ミュアの実力

 ――森林エリア・入口


 転移ゲートを用いてはじまりの街へと戻った俺は、ミュアと透明化したゼファーと共に森林エリアの方に向かう。


 視線は俺の方向に向く。だって隣には明らかに現状のはじまりの街では入手できないような装備を身に纏ったエルフ族のプレイヤーらしきものがいるのだから、目立ってしょうがない。


 一応、プレイヤーやNPC、エネミーモンスターとを区別するアイコンが存在し、プレイヤーは青、NPCは緑、エネミーは赤というふうに分かれているのだが、ミュアの場合はプレイヤーの従魔扱いなので青色のアイコンで表示されている。


 とはいえ、NPCと話をしたら現地人同士の会話になって一発でバレてしまうので、俺たちは逃げ去るように森林エリアへ向かっていった。


 そして入口でケイルと合流する。こっちは完全にNPCなので緑のアイコンだ。とはいえ、このアイコンはそのキャラクターの存在を認識しない限りは表示されない。設定でみえないようにもできるので、今後はそうすることにしよう。案外無くても分かるものだしな。


 森林エリアの方は次の第二エリアに行く予定のパーティーでごった返している。まぁ必然的にNPCのケイルは目立つのだが、この際気にしないことにしよう。


 幸いにも俺たちが向かう場所はエリアボスが居る真東ではなく、かなり北寄りの北東になるため、興味本位でこちらに来なければ気づかれることは無いだろう。どうせ精霊石がなければ行けないし、外の俺たちは単純にレベリングをしているだけなのだから多少見られても問題はないだろう。


「さて、行こうか。ユーク! 今度は道案内を頼むぞ」

「分かった分かった。……取り敢えず、ミュアは俺の仲間になってからの初戦闘になるから、道中で実力を見せてもらうな?」

「分かりました! 調査隊の一環で少しだけ齧ったことがある程度ですが、頑張ります!」


 うむ、なんとも気合の入った返答だ。ゼファーもレベルが上がる=強くなると聞いてやる気が漲っている。


 そうそう。俺たちがやるべきことは一にも二にも、レベル上げだ。まぁ俺のような従魔士は他のプレイヤーと比べるとジョブによるステータス補正が一切無いので結局は装備で補うしかないし、それでもフライ・ハイのメンバーみたいに特化したプレイヤーには絶対に勝てないのだが、それでもレベルは上げる必要がある。装備のレベル制限とかアビリティポイントとかあるからな。


 そういえば、従魔士の人数を昨日確認したら32人と多いのか少ないのか反応に困る人数になっていたが、かなりの数のジョブがある中で上限1500人中の32人は割と多いほうになるのだろう。分からん。


 やはり、あの『ガタゴロウのもふもふ日記』を見たプレイヤーが多く、βテスターも含めて結構な人数が従魔士を目指して、そして夢半ばに諦めたという感じらしい。その中の選ばれし精鋭がこの32人ということか。


 俺なんかは割と邪道なルートでしかテイムしてないので、他のプレイヤーがどういう状況なのかは分からない。テイマー図鑑でまだ見たこともないモンスターを探して、こういうモンスターが居るのかなとか見てたりしてたけども、きっとフラッシュバードをテイムしてるプレイヤーとかはかなりの腕があるのだろう。いつか会って、どういう感じでテイムしたのか聞いてみたいものである。


 ……しかし、テイムか。ゼファーとの契約以降はレベリングを中心にプレイしてたので、全くテイミングに挑戦してこなかった。テイムしてしまうとそのモンスター分の経験値は手に入らないし、成功するまでテイミングを使うとなると結構なMP消費になりそうだ。


 だが、一応明日までという時間制限はあるものの、ある程度パーソナルレベルが上がれば別にレベリングは終わりにしてもいいだろう。


 そうなれば、久々に従魔士らしくテイミングに挑戦しても良さそうだ。せっかくサイモンさんから【手加減】付きの防具も貰ったのだし。因みにその防具は俺が渡した遺跡の宝石が元となっている。本人曰く「普通に失敗した」性能らしいが、俺にとってはそこそこ良さ気な性能だったのでありがたく受け取っていた。


