例外を除けば、基本的に複数の階層によって構成された構造物である。


 その階層は洞窟のように複数の分かれ道で構成されていたり、複雑な迷路のような作りになっていたり、巨大なビオトープを形成していたり、だだっ広い開けた空間だったりと、ダンジョンによって多種多様の構成となっており、階層ごとに異なる構成になったりすることもある。


 基本的にダンジョンは下に降りるか、上に登るかの連続となり、βテストでは最低でも5階層はある構成となっていた。だからこそ、精霊の隠しダンジョンのような1フロア式は珍しいのである。


 ダンジョン内では基本的にフィールドエリアよりもモンスターの出現率が高く、またレアアイテムのドロップ率も高いという特徴があり、適正レベルは階層の数字が増えていく毎に上がっていく仕様となっている。


 一方で、分岐型や迷路型のダンジョンでは一切敵が出現しないルートも存在し、そのようなルートでは敵と戦うことなく次の階層に向かうことが可能となる。


 基本的に階段を見つければそのまま次の階層に移動することができるが、5の倍数あるいは10の倍数の階層は特殊でボスフロアと呼ばれる。この階層では次の階層に行く階段の前にフロアボスと呼ばれるボスモンスターが現れ、プレイヤーの行く手を阻む。


 プレイヤーは、それらのボスを倒すことでその先の階層に挑むことが可能となる。また、そのフロアボスの戦闘エリア前に攻略者用のショートカットワープゲートが生成され、そこからダンジョン外に出ることができ、またそのボスフロアからダンジョン攻略を再開することができる。その際、再びフロアボスを倒す必要はあるが、それまでの過程をショートカット可能となる。


 そうして、最終層まで到達してダンジョンボスを倒し、ダンジョンを制覇するということがダンジョン攻略の大きな目的となる。


 他にはダンジョン内で生成される宝箱を集めたり、階層ボスやダンジョンボスのボスドロップを集めたり、パーソナルレベルやアビリティレベル、ジョブレベルのレベリングをしたりと様々な目的がある。


 因みにこの鉱山ダンジョンには入場制限があり、レベル10未満は入場できない。まぁジョブがなければダンジョンの敵を倒すのは厳しいだろうからな。因みに10階層を越えてだいたい現状のレベルキャップ以上の敵が出現するらしい。階層は全部で25階層あるらしく、一番奥まで行けばいったいどのくらいのレベルのモンスターが出てくるのやら……。


 ――と、今回は別にこのダンジョンの攻略に来たわけではないのだ。


「……やっと来たか。だいぶ待たせやがって。俺がどれだけ好機の眼差しに晒されてたと戻ってるんだ?」


 鉱山ダンジョンの入口近くの高い岩場に座って俺たちの到着を待ちかねていた、切れ長の目が吊り上がった顔のいいエルフ族の青年は、散々待たされた事に憤りを感じている様子であった。準備しろと言ったのはそっちの方なのに。


 そのエルフ族の青年ケイルは岩場から飛び降りると、俺たちの元に歩み寄る。


 周囲のダンジョン攻略の為に鉱山ダンジョンの入口に向かうプレイヤーは、NPCのエルフ族をどうしても気になってしまうようであった。まぁ、仕方ないだろう。ケイル、お前は目立つ。


「悪かったな。ちょっとレベル上げとか装備の新調とか色々あったんだよ」

「ふーん……まぁ確かに今朝よりは多少はやれるようにはなってるみたいだな」


 実力を測るように、こちらを睨みつけながらつぶやくケイル。装備もだいぶ変わっているから、見た目でも分かるはずだ。分かるよな?


「それで? 後ろの奴らがお前が言ってた仲間か?」

「あぁ、紹介するよ。レン、リーサ、オークラさん、ユーリカ、リックだ」


 俺はケイルに今回同行するパーティーメンバーを紹介する。ケイルは一人一人値踏みするかのように見つめていったが、うち二人は現時点でのカンスト勢なので特に問題はなさそうで、かといって一番レベルが低いリーサに対しては、その背後で臨戦態勢に移っていたフィーネを目の当たりにして目を逸らしていた。おい。


「取り敢えず準備は大丈夫のようだから、今からダンジョンに入る……が、俺たちの目的地である遺跡の入口は、鉱山ダンジョンの11階層にある」


 その入口から遺跡に入るためには、少なくとも鉱山ダンジョンの11層まではダンジョンを進まなくてはならない。


 そして、この鉱山ダンジョンは階層ボスが5の倍数の階層で出現する故に、11階層まで辿り着くのに2回はボスと対峙する必要があった。


「成程、私達はまだ5層のボスとしか戦っていないが、君はどういうボスなのか知っているのかな?」

「そうだな、確かに知ってるが……いいのか? お前たち来訪者はそういう話を嫌うと思ってたが」


 オークラさんの質問に、疑問を浮かべるケイル。確かにボスの情報は自分で調べるとか言う人多いもんな。


「まぁ、自分らの力だけで攻略するのなら聞くつもりは無かったが、今回はダンジョン攻略が目的じゃないからね」


 オークラさんが俺たちの方を見て、そう答える。確かに今回はダンジョン攻略ではなく、制限時間付きの救出クエストだ。


 まだ遺跡の中がどうなってるか分かっていないのに、ダンジョンの方で時間を取られるわけにはいかなかった。


「成程な。……だがまぁ安心しろ。今回はオヤジの転移手形を使うから、11階層までスキップできる。その楽しみは後に取っておくといい」


 そう言ってケイルは特別な手形らしいものを取り出して、説明してくれる。


 ダンジョン内はスキップと知り、少しだけ残念に思ったのは内緒だ。後で挑戦しに行こう。

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