採掘の時間と賊の噂

 それからの道筋であるが、まず移動開始時点で俺の従魔について全て説明した。流石にゼファーの存在を明かさずに一緒に行動するのは無理だったからだ。


 しかし、メリッサの反応は特にそれなりだった。


 そこでよくよく考えてみると、この第二エリアには普通にエルフ族も居るし、中位以下の精霊と契約できる精霊の泉があるのだから、精霊の存在は知っていてもおかしくはなかった。


 とはいえメリッサも実際に見たのは初めてだと言っていたので、話には聞いてる程度の存在なのかもしれないな。取り敢えずゼファーたちとは仲良く接しているので良かった。


 因みにミュアのことだが、ハーフエルフである彼女の境遇には自らのことのように悲しんでいた。


 そして更に途中でサザンカさんが例の装備の強化素材がこの辺りで採集できるからと、途中で採掘の時間が始まることになった。


 当初はそんなことをしている余裕は無かったのだが、リーサやナサ、リリーが昼間の間に【早移動】のアビリティを習得していたので、ミュアやサザンカさん、そして依頼主のメリッサ以外がある程度速く移動できるようになり、少し余裕が出来たので採掘が可能になった。


 その習得方法は村系の市街地エリアにいる『足の速い子供のNPC』と『かけっこ』で勝負し、『三連敗』することである。


 なお、一回でも勝利すると例のラピッドラビットで得られた装備に付いている【駆け足】のアビリティが習得可能となる。


 使い所は【駆け足】の方が多いだろうが、【早移動】の方は今のところ、この習得方法以外には俺が持つダンジョン産の装備くらいしかないので、基本的にこの方法で習得するのは【早移動】の方が多いらしい。


 因みに速く移動できないであろうミュアやサザンカさん、そしてメリッサは【体格変化☆】で大きくなったグレイに乗ってもらっている。


 ミュアは俺の【騎乗】の補正効果だが、サザンカさんは自身のSTRで無理やり乗りこなしている。戦闘職ではないのだが、実はレンに次いでSTRが高いので普通にしがみつくことができていた。


 そしてメリッサは昔から従魔士が連れていた獣型モンスターに乗って遊んでいた経験があるらしく、動物に乗る事自体は問題無いと言っていた。おそらく確認はできないものの【騎乗】のアビリティを持っているのだろう。習得方法が分かっていないだけで別にジョブ専用という訳ではないだろうから、持っていてもおかしくはないのだろう。


 まぁ、そもそも【早移動】の速度にグレイが合わせているので、そこまで高速移動しているわけではないから振り落とされる事自体がありえないのだが。


 因みに採掘中、メリッサはナサと楽しく喋っている。同じお嬢様(推測)として気があったのだろうか。ナサも楽しそうなので何よりである。


 ……リリーがお嬢様を取られたと言わんばかりに恨めしそうに見ていたが、すぐにナサに呼ばれて話の輪に入って、恍惚そうな表情をしていたので問題はなさそうだった。


 そんなリリーの頭に犬耳が見えた気がした。……やはり従者はどこまで行っても従者なのだろうか。


「しかし、まさかサザンカさんが余ったアビリティポイントで【採掘】を習得していたとはな……」

「まぁ、採掘スコップと違って採掘マトックは【採掘】が無いと効果が激減するからな」


 そんな採掘の時間では基本的にサザンカさんが一人で素材集めをしていた。


 理由としてはその強化素材が採掘しなければ採集できないアイテムだからなのだが、ここでサザンカさんが取り出したのは採掘マトックという採集アイテムだった。


 マトックというのは片方がつるはし状、もう片方が鍬みたいになっている道具のことで、掘ったり削ったりするのに特化している採集アイテムだ。


 俺たちが以前、陶芸土を集めるのに使った採掘スコップでは柔らかい土しか掘ることができないが、こっちはある程度硬い岩などもSTR次第で砕くことができる。


 また特定の採集アイテムの場合、その採集活動に合った行動アビリティを所有していないと効果が激減してしまう。まぁ、採集成功確率が落ちたり、採集した際の数が減ったりと散々な目になる。


 だから基本的にアビリティなしでも普通に使える採集アイテムが使われるのだが、その場合も特定ランクまでのアイテムしか手に入らないなどの制限がある。


 なので、ある程度上のランクに位置するアイテムを入手するには、やはり採集行動アビリティ持ちの素材集め人員が必要になってくるというわけである。今回はこのパターンとなるようだ。


 因みにこの行動アビリティの件も生産技能と同様にリアル技能で補えたりもするのだが、それはまた別の話なのでここでは割愛する。


「ふぅ……これくらい集めれば強化の方は大丈夫かな! ……みんなー、集め終わったよ!」

「うわっ、サザンカさん! マトック振り回すの危ないですから! ストップストップ!」


 ある程度採集し終わったのか、サザンカさんは採集マトックを振り回しながらこちらに向かってくるので注意する。いやはや、非常に危ない。


 採集アイテムは基本的に武器としても扱うことも可能となる。理由としては採集途中でモンスターに襲われた際に即座に対処するためである。


 だが、戦闘中に武器として使ったら、どんなに長く使えるタイプの採集アイテムであってもその戦闘後に必ず壊れてしまうというデメリットもある。……いや、むしろ戦闘中によく持ったと思うべきか。


 因みに採掘マトックは斧扱い、採掘スコップは槌扱いらしい。スコップは叩きつけるという意味合いなのだろうか?


