第五章『護衛依頼と運営イベント』

初めての依頼へ

開拓の村にて

 昼食後、再びログインした俺はミュアたちと再会して開拓の村の散策を行うことにした。なんせ、第二エリアに着いて初の市街地エリアとなるのだから、何があるのかちゃんと見ておきたいからな。


 因みにゼファーは散々ミュアに撫でられていて疲れたのか、ログイン早々不可視化状態のまま俺の頭に飛び込んできてそのまま眠りについてしまった。


 あと、グレイは待っていたと言わんばかりに、こちらを爛々とした瞳で見つめていた。片目でだけど。あと、尻尾が凄い横揺れしている。ご機嫌だな。


「よし、取り敢えず適当に色々見て回るか」


 この開拓の村は、かつてこの第二エリアである開拓地を切り開く際に拠点として用いられていた村のようで、その設備は小規模市街地エリアにしてはかなり整っている。


 ギルドは複数のギルドをまとめたギルド支所となっているものの、先の来訪者プレイヤーの大移動の影響でお助けNPCたる冒険者たちがこの村には多数駐在している為、素材集めの護衛から通常の戦闘パーティーの人数集めまで多種多様な用途で利用することが可能となっているようだ。


 その点は朝にアドミスが説明していたそのままのようだ。


「NPCの店も、結構多いんだな……。おっ、HP高回復薬にMP高回復薬が売られてる。あっちじゃどこ回っても低ランクの回復薬しかなかったのにな」

「てすが、メルカの良品店のほうがランクが良いですね」

「まぁ、そこはプレイヤーメイドとの差だな。NPCが手を抜いてるってわけじゃないんだろうけど」


 ここのNPCの店は、基本的にどの店もはじまりの街にあったものよりはランクがいいものを置いているが、流石にプレイヤーメイドと比較したらそれほどでもないように感じてしまうのは仕方のないことだ。


 NPCの店でプレイヤーメイドと遜色がないものが売られていれば、生産職プレイヤーの存在する意味がほとんどなくなってしまうからな。


「そういえばミュアは、さっきまで一人で色々見て回ってたと思うけど、何か目ぼしいものは見つかったか?」

「そうですね……目ぼしいもの、と言われても即座には出てきませんでしたけど、ここは皆さんみたいな来訪者じゃない、人間族以外のヒト種族が多いですね。おかげで私も堂々と歩けました」


 ミュアがそう告げるので改めて周りを見てみると、確かにNPCらしい人間族以外のヒト種族が多数見られる。何故NPCだと分かるのかといえば、来訪者は基本的に性能重視でバラバラな装備を着込んでいる為、外見に違和感が生じていることが多いため、それ以外は基本的にNPCだと言えるからだ。


 勿論、リリーのように武装装飾をつけたプレイヤーやしっかりとシリーズ物を集めたプレイヤーも居ることは居るのだが、だいたいそういうプレイヤーの格好はNPCの物と比べるとやはりどこか浮世離れしているものとなっている。


 なんというか、NPCの格好はこの世界でちゃんと生活しているんだなと思えるようなものとなっているのだ。


 まぁ、その点を言うと、あからさまな冒険者然としているミュアの姿はNPCよりは来訪者プレイヤー寄りだったりする。まぁ、似たような姿のケイルの例もあるので、居るところには居るだろう、こういう格好のエルフ族。


「うーん、取り敢えず簡易テントも購入してたし、ぶっちゃけやることは無いんだよなぁ……」


 簡易テントはログアウト前に全員でお金を出し合って3セット購入した。一つの簡易テントで3人まで安全にログアウトすることができる。前に説明した通り、使用回数は一回きりの使い切りタイプだ。


 簡単な獣よけ効果もあるので弱いモンスターから狙われる危険性はないのだが、万全を期してセーフエリアで使うのがいいだろう。


 特に第二エリアは普通に自身のレベル以上を遥かに超えたハイレベルモンスターが突発的に出現するらしく、そういうモンスターに対しては獣よけ効果は発揮されないので、かなり危険となる。


 因みにセーフエリアだったら別に簡易テントを使わなくてもいいのではないか――と寝る前にセーフエリアでそのままログアウトしたプレイヤーが居たのだが、翌朝ログインするとログアウト前に最後に訪れていた市街地エリアの噴水前に降り立っていたらしい。


 結果として、ログアウトする際に宿泊ないし睡眠を選択しない限り、ログインする場所は最後に訪れた市街地エリアの噴水前となる仕様を忘れていたという話だ。


 なお、そこでプレイヤーハウスを所持している場合やチームメンバーのハウスに自身の部屋を所持している場合は、噴水前かプレイヤーハウスのどちらかを選択できるようになっている


