司法ギルドと貴族の世界

 ――司法ギルド。


 一応、ギルドと名がついているがゲーム内でプレイヤーが所属することができるギルドとは異なる機関となる。


 基本的には色々な争い事の仲裁を行ったり、事件などの裁判を行ったりする施設ならびにその執行官の集まりの事を指す。まぁ、現実世界の裁判所や裁判官のようなものだ。


 故にその建物は、この街の他の建造物がどこかしらに赤い色を取り入れているのに対して、どこまでも真っ白な壁によって包まれていた。潔白の証なのだろう。


 以前、メリッサを送り届けた際には外までしか見ることはできなかったが、今回はその中に入ることとなる。


 そしてその中に入ってまず思ったのは――まぁ、中も真っ白だなという印象である。


 人はかなり疎らだが、裁判所が繁盛しててもあまり良い印象は無い。お金もそれなりにかかりそうだし。


 特に混雑してるわけでもないので早々に受付を済ませた俺たちだが、俺とレンは参考人待合室に、それ以外はそのまま法廷の方へと移動することになるらしい。取り敢えず、ゼファーは姿を隠して俺に着いてきてもらう事にした。


 ついぞ見かけなかったが、メリッサたちは既に参考人待合室にいるのだろうか?


「しかし、ここまで白いと逆に不安になってきちゃうわね」

「うん。すぐ汚れちゃいそうだよね」


 その後、案内を待つ間にあまりにも白すぎる内装に不安を覚えるリーサと、従者見習い故か汚れを気にするリリー。なんとなく二人の会話が噛み合ってないような気がするが気にしないでおこう。


 まぁ、確かにここまで白いとちょっとの汚れでも目立ってしまいそうだよな。掃除が大変そうだ。


「この施設は魔術でコーティングしてますから、余程のことがない限りは汚れることはないのですよ。……それこそ、人の血が流れても、ね?」


 ふと聞いたことのない声が奥の方から聞こえてきたと思ったら、随分とおっかない例えを出しながら金髪のイケメン男性が近づいてきた。その衣装はこの施設に合わせてなのか、かなり白い。


「えーっと……」

「おっと、失礼しました。お初にお目にかかります。今回、デカルト氏の裁判における被告人の弁護を務める司法ギルド員のリチャードと申します。お二方には、メリッサ嬢から今回の裁判での参考人をお願いされたと聞いております。……よろしくお願いしますね」


 誰なのか分からず俺が言葉に詰まっていると、金髪のイケメン男性であるリチャードはそう言って、俺たちに手を差し出す。


 俺とレンは互いに手を握り返すと、リチャードから参考人待合室の方に案内される。時を同じくしてリーサたちも案内がやって来たので、ここからは別行動だ。




「しかし、来訪者の方が貴族の裁判に関わるなんて私も初めてですよ。しかも、白金プラチナ爵が関わる裁判ですからねぇ」

「……ん? プラチナ……?」


 移動中、リチャードがふとそんなことを口にするので、『白金プラチナ爵』なんて言葉を耳にしたことのない俺は疑問を浮かべてそのまま口にしてしまう。


 すると、リチャードは「あぁ、来訪者の方は貴族の違いとかは分からないですよね」と申し訳無さそうに呟き、貴族についての説明をしてくれた。


「まず、貴族について説明しますと……ざっくり言うとこの街で偉い人たちの事ですね」

「ホントにざっくりした説明だな。てか、それくらいは分かるぞ流石に」


 思わずレンが突っ込んでしまうが、実際にその通りなのだろうから仕方ないのではないかと思う。


「お二方はメリッサ嬢のお父上であるデカルト氏が赤の貴族の末裔であることはご存知ですよね?」

「ああ。それはメリッサから聞いたな」


 俺たちの知る限りでは、この国の王様から第二の街の開拓を任せられた『赤の貴族』の末裔で現在の自治代表となっている家系が貴族と呼ばれているということくらいしか知らなかったのたが、実際のところ貴族と呼ばれる者はそれだけではない。というか、貴族自体はそれなりの数いるらしい。


 例えば赤の貴族の末裔の分家――例えば今回の裁判を起こした張本人であるハルトマンが、デカルトさんの弟なので分家として当てはまるが、それらも当然ながら貴族である。他にもその分家筋の親戚なども貴族となるらしい。


 勿論、他の都市で貴族と呼ばれており、国王やその都市の命でこの第二の街に来ている者も貴族と見做される。


 また、赤の貴族とは関係ないが、都市運営において十分な働きを見せた騎士や商人などは名誉貴族として貴族の仲間入りを果たすらしい。


 色々例が挙げられて若干混乱したが、この第二の街には貴族街と言われる貴族層だけが暮らす区域があり、基本的にはそこに住んでいる住人が貴族であると思っていいらしい。……それは流石にざっくりし過ぎだと思う。


「基本的にこの街は自治代表員を中心とした都市運営議会で成り立っていますが、その議会員の殆どが貴族となっています。故に貴族院と呼ばれたりしているんですが……まぁ、その点は関係ないので省略しますね」


 そしてリチャードは先程口にした『白金爵』についての説明をし始める。


 どうやらこの国の貴族にもちゃんとした爵位というものがあるようだが、俺たちがよく知る伯爵とか公爵みたいな爵位ではなく、貴金属や宝石の名前を元にした爵位が使われているようだ。


