ケイルの精霊

 さて、それからは俺のレベリングが始まった。……筈だった。


 というのも、ゼファーとグレイが積極的に敵に攻撃を仕掛けてあっという間に倒してしまうために、俺には微々たる経験値しか入ってこない。いや、それでも今さっきレベルが上がって25にはなったのだが。


 まぁ、ほとんど手を出さずに戦っているので当たり前といえば当たり前である。どうやら俺の根っからの部分は従魔士とは程遠い場所に居そうだ。まぁ戦うこと自体は嫌いじゃないしな。


 そんなところにケイルからの連絡が入る。どうやら精霊との契約が済んだようだ。取り敢えず、そっちに向かうことにしよう。


 全員にその旨を伝えると、ちゃんと従ってくれた。


「よう、ケイル。無事に精霊とは契約できたみたいだな」

「あぁ。中々痛い目にあったが、お前から貰ったあのアイテムのおかげで助かったよ」


 え? あのアイテムって『身代わりうさぎ』のことか? あれが必要になったっていうことは……。


「結構ハードな戦いだったみたいだな」

「ん? あぁ、いや戦闘じゃなかったんだ。蒸気風呂での我慢比べ。危うく脱水で死にかけたが、こいつで何とか生きながらえて、勝ったというわけよ」

「何だよそりゃ?」


 蒸気風呂ってサウナのことか? それの我慢比べって……いや、幾らなんでも危険すぎる。


 プレイヤーならともかく、この世界で生きているNPC現地人のケイルには流石に危険なのではと思ったが、本当にヤバいときは排出される仕様だったらしい。結果として精霊とは同時にアウトになったが、身代わりうさぎのおかげでそれが少しズレてケイルの勝ちとなったらしい。


 まぁ、なにはともあれ、サウナに入るときは体調に気をつけて適度な時間に入るようにしよう。


「さて、お前には紹介しないとな。俺の契約した精霊――出てこい『フレイ』」


 ケイルが呟くと、その肩にボウっと炎が上がり、そこに一羽の火の鳥が現れる。上位精霊だが人型ではないのは、人型なのは特に選ばれた存在――たとえば精霊王の眷属のような存在である場合が多い為である。力が劣るというわけではないだろう。現に、フレイから放たれている圧は、ユーリカが契約したエコーよりも強い。


 普段、ゼファーと一緒に居るからか気付きにくいが、ゼファーも圧をかけるときは結構強い圧をかけるらしい。そういった場面に出くわしたことがないので、本人が言うことを鵜呑みにするしかないのだが。


「へぇ、結構強そうだな。良かったじゃんケイル」

「あぁ。……これで俺も旅に出れる」


 ポツリと呟いた一言。どうやらケイルは前々からあの孤児院を出て旅をする予定だったらしい。そこに精霊姫の救出の話がケイリスの元に来たので本人は行く気満々だったが、ケイリスからは実力不足を指摘されてしまっていた。そんな中、ケイリスが精霊の契約者と確認した男がのこのこと人避けの結界に囲まれた孤児院に来たことで、対峙した――というのがあの出逢いのあらましだったようだ。


 その後、俺たちと共に古代遺跡の攻略を行い、成り行きとはいえ上位精霊との契約の機会を手にしたケイルは、これをきっかけにして踏ん切りをつけようと思っていたらしい。


 つまり、精霊と契約できたら夢であった旅に出る、できなかったら孤児院に残って子供たちの世話をする、ということだろうか。


 結果として、ケイルは精霊と契約ができ、旅に出る決意を固めたということだった。


「成程な。じゃあ、俺たちと一緒に次のエリアに行くか? どうせ、現地人もエリアボスは倒さないと行けないんだろう?」

「エリアボス……? あぁ、第二の街に行くための森の出口にいるあの荒熊のことか。まぁ、別に行く道は色々あるんだが…………まぁ、手を貸してお前に恩を売っておくというのも、悪くはなさそうだな」


 その返答はオーケーだということにしておこう。しかしまぁ、確かにNPC全員があそこを通らないと移動できないんじゃあほとんどはじまりの街から出れなくなるわな。そういうものなのか。


 取り敢えず、ケイルは俺たちのエリアボス討伐に協力してくれることとなった。


 ケイルはその旨をケイリスや孤児院の子供達に伝えるために孤児院に戻ることとなる。


 俺は、次の頼まれ事であるサザンカさんの方に連絡をすることにした。

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