チーム『暁の戦姫』

 ――ダイブイン、アルターテイルズ


 リビングにてシグねぇたちの準備が完了するのを見計らい、俺は自分の部屋でアルターテイルズへとログインする。流石にイトコとはいえ男と女なので、多少は気にする。あちらは特になんとも思ってなさそうなのがアレだが、まぁ双子の方はまだ 中学生だしな……。


 ログインした時に一緒に現れたグレイのもふもふをふと堪能していると、ずっと動いてなかった『シグ』という名前のフレンドからメッセージが届く。勿論、これがシグねぇのプレイヤーアカウントである。


 何処に居るのかと聞かれたので『鉱山の村』と伝えておくと、そこに3人で向かうと答えるシグねぇ。


 さて、俺はゼファーとミュアと合流することにしよう。取り敢えず『モンスターコール』を発動だ。


「――お待たせしました、ユークさん!」


 少し待った時にミュアとゼファーが現れる。相変わらずゼファーはミュアの胸の中に抱きしめられていた。因みにミュアの胸はそこそこのサイズなので、結構圧迫されているのか顔色はあまりよろしくはなさそうだ。


 ゼファーはミュアの胸から脱すると、グレイの上にへろへろという擬音が似合いそうな程の力の無さで落ちていく。そしてもふもふの上で安らかに眠りにつくのだった。いや、流石に死んじゃいないけども。


 取り敢えず、こちらの方は合流できたので後はシグねぇ達を待つだけなのだが……。そういえばミュアのこととかどう説明したものか。


 まぁ、シグねぇたちのことだから変に言いふらしたりはしないだろうし、素直に説明すればいいか。


 その時、噴水の辺りに3つの転移陣が浮かび上がる。これはフレンド登録しているプレイヤーとそのパーティーが他の市街地エリアから現れる際のエフェクトらしい。因みに全く知らないプレイヤーの場合は勝手に出現して勝手に消える。流石にそこまで演出を付けていると処理がパンクするらしい。


「お待たせ! ユーくんだよね?」


 その転移陣から現れたのは現実世界と同じ腰まで届くほどのロングヘアーだが、燃え上がるような真紅の髪色のエルフ族プレイヤーである女性と、二人のよく似た姿の小柄な女性プレイヤーであった。


 最初のエルフ族プレイヤーはフレンド登録していることからシグねぇである事が、頭の上にあるプレイヤーネームで分かる。


 よく似た姿の女性プレイヤーたちはその防具に細やかな差異はあるものの似たようなものを装備している。


 片方は格闘家ナックルファイター系だろうか。その手には大きなガントレットを装備している。ガントレットは【格闘術】の技能アビリティを有していれば武器として扱うことができ、格闘術アーツでの反動ダメージを抑えることができるらしい。まぁ、普通に戦ってたら発生しないようだが。


 もう片方は背中に身の丈程の弩弓クロスボウを担いでいるため、銃士ガンナー系であることは確かだ。弩弓自体は取り扱いに難があれど、特殊な射出装置を用いるため弓を越える破壊力を有する武器だ。その為、総じて大きめの武器となる。その形状が銃に似ているということからメインに用いるジョブは銃士と呼ばれている。ただし、弓士というジョブはクラス1にあるが、銃士というジョブはないらしい。何故だろう?


 とにかく、あれが美晴と紗雪のアバターだろう。容姿は髪型含めて現実とほとんど変更はない。おそらく面倒臭がったからか、早くやりたかったからかのどちらかの理由で早々にアバター作成を終わらせたのだろう。


「おつかれシグねぇ。こっちじゃユークだよ。そんで、その二人が?」

「あたしがハル! ジョブは『仙闘士ハーミットファイター』だよ!」

「私がユキ。ジョブは『狙撃士スナイパー』」


 ハルとユキは揃って俺にジョブを明かす。確か仙闘士は俺もジョブ習得の候補に入っていたっけ。特に杖を使ってなさそうなところを見ると、どうやら杖術アーツというよりも打撃属性の攻撃が条件のようだ。


 そして、狙撃士はクラス3の銃士系のジョブだ。弩弓自体がとても扱いづらい武器であったことから、βテストの時点で弩弓を使用するプレイヤーはほとんど居なかった。その為、銃士系で習得できるジョブの情報はほとんど無かったのだが、これは公式が戦闘職で珍しく、習得条件の一部を公開したジョブの一つだった筈だ。おそらく、少しでも弩弓を使ってくれるプレイヤーを増やそうとしていたのだろう。


