波乱の護衛イベント

依頼主に会いに行こう

 依頼の時間直前になり、サザンカさんたちと合流した俺たちは、パーティーコネクトで俺と従魔のパーティーと残りのオーバークラウンのメンバーのパーティーを一つにしてから護衛依頼の依頼主の元へと向かうことになった。


 短い時間だったが、リーサやナサたちはしっかり装備も強化できたようで、俺とのステータス差は更に広がりそうだ。


 俺の場合は望んでステータス補正がつかない従魔士をやってるから、こうしてステータスの差がつくのは本当に仕方のないことだ。……仕方はないのだけれど、納得はできないからこうしてサザンカさんに装備を頼んだりしている訳なんだけどな。


 因みにサザンカさん曰く、例の星森のペンダントみたいに特殊なギミック付きの装備なら、想定外の効果をもたらすということで、その方向性でも一応装備を作成してくれるらしい。ホント頼もしい限りだ。


「さて、そろそろ時間になるけど依頼主はどこにいるかな?」


 流石にこの時間帯になると、昼にプレイできずに夜にやる会社員などのプレイヤーが多くなるので必然的に人混みが発生する。


 開拓の村、俺が依頼を受ける前の昼間の時間帯はそこまでプレイヤーは多くなさそうだと思っていたのだが、やはり結構のプレイヤーが居るようだ。


 流石にギルドランクの件があったからか、実力不足を感じさせるようなプレイヤーはそこまで見られない。


 まぁ、俺の場合ミュアの関係でプレイヤーやNPCなどを識別するマーカーを非表示にしているせいで相手側のマーカーも見えないので、一般人NPCをそう見間違える可能性も無きにしもあらずだが、流石にそこまでの間違いは……しないと思いたい。


 さて、この人混みの中からどうやって依頼主を探し出したものか。


 ……と思ったが、どうやら依頼などの場合はちゃんとメニューで教えてくれるらしいな。黄色……いや、多分金色のマーカーが対象のNPCの上に表示されていた。


 そのNPCは、亜麻色の長いウェーブがかった髪を後ろ手に纏めている少女だった。


 ナサよりは大人しめなツリ目の持ち主で、格好が格好なら高飛車なお嬢様って雰囲気なのだろうが、着ている外套はかなりボロボロだ。中の服はそれなりに綺麗そうなんだがな。


「……もしかして、あなた達が私を護衛してくれる冒険者の方かしら?」


 そんな依頼主のメリッサは俺たちが近付いてくるのを察して、こちらに対して話しかけてくる。


「あなたが依頼主のメリッサさんで間違いない……ですかね? だったら、俺たちが護衛のパーティーで間違いない……ですよ」

「えぇ、私がメリッサよ。呼び捨てで構わないし、畏まった話し方も必要ないわ。今はもうそういう立場じゃないですもの。……えっと、確かに女性が3人以上居るわね。だったら問題ないわ。男ばっかりだと怖いもの」


 メリッサはリーサ、サザンカさん、ナサ、リリー、そしてミュアを見つめてから女性の人数を把握する。あぁ、そこはミュアは入るんだな。


 成程、女性の人数はそういう意図があったのか。まぁ、確かに男所帯に女性一人だと怖いよな。


 そういえば依頼主のテントとかってあるのかな?


「じゃあ崩させてもらうけど……メリッサはテントとかは持っているのか?」

「それは大丈夫よ。家にあったものを持ってきたから特に問題はないわ 」

「そうか。なら良かった。こっちも人数分しか簡易テントを用意してなかったからな」


 もし持ち合わせていないとなっていれば、彼女用に簡易テントを購入する必要があったので、彼女が自身でテントを所有していたことはありがたかった。


 俺たちプレイヤーと一緒に寝たとして、こういう宿泊系のログアウト時の俺たちがどうなっているのかはミュアたちにしか分からない。


 仮に消えていたとしたら失踪だし、残っていた場合は全く反応のない人形のようなものなので、幾ら話しかけても返事をしない感じで軽くホラーになりかねないからな。


 まぁ、中を見られたらアレだけども、その点はグレイ辺りに見張ってもらえば問題はないだろう。


「さて、メリッサ。もう時間が惜しいからそろそろ目的地の方に向かいたいと思うんだが、大丈夫かな?」

「えぇ。勿論よ。私は明日の正午までには辿り着かないといけないから……」


 そう、この護衛依頼だが時間制限がある。明日の正午までに第二の街まで辿り着かないといけないのだ。


 普通に歩いていけば8時間近くはかかるので、日付が変更する前までにセーフエリアまで移動してからログアウトした場合、正午までに到着するには7時位には集まらないと厳しい。


 ちょうど半分くらいの位置にセーフエリアがあるのなら問題ないのだが、残念ながら開拓の村近くにあるのでそのくらいの時間になる。


 もう少し先の方にもあるにはあるのだが、そっちの場合は更に先に進まないといけないので普通に深夜の3時とかになってしまう。


 まぁ、夜通しやれるのであればそこでログアウトするのが後々楽なのだが、エリアボス戦の余韻も残って全員徹夜するほどの気力はないのでこの案は無しだ。


 とにかく、現状は早いところ最初のセーフエリアに辿り着くことが先決となる。できれば日付が変わる前には辿り着いておきたい。


 深夜になると市街地エリアから離れた場所のモンスターの平均レベルが大きく上がってしまう仕様があるので、依頼主を守りながら進んでいくにも限界が来てしまう。


 より強いモンスターと戦いたいプレイヤーからしたら嬉しい仕様だが、今回ばかりはちょっと遠慮したい仕様となっている。


 取り敢えず、俺たちは早速メリッサをNPC枠に入れてから開拓の村を後にすることにした。


 すると、少し進んだ辺りでメリッサが何かを思い出したかのように相槌を打つ。


「そうだわ。提案なのだけど、昔私の家で使っていた道を使えば、おそらくだけどかなり早く着けるはずなの。……できればその道を使いたいのだけど、良いかしら?」


 メリッサが言うには開拓の村から第二の街までの間に、彼女の家でかつて使っていた古い輸送道があるらしく、その道を使えば2時間近くショートカットできるらしい。


 ただ、それは現地時間で何十年も昔の開拓時代の道であり、当然ながら舗装もされておらず、また当時から大型モンスターの生息地に近かったことから第二の街の完成以降は使われなくなったらしい。


 現在では年に一度、道の周辺の手入れをするくらいで誰も立ち寄らなくなったようだ。


 しかし、そういった道を使っていたということは、やはり彼女の家はそれなりの家柄だったようだ。


 それがどうしてこうなっているのかは……まぁ、今の俺たちの知るところでは無いのだろう。


「どうするよ、レン?」

「……まぁ、早く到着できることはありがたいし、いいんじゃないか? モンスターに関しても問題はないだろう。それも込みで護衛依頼を受けた訳だしな」


 レンがそう告げると、メリッサはホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。


 取り敢えず、そのショートカット自体はセーフエリアの先の方らしいので、今日のうちは普通の進行と同じ形になるだろう。


 もし何かしらのイベントが発生するとなれば、そのセーフエリアの辺りか、もしくはそのショートカットの途中か、だな。


〈護衛依頼から派生した護衛イベント『少女の護衛』が開始しました。このイベントは依頼内容達成で完了となります。なお、内容は途中で変化する場合があります〉


 そんなことを考えていたら、早速この依頼が護衛イベントに派生したようだ。プレイヤーである俺たちにはアナウンスがその旨を伝えてくれた。


 こりゃ、セーフエリアもショートカットも気が抜けなさそうだな。

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