放て、メテオショット!

『……そうだな、ぶっちゃけジリ貧なのには変わらないからな。一か八かだが、お前の作戦に乗ってやるぜ。ギリギリまで引き付けてやるよ』

「悪い、助かる! それと、グレイもこっちに下がらせるが大丈夫か?」

『気にすんな、俺たちはチームだからな! グレイの件も問題ない。取り敢えずその作戦はお前に任せるからな!』

「……分かってるよ。ありがとな。陽動頼んだぜ」


 レンとの通信が終わった後、グレイに対して『号令』をかけてこちらに戻ってこさせる。それに反応してブラッディハウルベアがこちらに来そうになったが、リリーによって道が塞がれ、またフィーネの攻撃によって再度ヘイトが移る。


 グレイと合流後、ゼファーとミュアと共に他のメンバーとは少し離れた場所へと移動する。仮に移動が気付かれたとしても、レンやケイルが引き付けをしてくれるため、無事に離れることができた。せっかくみんなと合流できたのにまた離れてしまったな。


「……ミュア、大丈夫か?」

「えぇ、問題ありません。私しか出来ないんですから。任せてください!」


 そう言うとミュアは『メテオショット』の発動を開始し、弓を構えて矢を引く。その体制でしばらく待機する必要がある。


 このメテオショットは他の必殺系アーツ同様、発動までのチャージにはしばらく時間がかかる。このチャージ中は一切行動ができないが、チャージ終了時には『エンチャント』などを行う為に詠唱系のスキルの使用が可能となるため、その際に『アシュラモード』を使う形となる。『アシュラモード』が詠唱系なのが驚きだが、叫ばなければあの面は装着されないのでそういうものらしい。まるで、変身ヒーローみたいだな。


 ミュアの持つ【正射必中】の効果で正しい構えで撃てば正確に狙い撃つことができるので、仮に使用直後に暴走状態になったとしても、暴発するということはない……筈だ。


 チャージ時間中も何とかレンたちがブラッディハウルベアの位置が大きくずれないように、適度に攻撃してくれている。


 そんな中、チャージ終了直前にレンの叫び声が聞こえてくる。


「ユーク! ナサが『風化』を入れてくれたぞ!」


 どうやら、ナサが再度『風化』を使用してそれがうまく効いたらしい。レンたちも攻撃を繰り返してダメージを入れようとしているが、そろそろチャージが完了する。


 俺はその旨を伝えて、レンたちをその場から下がらせる。避けられるレンならともかく、他のメンバーは巻き込まれとしたら、ひとたまりもないだろう。


 そして全員が離れた事を見て、俺はミュアに『号令』を使って命令をする。


「ミュア! 『アシュラモード』を使用後、『メテオショット』でブラッディハウルベアを攻撃だ!」

「了解です! 『アシュラモード』、発動!」


 ミュアがそう叫ぶと、彼女の目元に黒塗りの『阿修羅の面』が装着され、目元を隠した銀髪のエルフがその場に現れることとなる。


 辛うじて今は暴走状態になっていないようで、しっかりとした眼差しでブラッディハウルベアを見据えている。


「――『メテオショット』、行きなさい!」


 ミュアがアーツの名を叫んでから番えていた矢を解き放つと、その矢は上空に飛んでいくとやがて空間が歪み、その歪みの中に入ることで戦闘フィールドから突き抜け、矢は一旦消滅する。


 その後、頭上から地響きのような轟音が鳴り響いたかと思うと、空間が再び歪み、そこから隕石の形をした物質がゆっくりと落下していく。


 ここまで来るともはや矢ではないのだが、あくまで【霊弓術】のアーツであり、矢を核として幻影を実体化させた形となっている。ツッコミどころ満載だが、こういうものなのだから仕方がない。


 しかも、アシュラモードのINT値3倍の効果のせいなのだろうか、前に聞いてた時よりも隕石の大きさがだいぶ大きい気がする。


 ブラッディハウルベアも流石にその隕石には気付き、動いて避けようとするもののメテオショットが持つ移動阻害効果によってその動きがかなり遅くなっている。隕石の重力的な意味なのだろうか。


 流石に俺たちも攻撃範囲内に居ないとはいえ、衝撃もかなりのものなので、仮に暴走状態時に放たれたのであれば、しっかり耐久する必要がある。特にこれはINT重視の攻撃なのでMINが低めのリリーの『シールドエリア』では守りきれないため今回は『バリアエリア』を形成している。


 バリアエリアは発動したプレイヤーのVITやMINに関わらず一定値の耐久性能を有しているため、汎用性は高いのだが、消費MPの高さと発動範囲が限られている点がネックとなる。今回は俺たち以外のメンバーがそのエリア内にいる形となる。


 まぁ、結果として放たれたときには暴走状態ではなかったので、衝撃を和らげるだけの効果となってしまったが。


 やがて避けきれないと判断したブラッディハウルベアは、その隕石に向かって咆哮を上げるものの、そんなものでは必殺系アーツの発動を阻害できないので、結果としてそのまま隕石に飲み込まれることとなり、ブラッディハウルベアを中心に小規模な爆発が起きる。


 俺らはゼファーが発動した『神秘の風盾エアロ・シールド』によってその衝撃から身を護る。さっき言ってた新しい精霊術だな。


「……どうだ?」


 煙が立ち込めていたが、やがて薄れていき、中からボロボロになった状態のブラッディハウルベアが現れる。かなりのダメージを食らってはいるようだが、まさかほぼ3倍のダメージの必殺系アーツでも倒しきれないとはな……。


 しかし、もうあと少しというところだろう。幸いにもまだナサが発動した『風化』の効果が残っている。ここで追撃すれば早々に勝てるだろう。


 そう思って、俺がブラッディハウルベアの方向に向かおうとしたその時だった。


「――!?」


 唐突に背後から凄まじい殺気を感じたので慌てて左に避けると、さっきまで俺がいた場所に矢が突き刺さっている。


 その矢が放たれたであろう方向に顔を向けると、そこには阿修羅の面が装着されたまま、こちらを冷たい眼差しで見つめているミュアの姿があった。


 その瞳は、魔に魅入られたかのように真っ赤に輝いている。


 ……どうやら、ミュアは『アシュラモード』の効果時間ギリギリのタイミングで暴走状態になってしまったようだ。

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