 【手加減】は手加減スキルを発動して、次の攻撃で相手が全損する場合でもHP1残すという効果だ。まさに従魔士向けのスキルだという感じだ。


 流石にHP1まで削ればテイムはかなりしやすいはずなので、取り敢えずテイミングに挑戦するときはこいつを使うことにしよう。そうしよう。


 そんなこんなで戦闘を行いながら、件の『精霊の隠しダンジョン』へと向かっていく。本来ならばケイルに精霊石を持たせて向かうべきなんだろうが、直持ちだと割と光が目立つ感じだったので、ここは俺の記憶――ではなくマップに記された位置情報を元に向かうこととなった。


「やぁぁぁぁ!」


 その間、取り敢えずミュアの実力を図るという名目で戦闘を任せることにしたが、普通に強かった。齧っただけとは何だったのか。


 霊弓術が普通の弓術とは全く違うというのはサイトの情報で知ってはいたが、実際に見ると成程そういう感じかと納得する。全体的に弓術がそこまで派手な感じではない(とはいえ必殺系アーツの『バーストショット』はかなり派手だが)のに対し、霊弓術は全体的にキラキラしている。


 初期から使える『ライトニングアロー』ですら閃光の矢という意味からしてキラキラである。光の矢が一直線に飛んでいくのだから、それはもう目立つ。


 とはいえ、霊弓術自体はエルフ族の弓士系統で使っているプレイヤーはそれなりに居るため、さほど珍しいものではない。だが、それがかなりの練度となるとまた話は別のようだ。


 弓術に比べると矢を射る時にコツが必要らしく、ケイルですら普通の弓術を使っている事からもあまり現地人のエルフ族でも使われていないらしい。プレイヤーの場合はマニュアル操作がかなり面倒なのだそう。あとは普通の弓士系統ジョブでは霊弓術アーツは補正されないというのも向かい風になっているらしい。精霊弓士になるとINTメインになるので、途中からの育成となると確かに面倒だ。


 まぁ、そういった面倒な戦闘術を巧みに使いこなし、【正射必中】のアビリティ効果もあるだろうがほぼほぼ命中させているミュアの実力は……おそらくだが並のプレイヤー以上の腕はあるだろう。曲射とかさせたら、視界外から敵の頭など簡単に射抜きそうである。


 まぁこれは近くに精霊が居るからっていうのもあるのかもしれないな。ハーフエルフの特性に行動ゲージが回復しやすい旨が載っていたので、アーツの回転速度が異様に早いのだ。


「いかがですか、ユークさん! 私の実力!」

「あ、ああ……かなり良かったよ。流石は精霊姫だな!」


 数体目かのアッシュウルフを射抜き、戦闘を終了させたミュアはドヤ顔で問いかけてくる。流石にそんな顔で尋ねられると貶したくなるが、実力は本物なので素直に褒めざるを得ない。


 因みにこの戦闘で俺もゼファーも、なんならケイルも手を出してはいない。まぁケイルはいざというときに手を出してもらうということになってるため、当然と言えば当然だが。


 それで経験値を貰っているという状況なので、ゼファーがこれでいいのかと不安になっていた。従魔を使った戦闘は全て従魔士の戦果になるので、ミュアが一人で戦っても俺に経験値が入り、更に【従魔成長】の効果でゼファーにも僅かだが経験値が入るので、実はゼファーは何もしなくても少しずつレベルが上がっていた。ミュアは現時点のレベル上限なのでモンスターとしてのレベルには経験値は入らない。まぁアビリティレベルやジョブレベルの経験値は入るのだが。


 俺のレベルはミュアにしばらく戦闘を任せただけで22まで上がっていたし、ゼファーはレベル10になっていた。どれだけ倒したのか数えればよかった。貢献度が低いのに2つも上がってるので、結構な数のはずだ。


 とはいえ、従魔も活躍した分だけ経験値が入りやすくなるので、隠しダンジョンにケイルを送り込んだら今度はゼファーをメインに戦闘をしてみよう。そうすればもっとレベルが上がるはずだし、



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※7/24付で『武器とプレイヤーメイド』にて一部設定の修正を行っています。詳しくは該当ページをご確認下さい。

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