目指せ、第二エリア

4日目の朝

 アルターテイルズ。そのサービス開始から4日目は世間的に少しだけ慌ただしい状況のまま始まることとなる。


 昨日のメンテナンスの一件は結構な話題になったらしく、SNSのトレンドでは夜中まで日本で一位、世界でもかなり上位の方にあった。アルターテイルズはまだ日本しかプレイできないのだが、この反応からはこのゲームが世界的にどれだけ注目されていたのかが伺える。


 その話の内容であるが、想像通りアルターテイルズやその開発・運営であるワンダー・エクシレル社やシグマレイズを酷評するものが多かったようだ。因みにシグマレイズは今回、アルターテイルズの開発発表の前にワンダー・エクシレルの子会社となっているゲーム開発企業である。


 とはいえ、これらの不具合や不満点に対してちゃんとアルターテイルズの運営としてシグマレイズが対応している姿勢は評価されており、またワンダー・エクシレル社によるセカンドロットの発送前倒しの件もあって、擁護する意見も多かった。


 特にプレイヤーであろうSNSのアカウントでは楽しんでる旨を表明していることが多い。なんだかんだで皆、楽しんでプレイしているようだ。


 外野がどうこう叫ぼうと、ゲームをやっているプレイヤーには関係がない。どんなに完璧なゲームであっても、全ての人間を満足させることはできないのだから、全ての要求に応えるのは甚だ無理な話となる。


 それに幾らか不具合を体感したとしても、リアルを超えた光景を見て、五感をフルに用いた濃厚な体験を実際に味わったプレイヤーの多くは、すっかりアルターテイルズの虜になってしまっている。ワンダー・エクシレル社の持ちうる技術の全てを注ぎ込んで作り出されたと謳われたゲームは、やはり凄かったのだ。


 結果として、プレイヤーの多くがゲームは楽しければそれでいいじゃないかとなったこと、そしてゲームもしていない、する気もない外野が何かを言ったところでプレイヤーたちは気にしない、ということが次第に分かっていったのかは不明だが、やがてその手の非難の声も聞こえなくなっていったことから、この話はひとまずの落ち着きを見せることとなるのだが……それはまだここから数日後、メンテ以降の話となる。


 その時にはサードロット以降の話や、新たな要素の話なども出てきたりして、またアルターテイルズを取り巻く状況が変わっていくのだが、それはまだまだ先の話となる。




 ――ダイブイン、アルターテイルズ


 俺は朝食を食べ終わり、洗濯を済ませてからダイブコネクトを起動させる。時刻は9時前程。ニュースサイトはずっとアルターテイルズの酷評みたいなものばかりだったので、目を通さないことにした。


 ログイン後、孤児院のベッドで目が覚めた俺は、既に起きている多くの子どもたちに向かって今度こそ別れを告げる。ゼファーはまたもみくちゃにされるのかと思ってたのかかなり身構えていたが、今日はグレイが子供たちの人気を独り占めにしていた。まぁでっかい狼だけどスゲー大人しいし、毛並みもふわっふわだし、何よりレアモンスターでカッコいいからな。仕方ないだろう。


 だからそんなに落ち込むなよゼファー。ほら、ミュアが「こっちに来てください」って構えてるぞ?


 ……そんなやり取りを済ませ、俺たちは再びはじまりの街に向かう。昨日、今日と、移動だけでも結構な額のお金を使ってしまったような気がするが、あまり気にしないようにしよう。


 今回のエリアボス戦に同行をお願いしたケイルに一応の攻略の予定時間を送って連絡をするよう伝えた後、フレンドリストを確認すると既にシグねぇはゲーム内に居たようなので、取り敢えず連絡を取る。


 例の生産職プレイヤーも既にログインしているとのことだったので、チャットでその店の座標を送ってもらう。どうやらそのプレイヤーははじまりの街で露天ではなくてちゃんとした店舗を借りて店を行っているらしい。


 はじまりの街ではかなり良心的な値段で高品質のアイテムを売ってくれる店らしいのだが、立地が現在開放されていない北門近くということで知る人ぞ知る名店みたいな扱いになっているらしい。


 そもそも北門付近はNPCの店もほとんどなく、重要施設も騎士団詰所や領主の館といった、通常プレイでは今のところ関わりのなさそうなスポットしかないので、あまりプレイヤーが近づくことがないのだ。


 だだし、北門近くはプレイヤーが購入したり借りたりすることで店舗や拠点として扱うことができる『プレイヤーハウス』は多い。


 ……『プレイヤーハウス』とは簡単に言ってしまえばプレイヤー個人で所有できる家の事で、初期状態で宿屋と同等のログアウト時完全回復や所持アイテムの保管が可能となる。設備拡張を行うことで生産部屋やトレーニングルーム、店舗などを導入することが可能となる。


 プレイヤーハウスの購入や賃貸は商業ギルドで行うことができ、レンタルの場合は月額、購入の場合は一括での支払いとなる。長く使うなら購入がいいが、一括なのでかなりの金額となる。


 因みに現時点ではあまりはじまりの街でプレイヤーハウスを購入・賃貸しているというプレイヤーの話はあまり耳に入らない。


 理由としては先日、第二エリアが開放されたことからそちらの方で購入ないし借りようというプレイヤーが多かったこと、また今後新たなエリアが開放される上で『王都』ないしそれに準ずる市街地エリアが出てくるのではないかという噂があるため、控えているのではないかという話ではあった。