 とはいえ、今のところユキ以外に弩弓を使っていそうなプレイヤーは見かけてはいない。同じような理由で扱いづらい鞭を使うプレイヤーも少ないようだ。


 また、別の理由ではあるが、斧や戦棍を使うプレイヤーも少ないらしい。ハルは装備しているらしいが。


 その理由というのが、装備可能となるジョブが少ないことと武器専用のジョブがほとんどないということにあるらしい。斧や戦棍をメインとして使うジョブは戦士系以外にはあまり見かけないらしい。


 まだ発見されていないジョブも少なからずある為、その限りではないのだが、少なくとも現在ある程度習得条件が確立しているジョブの中にはほとんど見当たらないとのことだった。


 まぁ、ここまで上げた武器種はいわゆる不遇武器と呼ばれている。勿論、使いこなせれば斧や戦棍、弩弓に関しては全ての武器種の中でトップクラスの破壊力を有する武器であるため、かなり強い。まぁ、環境があまりよろしくはないのかもしれないな。


「そういやシグねぇたちはもうチームって組んでるの?」

「えぇ。今のところはこの3人と、あと2人でチームを組んでるわね。『あかつき戦姫せんき』って名前なの。他の2人は、今日は予定があって不在なの」


 シグねぇたちは既に3人でチームを結成していた。ついでにあと2人入って、5人のチームとなっているようだ。今日は他の2人が不在なこと、そしてうちの様子を見に行くことがあったのでこうして俺とプレイしているというわけか。


 しかし成程、『暁の戦姫』か。やはりチーム名もちゃんとしたネーミングセンスが必要なようだ。俺たちのチームはなんて名前にしようかな?


「ところでユー兄さん、その綺麗な女性は誰?」

「ん! そーだ、ユーニィ! その人誰!? ユーニィ一人の筈でしょ!」


 ユキとハルは二人してミュアのことを指さして話しかけてくる。こら、人を指ささない。


 取り敢えず、あまり他のプレイヤーがいなさそうな場所に移動してから、俺はミュアやゼファーのことを簡単に説明する。


 最初はグレイの上で眠るゼファーの姿を見て驚く三姉妹であったが、話を聞く中でシグねぇは納得したように頷いていた。


「はぁー……まさか話題になってた、精霊をテイムしたプレイヤーがユーくんだったなんて、思いもしなかったわ」

「へ? 精霊をテイムしたプレイヤーって、噂になってんの?」


 シグねぇの呟きにふと気になって返答すると、シグねぇは確かに頷いていた。


 どうやら俺がゼファーとテイムした際にテイマー図鑑に精霊の項目が増えたらしく、その際に誰かが精霊とテイムしたということで話題になったらしい。その上、エルフ族プレイヤースレでも話題が上がり、精霊探しを試みるプレイヤーも跡を絶たないとのこと。


 結果として昨日、名無しの弩級弓士がエルフ族プレイヤースレで精霊と契約したことを報告して、全員から嘘つき呼ばわりされていたのだとか。……うん、これ間違いなくユーリカのことだな。


 成程な、自分の種族のスレを見てたら精霊をテイムした従魔士が噂になっていたということで、知っていたということか。


 対してハルとユキはミュアの方に目を光らせている。


「へー! ハーフエルフってこういう感じなんだなー! おもしろー!」

「普通、ハーフエルフはエルフと人とのハーフだと思うけど、この世界だとどっちもヒトだから、ハーフではない、ということなの? フフ、面白い……」


 どうやらミュアのハーフエルフという種族に興味津々のようだ。因みにケイルとケイリスの親子関係について気になったので、昨日ログアウト後にそういう設定を調べる系のスレを覗いたのだが、第二エリアで開放された市街地エリアで異なるヒト種族同士では子供は生まれないという設定が明らかになったようだ。それ故に結ばれぬ関係があるとかないとか。まぁ、俺には関係ない話だが、特定のNPCのカップリングが好きそうな人は少なからずいそうだ。


「でも、NPCをテイムするなんてユーニィはまるでNPCテイマーだな!」


 ハルが笑いながらそう呟く。だから、サザンカさんも言ってたけどNPCテイマーって何?

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