分かれ道
「これが、古代遺跡……」
俺は目の前に広がる、古代の超文明の遺跡を目の当たりにして衝撃を受け、言葉に詰まってしまう。
俺の中で古代遺跡といえば探検家が旅するようなボロボロになった神殿とかそういうものなのだろうと思っていたが、ここはどちらかというとそれとは真逆の位置にあるような、そんな場所だった。
勿論、しばらく誰も踏み入れていないためか、埃や蜘蛛の巣みたいなものが積もり積もっている様子ではあるが、その通路はSFでよくあるような金属みたいな物質で作られており、入口で見たような幾何学模様が精密に溝掘りされているように刻み込まれている。
時々、まるで遺跡が脈動しているかのように青白い光が床や壁を走り去っていく。
いつか夢見た近未来の宇宙船の中のような、そんな光景がそこにはあった。
『…………』
そんな中、リーサの側で歩いていたフィーネは周囲が気になるのか、あちこちをキョロキョロ見回している。
フィーネの姿も、この遺跡の構造に近いといえば近いのかもしれない。そういえば、フィーネのコアユニットはゼファーの隠しダンジョンで入手した遺跡の宝石だったはずなので、もしかしたら内部的な意味合いで懐かしさを感じているのかもしれない。
「やっぱり遺跡内部が動いてるってことは、調査員の魔力でシステムが生き返ったな……となると少し厄介だな」
「なにがどう厄介なんだ?」
「普通なら此方から仕掛けを発動させなければ罠は発動しないが、システムが生きてると遺跡そのものが侵入者を排除するために向こうが罠を発動させる。だから厄介なんだよ」
ケイルはそう言って周囲を見回す。すると目の前の壁にある罠のスイッチであろう、壁の凹みがひとりでに沈んでいく。誰も押していないのにだ。
前方から無数の槍が飛んでくるので、オークラさんが盾を翳して盾術スキルの『エリアバリア』を発動する。これは一定の周囲に自身と周囲の味方を守護するエリアを形成するというものだ。
そのエリアに当たった槍は、高い金属音を鳴らしながら地面に落ちていく。無事に槍の罠を耐えることに成功する。
俺らは地面に散らばった金属製の槍を拾い上げる。かなり大きく、防御できなければ確実に刺し貫かれてしまっていただろう。見たことない素材でできた槍だったので一応回収しておこう。
その後も、意図して踏むわけでもない罠が次々発動して、翻弄されていく。
幸いにもそれらの罠が発動するよりも前に、予めリックの持つ【罠感知】やケイルの【野外直感】というアビリティで感知する事ができた為に余裕をもって対処することができていた。
「しかし、βのときも思ったが超文明の遺跡なのに罠が普通だよな」
「確かに。今のところ槍に弓、火炎放射に鉄球とか、普通にありそうなやつばっかり。てっきりレーザーとか見えないワープゲートとか来るのかと思ってたわ」
レンと俺が罠の様子を見てそんなことを喋っていると、ケイルが呆れたような顔でこっちを見てくる。
まぁ、言わんとしてることは分かる。「こっちが罠探してるからそう言えるんだぞ」って顔に出てる。
罠の数だけは確かに多いが、この程度なら問題はなさそうだ。
「二人共、少し気を引き締めろ。さっきもケイルが言っていたが、この遺跡は生きてる。簡易的な罠で油断させておいて、えげつない策を講じてくるかもしれん」
流石に気が緩みすぎていたのか、オークラさんに指摘される。初めての古代遺跡で少し浮かれてたみたいだ。反省反省。
「まぁ確かにここはまだマシな方だ。が、奥に近づけば遺跡の
ケイルはそう告げ、俺たちは一本道の遺跡の道を罠の対処をしながら進んでいく。
更にしばらく進むと、ある開けた場所に到着する。そこには二本の分かれ道があり、それぞれの道の上には赤と青のランプが灯っていた。
その分かれ道を見て、ケイルは露骨に嫌そうな顔をする。
「クソッ、構造違うじゃねーかオヤジ……分割攻略とか聞いてないぞ……」
ケイルの呟きに反応するのはレンをはじめとするβテスターたち。
どういうことかと聞けば、ユーリカが「二手に分かれて同時に攻略する必要があるギミック」と答える。
攻略するのが片方だけだと行き止まりのままなので、もう片方も攻略しなきゃいけないが、もう片方を攻略しようとすると、さっき攻略した方がまた未攻略状態に戻るため、同時に攻略しなくてはならないのだそう。古代遺跡にたまにあったギミックらしい。
成程、この隠しクエストがフルパーティー推奨なわけだ。
ここで二手に分かれるから、俺1人だった場合だと俺とケイルとで分かれて探索する必要があるが、フルパーティーならケイルを含めて3人と4人に分かれることができる。1人と3人では罠やギミック、敵との対処の方法も変わってくる。
ここで問題となるのはパーティーをどう分割するかなのだが、その点はフライ・ハイの3人と俺・レン・リーサにケイルを含めた4人という分割になることが即決まった。
ケイルはともかく、それぞれの付き合いがあるので変にバラけさせるよりは連携が取れるはずだ。
悪意があるパーティー分割だと転移罠でランダム分割してくるらしいので、それよりは遥かに心優しいギミックだった。
「取り敢えず、何かあればユークくんかレンから私の方にチャットで連絡してくれ。こちらも何かあれば即連絡する」
「分かった。オークラさんも気をつけて」
俺たちは右の分岐、フライ・ハイは左の分岐から先に進むことにした。ここから先はフライ・ハイのメンバーの力は借りられない。
俺たちの本当の遺跡探索が始まった。
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