 その爵位は上から『金剛ダイヤモンド爵』『白金プラチナ爵』『黄金ゴールド爵』『白銀シルバー爵』『青銅ブロンズ爵』『黒鉄アイアン爵』の6つになる。


 赤の貴族の末裔で自治代表を排出する家々は主に『白金爵』か『黄金爵』らしく、デカルトさんは白金爵の爵位を持つ貴族らしい。


 基本的に『白金爵』のみだったのだが、自治代表員には都市運営法で定められた定数が存在し、必ずその数は存在しなければならないらしく、結果として黄金爵まで入るようになったのだという。


 その末裔の分家や親戚は『黄金爵』や『白銀爵』の場合が多いらしい。基本的に分家なので本元よりは下の爵位ということになるようだ。ハルトマン自身はデカルト白金爵の弟になるので『黄金爵』のようだ。


 名誉貴族はこの中では一番位が低い『黒鉄爵』となる。その点は現実世界の爵位でも同じだろう。成り上がりが最初から偉くては色々困るのだろう。


 一応、成果次第で『青銅爵』や『白銀爵』になることはできるが、この第二の街ではそれより上に上がることはできない。何故なら、それより上になるには血筋が必要だからである。


 因みに他所から来た貴族はその場所での爵位のままであるが、第二の街においては准貴族という扱いになり、都市運営に直接関われないらしい。実はリチャードも他所から来た青銅爵の貴族らしく、その為に都市運営に関わりのない司法ギルドの職員をやっているのだとか。


 それでいうと、メリッサは白金爵の令嬢で、ハルトマンは黄金爵の主となる。基本的にその家の者は同じ貴族階級として扱われるため、メリッサの場合、たとえ令嬢だとしてもその身分としてはハルトマンより上となる。まぁ、未成年の場合はどの世界でも子供扱いとなるようで、普通はそう捉えられることはあまりないようだが。


「だからこそ、今回の事件は少し厄介になるわけですよ。なんせ、白金爵家のお取り潰しになるかもしれないんですからね……」

「その言い方だと、そのデカルトさんが勝つのは厳しそうなのか?」


 難しそうな顔をするリチャードにレンは正直な疑問をぶつける。


 その言葉を聞いてリチャードは周囲に聞き耳を立てているものが居ないかどうかを確認する。


 俺も【観察眼】で周囲を見て、誰も居ないことを確認し、リチャードの言葉を待った。


「誰も居ませんね。……今回の事件はデカルト氏があちら側の不正の濡れ衣を着せられた形だと判断しています。ただ、肝心のデカルト氏が騎士団での尋問の際に犯行を認めてしまった上に、向こう側が用意した証拠がそれを裏付けるものだったので、正直厳しいものかと」


 どうやらかなりの証拠を向こうに握りつぶされているようだ。これは俺たちが居てもあまり変わらなかったのかもしれないな。


「そもそも今回、メリッサ嬢が戻っていなければ裁判自体が無かったんですからね。その点は皆さんには感謝してもしきれませんよ。まぁ、当の本人に発言が許可されるかは……場の流れに左右されるでしょうが」


 どうやら、メリッサが裁判の重要人物というのは本当のことだったようだ。だからハルトマンはあの手この手でメリッサが戻れないようにしたのだろうか。


 俺たちがあの依頼を受けてなかったら、この裁判そのものが無かったのかもしれないんだな……。


 しかし、未成年故に裁判で発言が認められない可能性もある為、油断はできないという。そこらへんはどうにかならなかったのかねぇ。現実でも発言くらいは許されていると思うんだが。まぁ、詳しくは知らないけどさ。


「まぁ、今回は皆さんのおかげで何とか弁論する機会を与えてもらいましたからね。何としても勝ちますよ」

「なんというか……かなり目の敵にしているんだな、ハルトマンのこと」

「まぁ彼というよりも保守派の貴族自体が嫌いなんですがね。都市運営に関わることがなくても、当然ながら顔を合わせる機会があるんですよ。その度にハルトマンや保守派の連中から余所者だと憎まれ口を叩かれるんですから……あぁ、思い出したら腹立ってきましたね」


 なんというか、貴族の世界って大変なんだな……。


 しかし、貴族の派閥か。リチャードの話だとデカルトさんは革新派と呼ばれる派閥に所属しており、その中でもそれなりに影響力のある人物だったらしい。それ故に狙われた、というのが今回の事件の根本のようだ。


 保守派と革新派――これらの派閥争いに巻き込まれ、命を失いかけたメリッサの事を思うと、早急に決着がつく事を祈るばかりだ。


 いや、祈るだけじゃダメだな。俺たちも何とか手助けできるといいんだが……。


「まぁ、皆さんは本当に部外者ですから、発言が全く認められないかもしれません。だから……」


 リチャードがふと俺に対して何かを耳打ちしてくる。それはこの裁判でのとある仕様の話だった。マジか、あれ言えるの?


 そんな話をしながら、俺たちはリチャードに連れられて参考人待合室に入ると、中には緊張に緊張を重ねた様子のメリッサと彼女にくっついているカリュアがいて、そこから少し離れた壁にアドミスが寄りかかって立っていた。


 メリッサたちに話しかけようとしたが、それと同時に裁判の時間となって移動を促される。その時、武器は法廷には持ち込めないと言われて回収された。まぁ、装備したものだけだけどな。


 取り敢えず、俺は不安そうなメリッサに向けてサムズアップポーズを取り、一緒に法廷へと歩いていく。


 さて、どうなることやら……。




 ――――――――――――

 そういえばここでは報告してませんでしたが、新作(VRMMOもの)を公開しています。まだ見てないって方は、作者の他の小説から是非見てみてください。

 よろしくお願いします!

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