 まぁそれらのことはひとまず置いておくとして、戦闘中は同じパーティーメンバーの攻撃を食らってもダメージを受けないが、それはあくまで戦闘フィールド内での効果であり、それ以外のフィールドエリアなどでは、普通にダメージを受けてしまう。


 それ以前にマトックなんて殺傷能力の高そうなものを普通に振り回さないでほしい。絵面的に怖い。


「ご、ごめん……テンションが上がっちゃってつい……」

「珍しいわね、いつも落ち着いてる感じのサザンカさんがテンション上がるだなんて」

「だ、だって! 装備強化素材の武強鉱石だけじゃなくて、ランク5の中鉄鉱石とか、アルドライト原石とか出てきたんだよ!? これを使ったら、ユークくんやレンくん、リリーちゃんたちの装備がもっともーっと、強くできるのよ!」


 テンションが昂りすぎて、すごく早口になってる。確かにこんなサザンカさんは見たことがないな。よほど、鍛冶士として腕がなるのだろう。


 何より俺たちの装備がもっと強くなるというのは嬉しい話だ。


 そういえば、サザンカさんは可愛らしくない銀鎧装備に関して凄い反応を示していたし、リリーの防具に関してはより力を入れて作りそうだな。


 ……俺の装備とか後回しにされないよね?


 そんなやり取りを見ていたメリッサが、ナサたちから離れてこちらに近づいてくる。因みにナサたちはグレイのもふもふを堪能していた。


「フフッ……面白い人たちですね。これがあなたのチームですか、ユークさん」


 これまでの同行で少しだけ俺たちに対して心を開いてくれたのか、さっきまで触れていたであろうもふもふに癒やされたのか、話し方が少し柔らかくなったような気がする。


 もしかしたら、こっちの方が彼女の素なのかもしれない。おそらく、最初は依頼主という立場的に強気である必要があったのだろう。


「ん? あぁ、すまないなメリッサ。急いでたのに寄り道してしまって」

「いえ、構いませんよ。どの道、今日はあの寄宿場までしか行けないですし、グレイさんのお陰で私はかなり楽させて頂いてますから」


 そう言ってニッコリと笑みを浮かべるメリッサ。気を張り詰めていない様子の彼女は元がいいのか、かなり可愛らしい。


「そうか。そう思って貰えるならこっちとしても助かるよ」


 寄り道に対して問題なさそうな雰囲気だったので一安心していたが、それに対してメリッサは少しだけ表情を暗くして不安を口にする。


「……ですが、気をつけてください。最近この辺りを賊が根城にしていると噂に聞きました。もし、怪しい感じなら引き返しても構いませんからね……」

「まぁ、その時はその時だな。……因みにその噂は誰から聞いたんだ?」

「……? 私の乳母ですわ。私を開拓の村に向かわせた際に教えて――って、なんでもないです!」


 そう告げると、メリッサは再びナサとグレイの元へと向かっていく。うーん、どうにも訳ありっぽいのがだんだんと色濃くなってきたな。


 グレイはすっかりメリッサたちに心を開いたようで、じゃれて遊んでいる。


 サイズが小型犬サイズなのも相まって、まるで飼い主と遊ぶ犬のようだ。というかなんか俺より懐いてない? 気のせいか?


 ……さて、そんなメリッサが言っていたが、やはり賊の出現が今回の護衛イベントの中身のようだな。


 メリッサから聞かされるまではそういう話はNPCからも聞かされていなかったし、掲示板にも当然ながらそういう話はなかった。つまり、メリッサが居るから出てきた情報となる。


 因みに彼女が賊の仲間で、俺たち冒険者をハメるために依頼人として依頼を出した、という話の流れもありそうだが、その場合は彼女がわざわざ賊の話をする必要はないので、今回はそういう心配はしなくていいだろう。


「……賊の件だけど、どう思うよレン?」

「そうだな。まぁ、彼女を護衛しながら敵を倒すっていうイベントなんだろうけど、問題はどうすればクリアになるのか、だな。掃討系なら全部倒せば済むけど、大将系だと戦力の割り振りが問題になる。まぁ、俺とユークで事足りるとは思うがな」


 隣でメリッサの話を聞いていたレンは、この護衛イベントの攻略方法を考えていた。


 掃討系は、文字通り全ての敵を討伐すればクリアというものだ。


 これはとても分かりやすい。とにかく全ての敵を倒してしまえばいい。


 対する大将系は、賊の中に一際高い戦闘能力を持った大将的存在が出現するというもの。


 これは大将を討ち取らない限り、手下を倒したところでイベントが終わらない。しかも手下が増える可能性もある。


 こっちは対処する際に戦力をどう割り振るのかが重要になってくる。大まかには大将と戦う役割、護衛対象を守る役割の2つだな。


「だな。取り敢えず、大将系でくると想定しておくか」

「あとは大将クラスのヤツがどんだけ強いか、だな……」


 こういう賊の出現イベントは、βテストでもよく発生したらしいので、レンは対処の仕方がよく分かっている。なので、今回はレンに指揮の方を任せるつもりだ。


 チームリーダーなのに情けない限りだが、ここは適材適所という形で頼みたいところだ。




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(6/26)ユークとメリッサの会話シーンに一部地の文を追加しました。

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