 俺の場合、みんなに分配するお金を使えば小さめな家なら買えるのだろうが、流石にその金を使うわけにはいかないしな。とはいえ、プレイヤーハウスに関しては少し購入しないといけないかとは考慮している。


 その理由なのだが、やはり従魔の件である。従魔同時ログアウトの機能でログアウトすればいいのではないかと思うだろうが、ミュアはNPCでもあることからそもそも獣魔同時ログアウトに設定できないため、結果として宿屋に泊まらないと街を彷徨う羽目となってしまう。


 また、従魔同時ログアウト中の従魔が、プレイヤーが再度ログインするまでの間、使役獣ギルドに転送されて預けられているという事が、昨日第二の町に辿り着いた従魔士プレイヤーによって明らかとなったため、ゼファーも同時ログアウトすると向こうが混乱してしまう可能性がある。現に昼間にグレイが向こうに行ったときは、後々に掲示板の方で騒ぎになったらしい。まぁ、後にヨハネスが説明してくれたらしいのでなんとかなったようだが。


 しかし、まさか妖精が見つかるなんてな……。おまけに精霊使いの妖精版みたいなユニークジョブみたいなものも発見された。まぁそれはオルカってプレイヤーが習得済みなので問題ないが。


 次スレで話されたテイムの経緯だが、☆3の妖精宝玉を持って歩いていたらたまたま隠しエリアが出現し、そこにいた中位妖精となんやかんやあって仲良くなり契約できたらしい。この妖精のテイム方法が思っていた以上に精霊との出会い方や契約方法に似ていたので、☆5精霊石が必要になる上位精霊はともかく、もしかしたら中位精霊あたりなら今後誰かしら契約者が出てきてもおかしくはなさそうだ。因みに☆3妖精宝玉はハーフリング族NPCとの交流で手に入れたらしいので、☆3精霊石も同様に入手可能かもしれない。


 ……おっと、話はだいぶズレてしまったが、遅かれ早かれプレイヤーハウスは確保しておきたい。最初から大きめの家でなくても、改造していけば最初は小さい家でも複数の部屋を確保でき、その中にはチームメンバーの部屋を作ることも可能となる。なので、チームで費用を出し合ってプレイヤーハウスを購入するということも可能だ。


 また『転移システム』を導入すれば市街地エリアの噴水で転移する際にプレイヤーハウスを選択できるようになる。プレイヤーハウスを経由する場合、本来なら転移で必要となるお金がかからない。エリアを跨ぐ移動であっても、プレイヤーハウスを経由すればお金をかけずに移動することが可能となる。当然ながらその導入費用はそれなりにお高めとなっているが、長期的な目で見れば導入する価値はあるだろう。


 因みに、転移で費用がかかるのはエリアを跨ぐ大規模市街地エリアの往復と、同一エリア内の小規模市街地エリアから大規模市街地エリアへの転移の際にかかる。当然ながら前者のほうがかなり高い。


 なお、プレイヤーハウスから転移システムで直接市街地エリアへ転移する場合、選べるのははじまりの街や第二の街などの大規模な市街地エリアに限られる。無論、移動先に選ぶ場合はどの市街地エリアのでも問題なく選択可能なので、小規模市街地エリアからの転移で必要となる費用はかからない。


 まぁ、俺たちがプレイヤーハウスを確保するならまずは第二の街に辿り着いてからになりそうだな。


「さて、他に誰かいないかな?」


 シグねぇとの連絡の後に、他にもフレンドリストを見てると、サザンカさんやフライ・ハイのメンバー辺りが既にログイン中だったことに気付く。確か、サザンカさんは9時頃から居るって言ってたか。


 戦闘には乗り気ではないものの、結構ガッツリとゲームをやり込んではいるんだよなサザンカさん。ログイン時間は俺、レンに次いで3番目となる。次がリリーで、その次がリーサ。ナサは当然ながら最下位だ。


 因みにリリーこと琴吹百合花ことぶきゆりかさん(本名は昨日の雑談のときに教えてもらった)、実はああ見えて結構なゲーム好きらしく、βテストは出来なかったがアルターテイルズは俺と同じ特典付きのものを購入できたらしい。


 ただ、本人はあまり周りにゲーム好きなのを公表しないタイプのようで、有沙が追加分を購入できたということを言っていたのを側で聞いていて初めてそのことを喋り、そこから二人は仲良くなったらしい。確か追加分の抽選発表は5月のゴールデンウィーク明けだった筈だ。


 結果としてアルターテイルズを始めたらのめり込んでしまい、自分からやるといった従者見習いの勉強などを色々サボってしまい、母親から怒られてしまったらしいのだが、ナサこと立川さんがゲームを始めたことで、その監視を命じられて今に至るらしい。


 監視、というのが何とも彼女ナサのトラブルメーカーっぷりを示しているようで、何とも言えないが、まぁ仕方のないことだろう。


 因みに彼女たちの母親は、主人と従者という立場ではあるらしいのだが、今の立川さんと琴吹さんのように学友の立場であったらしく、故に互いに互いの娘を任せておけるということのようだ。昨日、リリーが母親たちの関係性のことをやけにキラキラした眼差しで呟いていたのだが、よく分からん。


 というか、気付いたら俺のほうがレンよりもログイン時間が多いことに少し戦慄している。あいつ、βテスターだから確か俺より早くプレイしてるはずなんだよな……。まぁ、昨日の夜にレンが家庭の用事であまりプレイできてないから追いつけた、というべきなのだろうか。


 まぁ、何にせよサザンカさんののめり込み具合では、もしかしたらサザンカさんがログイン時間トップになるかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る