俺たちのチーム

「さて、そういえば挨拶がまだだったよな? 俺はレンだ。宜しくな、ナサ。それとリリー」


 レンはリリーがリーサの友達だということは知っているが、まだナサが立川さんだということは知らない。後で教えることにしよう。


 ナサは相変わらずのガチガチ具合で挨拶を交わす。リリーも変わらず元気に返事をする。


「……えっと、私も自己紹介するのよね? 私はサザンカよ。みんなよりちょっとお姉さんって感じかしら。……まさか、大学生なのに高校生ばかりのチームに入ることになるなんて思ってもいなかったわ」

「あれ? サザンカさんって、大学生なんですか?」


 サザンカさんの呟きにリーサが反応する。


 まぁ大学生がプレイしててもおかしくはない。シグねぇだって大学生だからな。確か今は3年生だった筈だ。


「そうよ。歴史文化学を専門に勉強しているのだけど、まさかここであの彩紋さんに会えるとは思ってなかったから、本当にあの時に辞めなくてよかったわ。おかげで色々と学ぶことができたもの」


 あの時、とはゲーム初日に露天で商品を売っていた時のことだろう。俺に会わなかったら辞めてたと言ってたアレ。……とはいえ、あの時俺と会わなくても結局はサイモンさんとは出会えていただろうな。


「へー。なんか素敵ですね。いいなぁ……」


 リーサが何だかキラキラした眼差しで見つめている。まぁ、高校1年生である俺達にとっては大学生ってかなり大人に見えるもんな。分からなくもない。俺もシグねぇには尊敬しかない。


 その後、俺たちはしばし雑談を続けていたのだが、その最中にうっかりサザンカさんが自分が通っている大学の名前を漏らしてしまった。その結果、サザンカさんはシグねぇと同じ大学に通っていることが判明した。流石に言うのはやめておこう。βテスターのレンはシグねぇのことをゲーム内で知っているだろうが、リアルで知ってるのは俺くらいだから、変に混乱させるのは良くない。


 オマケにナサが対抗するというわけではないのだろうが、俺たちの高校の名前もサザンカさんに喋ってしまった。そして、その時の反応から、実はサザンカさんがうちの高校のOGだったということが明らかとなった。


 奇妙な縁の巡り合わせというものは、本当にあるものなんだなということを実感してしまった。


 しかしまぁ、サザンカさんとナサに関しては、うっかりで色々個人情報とか晒しそうで怖いな。ふたりともネット慣れしてなさそうだし。後でちゃんと教えなきゃマズイかな……。まぁ、今回は内輪なのでさほど問題はないだろう。


 それからしばらくはサザンカさんと先生などの話で盛り上がることとなる。サザンカさんはちょうど去年卒業したばかりだったようなので、だいたい知ってることは同じようなものであった。






「……さて、色々言わなくていいことまで喋り合ってしまったような気もするけど、せっかくチームメンバー候補が全員揃ってるんだから、ここでチーム結成でもしようか?」


 話がだいぶ明後日の方向に向かっていたので、話をチームについてに変えることにした。ホントは明日のエリアボス戦前にでも……と思ったのだが、タイミング的にちょうど良かったから今のうちにしてしまおうと思った。


 一応、ナサとリリーはメンバー候補ではあったのだが、他の3人の様子を見れば正式メンバーとしてみても問題ないことは確かだろう。


 その場にいる全員に確認したが、全員異論はないようだった。まぁ、ミュアやゼファー辺りは俺たちが何の話をしているのか、よく理解はしていないだろう。あくまでゲームシステムだから、こちらフロンティア側の存在には分からなくても仕方ないだろう。


 俺はメニュー画面のパーティー編成の項目の中から、『チーム結成』を選択する。


 すると、そこにフレンドからチームメンバーを選択するよう促されるので、この場に居るメンバーを選択する。因みに先程の雑談の間にフレンドコードを交換し合っているので、全員がフレンドとなっている。


 すると、俺以外の5人の目の前にも文字を写した画面が表示され、結成のための料金を支払うよう促される。一応確認はしていなかったが、全員1000FGは持っていたようで、問題なく支払いが完了する。


 そして、俺のもとにチーム名を決めるようにという説明が表示される。


「チーム名はどうしようか?」


 俺がそう問いかけると、レンは「お前に任せるぜ」と言い、リーサは「右に同じね」と告げる。


 サザンカさんは「ユークくんが決めた名前なら別に文句はないよ」と囁き、ナサは「……私もユークので大丈夫」と呟く。リリーは「お嬢様の意見に同意です!」と叫んでいた。


 成程、それならどうするか……。取り敢えず、ミュアに参考として聞こうとしたが「そういうのは自分の心の中に浮かんだものがいいと思いますよ」とアドバイスだけを口にしていた。


 そんなミュアの言葉を胸に、しばらく考えた末にふと頭に浮かんだ文字を手入力で書き記していく。くそっ、こういうときにキーボード入力ができると楽なんだがな。


 そしてその名前を送信すると、全員にその名前が表示された。それぞれ思うところはあるのかもしれないが、前言通り異存はなさそうだ。ミュアもニッコリ笑顔だ。ゼファーはよく分かってなさそう。


 そして、最終確認のボタンが表示される。なお、ここでキャンセルすれば、先程のお金は戻ってくる。


 俺は全員の目を見て確認する。5人とも俺の視線に重なると静かに頷く。それを確認した俺は、静かに『結成』のボタンを選択する。


 選択したからといって、特に何か演出が発生するということはなく、ただステータス画面に新たにチーム名を表示する欄、そしてメニューにチームの項目が表示されることとなる。




『チーム:オーバークラウン(6/6)』




 オーバークラウン、それが俺たちのチームの名前となる。名前の後ろはメンバー数だ。6人中6人登録済みということになる。


 名前の意味はまぁ、王冠を超えるってことで「目指せ、トップチーム」ってところかな。まぁ、あくまで俺が勝手に決めた目標だし、その場合越えなきゃいけない壁は幾つかあるだろうけどな。


 別にただかっこよさそうというだけで適当に決めたわけではない。断じてない。

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