ギルド支所に入ってみる
ミュアとの他愛ない会話を続けながら歩いていると、ふと大きめの建物が目に入る。
確か、鉱山の村にもあったギルド支所という施設だ。あの時はリーサの人形に必要そうな素材を買い集めるためだけに行っただけだったので、まともにギルドらしい利用をしてなかった。
もし、あの時依頼などを捜しておけば、今朝のような理不尽な目にあうことはなかっただろう。まぁ、あれはあれで今後のモチベーションに火がつくきっかけになってくれたので、良かったのだが。
……取り敢えずEランクにはなったものの、今の俺は未だに冒険者ギルドとしての依頼を一度も受けたことがないことになる。
また、次のエリアが解禁されたって時にギルドランクが上がってないなんてことになったら、今度こそみんなに笑われてしまう。
少なくとも、ギルドでの依頼がどういうものなのかは体感しておく必要はあるだろう。
……まぁ、本来ならそういうのをはじまりの街の冒険者ギルドで学んでおかないといけないのだろうが。
「……ミュア、ちょっとギルド支所に寄ってもいいか? 依頼にどういうものがあるのか見ておきたい」
「構いませんよ。まだ皆さんと合流するまで時間もありますし、すぐに終わりそうなものなら今から向かってもいいかもしれませんね」
成程、時間のうまい使い方っていうのはそういう使い方なのか。俺なんて暇だなーってぶらぶら街を歩くくらいしか考えつかなかった。
……いやうん、そういう思考しているからギルドランクの上げ忘れとかやらかすんだろうな。
取り敢えず、俺ははじまりの街の冒険者ギルドよりは小さいものの、鉱山の村のそれよりはやや立派なギルド支所の建物の中へと足を踏み入れる。
中身は今朝入った冒険者ギルドを一回り狭くして、色々施設を詰め込んだ感じといったところか。
酒場は当然ながら存在せず、ギルドショップは冒険者ギルド・生産者ギルド・商人ギルドのものが一つになっているようだ。
受付は各ギルドで一つずつ。個別の窓口となっている。まるで役所の窓口みたいだ。
依頼掲示板は普通に置いてあるが、ギルド支所の依頼掲示板はどうやら全てのギルドで共通となっているらしい。冒険者ギルドでよくある討伐や採集依頼に、生産者ギルドでよくある生産物の納品依頼、そして商人ギルドでよるある……かどうかはわからないが、 金銭トラブルの解決依頼などが一緒くたにまとめて貼られている。
取り敢えず、依頼掲示板を見るよりも前にまずはここの冒険者ギルドの担当に顔を見せる事にしよう。
ここの担当はいかにも気難しそうな雰囲気が漂う妙齢の女性のようだった。
「こんちわー」
「……依頼なら適当に向こうから取ってきな」
まさかのこちらを見もせずに門前払いである。
うーん、この反応はちょっと頭にくるな。
「すいませんねぇ、俺依頼を受けたことがないんですよ。だから教えてもらえませんかねぇ?」
流石に依頼のやり方自体はネットで調べているので知っていたのだが、何か頭にきたので本人から説明してもらうことにしよう。
皮肉たっぷりに言ったので、担当の女性はすごく怪訝そうな顔でこちらを見つめる。目付きがすごく鋭い。
「あんた、来訪者だろう? 来訪者がこの村に来るにはEランクは必要な筈だが、それが依頼をこなしてないだって?」
「えぇ、嘘はついてないですよぉ?」
ホントに嘘はついてないので正直に答える。対する担当の女性はなおのこと怪訝そうに俺の顔を見つめている。
すると、ギルドカードを見せろと言ってきたのでそのまま彼女に渡す。そのカードに刻まれた文字がちゃんとEランクであることを証明している。
「確かに偽造はしてないみたいだね。……ふむ、ランク昇格試験を受けたのかい。成程ね、それなら確かに依頼をこなさずにここに来れるが……あんた、試験の担当は誰だったんだい?」
「え? えーっと、アドミスって冒険者ですけど……」
そう俺が告げると、目を見開いてこちらを睨みつけてくる。やだ怖い。
そして、次の瞬間には高笑いをし始める。周囲にいる他のギルドの担当やギルド支所にいたNPCやプレイヤーが一気にその担当の女性を見る。
同時に俺も視線を浴びることとなる。
「アッハッハッハッハッ! あのアドミスと対峙して合格をもぎ取ったのかい? あんた、なかなかやるもんだねぇ! 気に入ったよ、ユークっていうのかい? いいよ、依頼のやり方を親切丁寧に教えてやろうじゃないか!」
どうやらアドミスの名前はちゃんと知れ渡っているらしい。まぁ、Sランク冒険者が無名とかちょっと笑えないしな。
そんなこんなで目の前の女性からは認められたらしいが、なんだろうあまり嬉しくはない。
取り敢えず担当の女性――名前はアダレッタというらしい――から説明を受けることとなる。
「まぁ、そんな難しいことはない。あそこにある依頼掲示板から目ぼしい依頼を選んでこっちに持ってきて、あたしみたいな担当に依頼の受注を受理してもらう。それだけさ。……あ、依頼書はちゃんと剥がして持ってくるんだよ?」
まぁ、やり方自体はネットで聞いたものとだいたい同じみたいだな。
実際の仕様では、依頼掲示板で依頼を見てからそこで依頼を選択することで依頼書が剥がせるようになるため、剥がした段階でも依頼を受注した扱いになる。まぁ、依頼書を受付や担当に渡さないとギルドから出られないので、結局は受理してもらう必要があるのだが。
「さて、それじゃあ適当に依頼を選んできな。まぁ、あんたの実力的にどの依頼を選んでも問題ないだろうがね。……因みに印の色で分けてるからね。赤色が冒険者ギルド、緑色が生産者ギルド、黄色が商人ギルドの依頼書だから間違えるんじゃないよ。違うところのものを引っ剥がしてきてもこっちじゃ対処できないからねぇ」
「成程ー、赤色のを剥がしてくればいいんですねー」
「そうさ。内容は討伐系・採集系・護衛系・その他で、それぞれ印の形で分けてあるから大まかに分類するといいさ。……あと、もう私に慣れない敬語を使う必要はないよ」
「そうか。じゃあ、わかった。取ってくる」
そう言ってアダレッタは俺たちを依頼掲示板の方に押しやる。あまり人気はないので、依頼掲示板をじっくり見ても誰からも文句は言われないだろうから、ちゃんと見てみることにしよう。
とはいえ、あくまでここは小規模な市街地エリアなので、依頼数自体は少なめだ。また割合的には生産者ギルドの納品系が多い印象だ。まぁ立地的に素材よりも現物を欲するNPCが多くてもおかしくはない。
冒険者ギルド向けの依頼書は全部で5枚ほど。そのうち2つが討伐系で、2つが採集系、1つが護衛系の依頼だ。アダレッタの言う通り、それぞれアイコンの形が違っているようだ。
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