 まぁ、ややこしいことは考えずに、簡易テントはフィールドエリアでログアウトする際には必要となるアイテムだと覚えるといいだろう。


 第一エリアだったら歩いて小一時間程度で辿り着くような場所に諸々のスポットがあったので、こんなアイテムは必要なかったが、あれだけ広大な場所だと無いとやってられないだろう。


「しかし、例のコロシアムでの闘技大会の参加回数の特典で使用回数が多めのテントがデカデカと紹介されてたのははちょっと笑ってしまったな」


 それは、簡易テントを購入した店で第二の街のコロシアムで行われている闘技大会の案内を見てた時に見つけた文言である。


 何故そこまでテント押しなのかと思うくらいに大きく取り上げられていたのだ。


 因みにその闘技大会自体は常時開催のものと、イベントで発生するもののニ種類が存在し、後者は剣闘士グラディエーターなどの闘技場関連のジョブ習得用のものなので自分以外は全てNPCとなる。


 前者の場合も、プレイヤーの参加人数が少なければ普通にNPCが参戦してきたりするらしい。


「あぁ、『耐候性高級制式テント』ですね。あれは使用できる回数もかなり多いですし、中もかなり寛げるので結構人気なんですよ。家族に強請られて出場している父親とかも多いらしいです」

「……えっ、そういう形で参加するの? 闘技大会に?」


 そりゃキャンプとかには便利だろうけどさ。

 父親が家族のために闘技大会で剣を振るうって、そんな球技大会みたいなノリで言われても困惑してしまうよ。


 まぁ、コロシアムが街の中心にあるようなところなんだから、一般市民が好戦的でも何らおかしくはないか。……いや、おかしくない?


「それで、ユークさんは闘技大会に参加するんですか?」

「うーん、どうしようかな。ルール的に従魔の参戦は無理っぽいから、普通に勝ち残るのは難しそうだけどね。俺の場合『精霊術』頼りになるんだけど、ゼファーが居ないと火力が落ちるし」


 そんな時、自分の名前が呼ばれたと思ったのか、頭の上で動き出すゼファー。しかし、そのまままた眠りについてしまったようだ。


 俺が習得した【精霊術】は、契約した精霊が覚えている精霊術を使用可能とする技能アビリティなので、実際にはゼファーがパーティー内に居なくても使用自体は可能なのだが、その場合威力や効果が減少してしまうというデメリットがある。まぁ、その分消費するMPも減少するので連発できるというメリットもあるわけだが。


 というか、実際のエルフ族が使う精霊術の仕様をメルカの店でユーリカやシグねぇに聞いてみたのだが、そもそも常時精霊が側にいるという状況自体が異例中の異例であることが判明した。


 本来は契約した精霊の力を一部使わせてもらい、ここぞというときに『精霊召喚』を行うことで真の力を発揮するという使い方が正しいらしい。


 成程道理で精霊術の消費MPが馬鹿みたいに高いわけだと、その話を知って納得したわけである。


 とはいえ、俺の場合は【MPセーブ(精霊術)】があるので、ゼファーが共に居ても精霊術を普通に使えているから、あまり関係のない話ではあったのだが。


 というか、ユーリカやケイルの姿を消した精霊って、もしかしてそういう召喚系のスキルやアビリティが無いから姿を消していたりするのか?


 ……いや、だったら契約と一緒に召喚系のスキルやアビリティを覚えてないのは流石に変だろう。やはり違うか。


「取り敢えず、今度あるバトルロイヤルのイベントに参加してみて、対人戦の手応えを確かめてから考えてみるかな」


 まぁバトルロイヤルはゼファーやミュアたちの力をガンガン使うつもりなので、あまり参考にはならないだろうが。


 そういえば、エリアボスの討伐特典と最初に称号数10個に到達した特典とで合計10ポイントのアビリティポイントを獲得していたな。


 せっかくさっきのエリアボス戦で【魔杖術】の技能アビリティが習得可能になったのだから、こういったものは早々に覚えておくにこしたことはない。


 効果を見れば、専用のアーツやスキルを習得するだけでなく、杖の中でも『魔杖』にカテゴライズされている武器を装備・展開した際のあらゆる攻撃のダメージ量に対して補正効果をもたらすというものになっている。


 通常の【杖術】のアビリティであれば、杖による打撃攻撃やアーツのダメージ量に補正が与えられるが、こちらの場合は魔杖を装備している際の全ての攻撃が対象となるため、俺の場合だと精霊術スキルも対象となる。まぁ、魔杖という魔術に特化している武器を対象にしたアビリティならではの効果というべきだろう。


 流石に宝風剣展開時とは比較にはならないだろうが、これで魔杖装備時でも精霊術を十分火力として使えるようになる点は、かなりの魅力だと言えるだろう。


 早速習得したが、まぁ当然のことながら中級技能なのでスキルもアーツも習得はしない。こっちも魔杖を使うことで地道にレベルが上がることだろう。


 どういったスキルやアーツを習得するのかが楽しみである。

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