ワールドイベントの産声

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 ワールドイベントA『赤の悪魔』


 知恵と勇気と力を合わせ、再びこの世界に呼び出された『赤の悪魔』を倒し、世界に秩序を取り戻せ。


・場所:第二の街・司法ギルド内ワープゲート

・突入期限:本日23時59分


★レイドイベント:このイベントは発生者を含む最大10パーティーが『レイドコネクト』を用いることで参加可能となります。ただし、プレイヤーの総参加人数は【40人】となります。レイドコネクト中の人数がそれより多い場合は本イベントを開始することができません。また、少ない場合は付近のプレイヤーから参加者を募って人数を揃えます。


・成功条件:赤の悪魔の討伐

・失敗条件:全プレイヤーの死に戻り


・成功報酬:???


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「成る程。それがワールドイベントの正体か」


 俺たちは特別イベント『断罪裁判』が変化したワールドイベントの内容を確認していた。まぁ、内容はかなり簡素なものではあったが。


 結果として、レンが裁判イベントの前に言っていたレイドバトルというのも決して間違ってはいなかった。ただ、それが思ってもみなかった形として現れてしまったわけなのだが。


 しかし、ワールドイベントAとはどういうことだろうか。また別のイベントでも発生しているのか、それともこれから発生するのか。


 取り敢えず分からない事は置いておいて、俺たちはここに書いてある『赤の悪魔』のことに詳しいであろう、先程ハルトマンが持っていた赤い宝石に反応していた老人に話を聞くことにした。


「あの宝石……赤の秘宝には、かつてこの地を支配していた悪魔が封じられておった。かつて、我らが祖先である赤の貴族たちは同じように悪魔の根城にて勝負を挑み、知恵と勇気と力を合わせ、何とか封印することに成功したのだ。以降、その赤の秘宝は誰の目にも付かぬように宝物庫に封じられておったのだが……」


 それをハルトマンのやつが何らかの方法で入手したということになる。


 どうやら、このデカルトさんの事件よりも前に発生していることから、この裁判もその赤の秘宝盗難を曖昧にするためのものであった可能性が高いという話ではあった。


「何にせよ、悪魔は闇属性や混沌属性を有しておる筈だ。効果があるのは光属性や神聖属性であろう。来訪者の一部は既に手にしておるだろうが……どうやら、お主らはその力を手にしてはおらぬようだな」


 老人が説明した属性は特殊属性と呼ばれる属性だ。基本属性や応用属性なら習得するのは容易いのだが、これらの属性は本サービスではどうやって習得するのか未だに分かっていなかった。


「それらはどうやったら習得できるんだ?」

「教会などで教えを乞えば、覚えることができるだろうが、今からではとてもじゃないが間に合わんだろう。じゃから……」


 そう言うと老人は司法ギルドの裁判官を睨みつける。さっきまで強気だったその裁判官は老人の目を見て「ヒィ」と短く叫んで逃げていく。


「……あの裁判官が使っておったガベル――『正義の鉄槌』を使うといい。あれを打ち鳴らせば、暫くの間近くの味方の攻撃に『神聖属性』が付与され、特殊な結界が張られる。おそらく、あの悪魔の攻撃も一撃程度なら耐えられるだろう」

「成る程、それを使えば――」

「じゃが、容量的にその力を使えるのはせいぜい3回までじゃろう。それに一度使うと再度使用するのに時間がかかる」


 つまり、使い所を見計らって使わなきゃいけないということか。それに近くの味方ってことは範囲での強化になるだろう。そうなると、広範囲に広がるレイドバトルの場合は、効果のかかる人とそうでない人が出てくる可能性がある。


 とはいえ、何もないよりはあったほうが遥かにマシなので、俺はありがたく『正義の鉄槌』を預かることにした。ただ、鉄槌というだけあって一応は武器としてのカテゴリーになってるようだ。


 となると、俺とかでは使えないだろうな。


「……よし。これはリーサ、お前が持っててくれ」

「へ? 私が? 何で?」


 突然、切り札を使う大役を指名されたことに驚きを隠せない様子のリーサ。


「理由としてはお前が武器を手に持たなくても戦えるからだよ」


 俺がそう説明すると「あー、成る程そういうことね」と納得してくれた。少なくとも、これを俺のチームメンバー以外のプレイヤーに預けるわけにはいかないし、ほぼ全てのプレイヤーが両手武器を装備している以上、咄嗟に使うにしても装備の変更ができないと面倒だ。


 その点、リーサの場合はフィーネ自体が武器扱いとなっているため、この正義の鉄槌を装備しても戦力ダウンとはならない。


 後は俺の指示したタイミングでガベルを打ち付けてくれれば、問題ないということだ。


「んー、取り敢えず任せておいて!」

「あぁ、頼んだぞ」


 さて、取り敢えず切り札と呼べそうなアイテムは手に入れたが、問題はこのイベントがレイドイベントだということだ。


 最大10パーティーまで参加できるものの、その人数は40人。フルメンバーでいくと6パーティーとちょっとしか参加できない計算になる。


 しかも、多くても開始できないのでぴったり40人を集める必要がある。少ないと見知らぬプレイヤーが参加するらしいのもまた面倒だ。


 基本的には俺たちの知り合いを呼び出して参加してもらうのが一番なのだが、目下の悩みが誰を呼ぶのかというものである。


 最悪、掲示板を使うという手もあるが、連携が取れずに負ける可能性が高い。


「うーん。フライ・ハイも暁の戦姫も、確かまだ第二の街には辿り着いていないんだよなぁ……」


 そう口にした瞬間、話題に上げていた暁の戦姫のリーダーで従姉のシグねぇが俺にフレンドコールを飛ばしてきた。噂をすればなんとやらって本当なんだな……。


 タイミングがバッチリ過ぎて、まるでどこかで見てるんじゃないかっていう感じで、少し怖くもある。


『もしもしユーくん!? ねぇ、ワールドイベントってもしかして、ユーくんたちが起こしてたりするのかしら!?』


 そう、そのまさかです。


 取り敢えず、俺は尋ねられたのでシグねぇに諸々の流れを説明する。すると、シグねぇは「だったらほんとに好都合ね」と口にする。


 実はシグねぇたち暁の戦姫はフライ・ハイと共に、祝賀会が終わったあとエリアボスに挑んでいたみたいで、その日のうちに開拓の村までは到着していたようだ。


 その後、今日の朝から第二の街に向かっていたのだが、その途中でワールドイベントのアナウンスが流れ、そのイベントの発生場所が司法ギルドとなっていたことから、祝賀会にて俺らが裁判イベントを発生させたという話をしていたのを思い出し、急いで連絡してきた、ということらしい。


『取り敢えず、フライ・ハイ含めて私達はあと2時間くらいで第二の街に到着するから、問題なく参加可能よ』

「マジか! 助かるよシグねぇ! オークラさんたちにも助かると伝えておいて!」

『分かったわ』


 もしかしたら間に合わないかもと思っていたが、なんとかフライ・ハイと暁の戦姫の協力を取り付けることに成功した。


 さて、後は誰に声をかけてみればいいだろうか……?

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