赤い姿の従魔士
その後、試合開始準備に合わせて参加しているプレイヤーの転移が開始されることとなった。ここからは各々、別のフィールドでの戦いとなる。
それぞれ違う場所とはなるものの、互いに勝利を目指して頑張ろうとレンやシグねぇたちと誓い合ってから、俺も自身の挑むフィールドである第5フィールドへと転移することになる。
無論、ゼファーやミュア、グレイと一緒にだ。
そして、俺たちは第5フィールドのコロシアムに降り立つ。コロシアムとはいうものの、その大きさは俺がイメージしていたコロシアムの広さを遥かに凌駕している。
端から端まで結構な広さがある上に、端の方には崩れた柱などが乱雑に放置されており、そこに身を隠せるような障害物がある。ただ、攻撃なとで崩れてしまいそうではある。
そんなコロシアムの中心に転移していたプレイヤーたちは集まっていた。そこから外側に向かおうにもその周辺にある、見えない壁のようなものに阻まれて向こうには行けないようだった。
「なぁおい、あれって初期……」
「あぁ、あれだよな初心者の……」
俺が転移した直後、周囲のプレイヤーからは何やらこちらを見て色々言われているのだが、おそらくはこの装備のことを指しているんだろうな。
周りを見てみたが、ブロンズギルド防具の上のランクであるアイアンギルド防具を身に纏っているプレイヤーは何名かいるものの、初期装備のままのプレイヤーは一人もいない。
まぁ、俺も初期装備のガワだけで、中身はガッチガチのガチ装備な訳なんだが。
流石にβテスターらしいプレイヤーはこのくらいの進行度だとしっかりとした装備を身に着けている。変に奇を衒う必要はなかったかも知れないが、これで油断して防御を捨てて襲ってきたやつを一網打尽にできれば、御の字といえるだろう。
すると、他にいた赤い姿の、おそらくは従魔士であろう女性プレイヤーがふと緊張した面持ちで俺のもとに歩み寄ってくる。
まだ試合開始前なのでプレイヤー同士の交流は特に問題はない。問題ではないのだが、こういうときに好んでやってくる奴は、何かしらの情報を手に入れようとしているプレイヤーの可能性が高い。
その女性プレイヤーは真っ赤な長い髪をツインテールにしており、更に真っ赤なローブを身に纏っている10代後半から20代くらいであろう女性で、彼女の足元にはレッドホーンラビットやブルーホーンラビットの進化後であるファイアホーンラビットとウォーターホーンラビットがいて、肩には見たことのない小さく可愛らしいラビット系モンスターの姿があった。
「あ、あの! もしかして、あなたの頭の上のモンスターって……その、せ、精霊かしらっ!?」
そう、彼女が言うので「えっ」と口に出してしまったが、確かにゼファーは半透明ではなく普通に姿を表している。
ゼファーは確かに姿を隠していたのだが、転移と同時にその姿が顕になったのか、頭の上でキョロキョロしている。
もしかして、注目を浴びていたのはこっちもあったのか……?
そういえば確かにオルカが精霊の姿隠しはコロシアムでは無効化されると言っていたが、本当の情報だったんだな。しかし、オルカはどうやってその情報を調べたんだろうか……。
「わ、私はミラルカよ! まさかここで噂のNPCテイマー……いえ、精霊をテイムしているプレイヤーに出会えるなんて! ラッキーだったわ! よろしくね!」
「お、おう……。俺はユークだ。よろしく」
爛々とした表情でこちらに詰め寄るミラルカ。確かこの名前は掲示板で見たな……。βテスターの従魔士転向組だったか。
結構テンションが高めだが、彼女もなんと俺とほぼ同じ理由でイベントに参加したようだ。
従魔士でもやれるんだぞってところを見せつけてやろうという算段らしい。彼女がテイムした極稀出現のラビット系モンスターの『ラッキーラビット』が進化した姿である『スターダムラビット』と共に挑戦するということらしい。
「それで、その……ドライアドのカリュアちゃんは何処にいるのかしら?」
「カリュア? ……あぁ、カリュアは今回連れてきていないよ」
「ガーン! もしかしたら会えるって思ったのに!」
何やらガッカリさせてしまったようだが、本当に連れてきていないのだから仕方ない。
ただ、ミュアが特殊使役キャラという扱いなのは誰も気付いていないので、そうなると俺の従魔が
取り敢えずカリュアはまだレベリングが上手くできてないから連れてきていないと説明したので、納得してくれたようだ。まぁ、他にももう2体いるんだけどね従魔は。
ミュアに関しては特に偽装も何もしていないので、ちょっと豪華な装備を身に纏ったエルフ族プレイヤーみたいになっている。
もし、その装備に関して気付く者がいれば、彼女がプレイヤーではなくNPCであるということに気付くだろうが、ここにいるプレイヤーたちはみなバトルロイヤルに挑むためにギラついていて、特に気付く様子はなさそうだ。まぁ、そもそも居ると思ってないんだから、気づくわけもないか。
一応、ミュアには開始直後まではあまり話しかけずに、無関係を装おうと話をしていたので、別の方向を見つめている。おそらくどのような敵が居るのかを見ているのだろう。
「うーん、後でその精霊ちゃんとカリュアちゃんをじっくり見せてもらえるっていうのは出来るかしら?」
「そうだなぁ……メンテ後翌日とかなら問題ないかもしれないな」
「ホント!? ……じゃあ、水曜の夜とかならどうかしら? それなら私も仕事終わりでガッツリログインできるし」
「うん、一応は問題ないと思う。もしダメそうなら……そうだな、掲示板に書き込むよ」
「あら、それは助かるわ。そのまま掲示板に色々書き込んでくれてもいいのよ?」
それは検討しておく、とだけ答えてからミラルカとは別れることとなる。できるだけ従魔士同士で戦いたくはないので、別の方向に向かうつもりだ。
向こうも従魔士の力を見せびらかす為に従魔士以外を狙うのだろうから、こちらを狙うことはないだろう。
それに彼女の肩にいたスターダムラビットは可愛らしい見た目だが、どんな実力を秘めているのか分からない。
惜しむらくはそれを俺は見る機会がなさそうってところだな。リプレイ機能とかあれば良かったんだが。
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