邪魔者
「ク……ッ! クククッ!」
苦虫を噛み潰したような怒りの形相を浮かべていたハルトマンだったが、やがてニヤリと笑みを浮かべる。
「いやはや、お見事! まさか、私を陥れようとする者たちがいる証拠まで見つけてくれるとはね!」
いや、こいつ何を言っているんだ? どう考えてもお前が首謀者で、それに周りを突き合わせていたんだろ?
だが、ハルトマンの発言は続いていく。それによると、俺が用意した道具は確かにハルトマンの所持品であったが、それらはいつの間にか紛失していた為、所在が分からなくなっていたというらしい。
書類の偽造に関しては(元からだが)そんなことが行われていたということは知らなかった。おそらく外部で勝手に行われていたのだろうという言い分だ。
「さて。良かったじゃないか。父親の無実は証明されたな。後は誰がデカルトを操って、偽造書類を作らせたのか、一緒に探そうではないか!」
コイツ、堂々と味方を裏切りやがったな……。案の定、ハルトマン側にいた他の都市運営とやらに関わっているらしい職員や騎士団の団員らからは非難の声が轟々と出てくる。
「煩い! お前らは黙っていろ! ――ここで死にたくなかったらな!」
急にハルトマンの声が大きくなったかと思うと、妙な耳鳴りが響き、その瞬間を境にあれだけ騒いでいた職員や団員らの声がハタリと止む。
それだけではない。裁判官に傍聴人、こちら側にいたメリッサとアドミス以外の弁護人らも全て動きが止まっていた。
明らかに時が止まったかのような、そんな変な空間だった。
「……アンタ、何をしたんだ?」
「ハァ……全て台無しだ。やはり、君たちには消えてもらおう」
そう言ってハルトマンが指を鳴らすと、奥の方からゾロゾロと人が入ってくる。よく見るとプレイヤーなのか? 明らかにこの世界の現地人ではしないような装備を身に着けている。
どうやら他のプレイヤーの介入っていうのはこれのことを指していたようだ。
「ヘッヘヘー! なんか変なイベントが起きて誘われたと思ったら、まさか裁判所でバトルとはな」
「貴様ら来訪者ならば来訪者を倒すのは容易いだろう。今のうちにあの者たちを倒してくれ。ちゃんと、報酬に見合った働きをしろよ?」
「チッ、分かってるっつーの! おら、お前ら! 誰が倒すか早い者勝ちだぜ!」
どうやら複数のプレイヤーたちはハルトマンによって集められたらしい。成る程、NPCで倒せるかどうか怪しいからプレイヤーをぶつけて来たか。
おそらくその間に逃げるつもりなのだろう。相手は三十人近くだろうか。結構、ヤバいかもしれないな。
ただ忘れちゃいけないのが、俺とレンはそういう状況は既に実践済みということだ。
「ユークさん!」
ふと、頭上から声が聞こえてくると、ミュアが傍聴席のあった場所から飛び出してくる。よく飛べるな。
リーサたちは普通に階段を使って下ってきている。動けるメリッサとアドミスに合流するつもりのようだ。そういえば、なんでこの二人は動けているんだろうか?
俺たちと合流したミュアと同時にゼファーが姿を表す。すると、相手側のプレイヤーの一人がようやく俺らの事に気付いたようだ。
「……ん? ちょっと待て、あの眼鏡……エルフに精霊って、もしかしてNPCテイマーか!?」
「って、隣は『神速』のレンじゃねえか! どっちもバトルロイヤルの勝ち残りだぞ!」
「どうする? 正直勝てる気がしないんだが……」
「バッキャロー! あのときと違ってアイテムも使い放題! それにあのNPCテイマーの連れてたあのでっけぇ狼もいねぇ! 全員でかかれば問題ねぇよ!」
うーん、酷い言われようだ。
しかし、バトルロイヤルの時は確かにこれだけの人数に襲われて、グレイが犠牲になったんだよな……。なんか思い出すと腹立ってきたな。
「よし、レン。さっさとこいつらぶっ倒してハルトマンの奴をふん捕まえるぞ」
「ん? あ、あぁ……そうだな」
何やら俺の様子を見たレンが驚いていたが、そんなのはどうでもいい。さぁ、どう戦ってやるか。
「行くぜっ!」
相手側のプレイヤーの一人の掛け声とともに、向こう側三十人が一斉に飛び出してくる。
俺は武器を構えようとして、その時武器が取り上げられていた事を思い出した。しまった、完全に血が登っていて忘れてた!?
すると、そこに一つの人影が現れる。これは……フィーネか!
『お二人共。マスターから、武器を預かってきました』
どうやらリーサたちが預けていた俺らの武器を取り返してきてくれたようだ。助かる!
「サンキュー! リーサにありがとうって伝えておいてくれ!」
『フフ、それは後ほど直接伝えられると喜ばれると思いますよ』
レンがフィーネに礼を伝えるよう言うと、フィーネは何やら含みを持った言葉を告げる。レンはよく分かってなさそうな感じで首を傾げていた。
何はともあれ、これで問題なし! とはいえ、司法ギルドを壊すわけにはいかないから、なるべく被害の出無さそうな攻撃をするしかない。
となると、威力の低めな精霊術と杖術の組み合わせって所か。まぁ、ミュアとゼファーもいるから問題はないだろう。
「行くぞ!」
そして俺たちは三十人のプレイヤーと対峙したわけだが……結果から言うと大したことはなかった。
まぁ、俺たちの事を二つ名程度しか知らないってことは、実際に対峙したことがないってことで……その実力はまぁ、お察しである。
まさか、ゼファーが威力をセーブして使った範囲技の精霊術一つでほとんどのプレイヤーが倒されたのは、驚いてしまったが。
取り敢えず、そこまで時間もかからずに対処できて良かった。結果として、ハルトマンはその場でまた悔しそうな顔をしていたが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます