昇格試験

 冒険者ギルドは南門の通りにあるので、北門近くにあるメルカの良品店からだとかなり移動することとなる。それこそはじまりの街を縦断するような形となる。しばらく歩いてようやく辿り着くことができた。


 【早移動】のアビリティがあったから俺たちは早くたどり着いたが、サザンカさんはそういうものが無かった上に元のAGIの値も低いので少し遅れて到着した。取り敢えず中に入ることにしよう。


 サザンカさんはいの一番にギルドショップで売られているギルド装備を見にいったので、俺はミュアと一緒に冒険者ギルドの中を見て回る。ゼファーは不可視化、グレイは仕様で一緒に来れなかったので外でお留守番となっている。


 冒険者ギルドの一階は、基本的にギルド登録者がギルド装備や各種消耗アイテムを購入できるギルドショップ(さっきサザンカさんが見に行ったところだな)、プレイヤーやNPCとの情報交換を行うための酒場(本来は様々なお酒やカクテルを頼めるらしいが、俺は未成年なのでジュースやお茶しか頼めない)、様々な依頼が貼ってある依頼掲示板、そして3人くらいの受付嬢が立っている依頼カウンターで構成されている。ランクがかなり上の方になれば、ギルドマスターがいる応接間で特別依頼を受けるようになったりするが、少なくともはじまりの街のギルドでは関係ないことだろう。


 また、二階以降は冒険者ギルドに登録しているチームリーダーが借りることができるチームルームが複数存在する。チームルームは以前にレンと電話したときに話に出たような気がするが、チームの特典の一つだ。


 基本的にはチーム加入者が無料で使える仮説休憩所のようなもので、ログアウトしなくてもHPやMPを回復できるスポットを利用できたり、各種装備品の手入れを行うことができる場所やゲーム中でも清潔感を得たいというプレイヤー向けのシャワールームなどがあるらしいので、プレイヤーハウスを入手する前までは色々活用してもいいだろう。ただし、無料ではあるがクラフトハウスのように時間式のレンタルなのでずっと使っているというわけにはいかないようだ。


 因みにチームルームは全ての大規模市街地エリアにある冒険者ギルドにはあるらしく、はじまりの街の冒険者ギルドには100部屋のチームルームがあるらしい。また第二の街のギルドは更に規模がでかく、シャワールームが温泉施設になっているのだとか。


 そんなギルドの裏手には少し広めの訓練場があり、戦闘技能の習得訓練や初心者戦闘訓練などが行えるようになっている。しかし、まさか初心者戦闘訓練がチュートリアル中に使えないとは思わなかったな。それも修正されるらしいから、今後参戦するプレイヤーは安心して戦闘経験を積めるな。


 俺は取り敢えずユーリカに勧められたように受付の方へと足を運ぶことにし、そこにいた3人の受付嬢を見比べる。


 3人とも普通に人間族で、一人は黒いウェーブがかったロングヘアーのタレ目と太めの唇が特徴的な大人びた女性、一人は頭巾のようなものを頭から被って耳が見えないポニーテールの快活そうな若い女性、そしてもう一人はツリ目がけっこうキツめなショートカットのボーイッシュそうな女性だった。


 俺はその中でポニーテールの女性の方に向かう。あの中では一番当たりが優しそうだったから選んだだけで、別にポニーテールが好きとかそういう話ではない。断じてない。


「ようこそ。冒険者ギルドへ。お名前とギルドカードをどうぞ。……それで、今回はどういったご要件でしょう?」


 ポニーテールの受付嬢――名札を見て『エミリア』という名前だと知る――は簡単にお辞儀をして要件を問う。相手は冒険者なのに、結構礼儀正しいだな。俺はギルドカードを出して、話を続ける。


「ユークだ。その、ランク昇格をお願いしたい」

「……えっと、ランク昇格でしたらあちらにある依頼掲示板にある依頼をこなして頂ければ上がると思いますが……見たところユークさんは依頼を一つもこなしていないようですので、これでは昇格はできませんよ?」

「……そこをなんとかならないかな? できれば、今日中には次のエリアに行きたいんだ」

「うーん……そうですねぇ……」


 受付嬢のエミリアは顎に手を当てて悩み込んでしまう。自分がかなり無理なことを頼み込んでるクレーマーまがいな状態になっていることは分かっているのだが、どうにかならないものかと願ってみる。


 まぁ、ダメならダメでランク昇格できるだけの依頼をこなせばいいだけの話である。だいたい俺やリーサと一緒にいたレンがおそらく一日程度でランク昇格できていたのだから、一日遅れるくらいでなんとかなるだろう。第二の街に辿り着くのがイベント前日になってしまうが、それでも大きな問題はないだろう。


「……一応、あまりおすすめはできないのですが、他のランク昇格方法として『昇格試験』というものがあります。まぁ、本来ならCランク以上の冒険者が対象なんですが。……こちらは試験官との一騎打ちで実力を見せてもらう形になりますので、それなりの実力が必要となります」


 エミリアは依頼とは別の昇格方法を提案してくれた。成程、昇格試験か。本来はCランク以上向けということはかなり難度が高いのだろう。まぁ、依頼をこなせば自動的に昇格できるのに、わざわざ一騎打ちを挑むなんてことはしないだろうしな。聞けば最低でもレベル25は無ければ受けることができないようだ。


 これなら早くて10分くらいにはランク昇格処理が可能とのこと。それくらいの時間なら、余裕で集合には間に合うだろう。


 そのランク昇格だが、エミリアが言うには基本的に本部以外のギルドではそのエリア毎に決められたランクまでしか上げることができず、初心者が多いこのはじまりの街を始めとする第一エリアのギルドでは、Eランクに上げることしかできないらしい。なので、ここで延々と鍛えてランクを上げ続けるというのは実質的に不可能ということだ。


 それ以上のランクになるためには第二の街を始めとする第二エリアのギルドに行く必要があり、そこではDランクまでの昇格が可能とのこと。勿論、第二エリア内でFランクからEランクに昇格することも当然ながら可能となっている。


 因みにギルドの本部がどこにあるのかまでは教えてくれなかった。まだ未開放情報だったようだ。


「え〜っと……本当に、昇格試験をご希望ということでよろしいでしょうか?」

「ああ。今すぐランク昇格できるなら、なんだってやるよ」


 俺がそう言うと、裏手に向かっていきそこで何やら話をするエミリア。どうやら奥に待機しているスタッフにランク昇格試験の事を伝えているらしい。何やら裏手のスタッフと共に難色を示しているようだが、なにかあるのだろうか?


〈ギルドイベント『特別な昇格試験』が開始しました〉


 すると個人アナウンスによってギルドイベントなるものが開始された事を知らされる。なにこれ?


 確かに昇格試験は受けようとしていたが、それでイベント扱いになるのか? そんな疑問を浮かべていると、エミリアが再び受付に戻ってきた。


「……おまたせしました。昇格試験を今から行いますので、裏の訓練場まで移動をお願いします。そこに担当の者が居ますので、到着したら話しかけてください。……その、色々理不尽なことがあるかもしれませんが、お気を確かにお願いしますね」

「……? 分かった。ありがとう」


 俺はエミリアに礼を言ってから、ミュアとともに一度表に出てから共に裏の訓練場に向かう。彼女が最後に言っていた言葉の意味は分からないが、行けばわかるだろう。


 そのエミリアだが、なんで連れのエルフの人も一緒に行っているのだろうとでも思ったのか、俺とミュアを見比べるように首をキョロキョロさせていたが、気にしないことにしよう。


 訓練場は従魔も一緒に行ける(でないと従魔士は訓練しようがない)ので、グレイを引き連れて向かうことになる。


 訓練場は今の時間、誰も使っていないのか物音もほとんどなく静かだ。その中で一人、筋肉質の男が仁王立ちしてこちらを待ち構えていた。




 ――――――――――

(8/30)昨日付で『孤児院と迷惑料』にて強制ログアウトについて説明している部分に説明を加筆しました。ご確認ください。


※一部、描写抜けがあったので加筆しました。

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