イベント告知、そして……

 さて。チーム結成後、レンはナサに【簡易修復】のアビリティの習得条件を話す。といっても、その条件は砥石や修復剤などの耐久値回復アイテムを複数回使用することらしいので、レンは手持ちの修復剤をナサに渡していた。砥石は魔本の場合は使えないらしい。とにかく、耐久値が減った際にこれらのアイテムを使っていけば、自ずと習得可能になるとのことだった。


 ナサは試しに使おうとしたが、流石に耐久値が減っていないので使用はできなかったようで、皆から笑われてしまっていた。そんなナサであったが、満更でもなさそうだ。まぁ、今まではリリーくらいしか話し合える相手が居なかっただろうからな。


 そして俺はサザンカさんに新たに手に入れた装備を強化できないか見てもらったが、サザンカさん曰く強化自体は問題ないのだが、いずれの強化にも必要となる素材に見たことがないものがあるということだった。


 それを聞いてレンと手分けして掲示板等で調べた結果、それは第二エリアの開拓の村付近で入手可能となるアイテムであることが明らかとなった。まぁ、これらは性能的に第二エリア相当のものだから当然と言えば当然なのか。


 これらの武器を強化するためにも、少なくとも開拓の村までは進まなくてはならないようだ。まぁ、そこで一晩泊まって、翌朝に出発すれば昼頃には第二の街には到着できるらしいので、イベント前には余裕で第二の街には辿り着くことはできるだろう。


 取り敢えず、耐久値が危ない『磁器巨像の魔杖+』はサザンカさんに預けておくことにした。落ち着いたら修復してくれるとのことだった。


 そんな話の中、既に夜遅くにも関わらず運営がイベントの正式な内容についての告知を行っていた。先日のワールドアナウンスのように二人の子供のような声のAIが話していた。ただ、俺たちは室内だったのでよく聞こえず、結果として同時にメニューのお知らせに表示された内容を見ていた。


 そのイベントの内容は『バトルロイヤル』であり、約100人ごとに特定のバトルフィールドで区切り、その中で勝ち残ったプレイヤーがそのフィールドでの勝者となる。


 参加人数が多い程、勝者となるプレイヤーが多いということになるらしい。


 参加するために必要な条件は特にない。開催自体は第二エリアにある第二の街らしいが、当日はこのはじまりの街や鉱山の村、開拓の村などの市街地エリアから参加者ならびに観覧希望者は、転移の料金を支払ってコロシアム内に転移するという仕様らしい。


 なお、エリアボスを倒してない第二エリア未到達者や、到達者でもまだ第二の街に到着してないプレイヤーは、今回の転移では第二エリアや第二の街に到達した扱いにはならないため、コロシアム外に出ることはできないこととなっているようだ。


 既に第二の街に到着しているプレイヤーからはコロシアムからの景色は格別だという話も出ているので、それ目当てで観覧を希望するプレイヤーも多いのではないだろうか。


 因みに既に第二の街にいるプレイヤーは転移する必要がないために料金がかからず、また優先的にグループ分けを行うとのことだった。


 報酬は結構豪華で、参加するだけでも効果付きのイベント称号とメンテナンス後に実装されるアイテム『経験の雫』が3つと『ステータスオーブ』が6つ与えられる。


 『経験の雫』は一つでチュートリアルイベント中にレベル10まで上がるための経験値量が得られるようになっており、レベル30以上だと流石にレベルが上がることはないだろうが、レベル20辺りならレベルが1ぐらいは上がるのではないだろうか。正確なレベルアップに必要な経験値量は覚えてないので分からないが。


 また『ステータスオーブ』についても説明されており、これは特定のステータス値をそのアイテムで設定された数値の分だけ増やすことができるアイテムで、一応ステータスポイントで上げたステータス値と同じ扱いになるらしい。


 今回のイベント報酬で貰えるものは、パラメーターステータスのいずれか一つを選んで、その数値を10増やすことが可能となる『ステータスオーブ・パラメーター10』だ。


 全体で10ずつ増やしてもいいし、1つのパラメーターステータスを60増やすのもいいだろう。


 たった10かと思うかもしれないが、本来ならレベル2つ分のステータスポイントで上げられる数値なので結構大きかったりする。


 それが6つなのだから、これは参加者とそうでないものとで結構ステータスの差が出そうだな。


 そして各グループの優勝者は、専用のイベント称号と経験の雫が5つ、上がるステータス値が20になった『ステータスオーブ・パラメーター20』が6つ、更に現在の経験値量に関わらずパーソナルレベルを一つ上げることができるアイテム『経験の水晶』を一つと、アビリティポイントが追加で10ポイント貰えると、結構な大盤振る舞いだ。


 まぁ、100人中のたった1人だと考えるとそれくらいは問題ないのかもしれないな。中でもアビリティポイントが10ポイントも貰えるのは結構でかい。それで中級技能がポンと習得できるからな。


 因みにイベント時の諸々の制限だが、レベルは第一エリアでのカンストレベルであるレベル30までを上限に設定され、それ以上のレベルのプレイヤーはレベル30まで引き下げるということであった。


 尤も、レベル30以降は要求する経験値量がそれまでの比ではないらしいので、まだ報告が上がってるだけでもレベル33が最大であり、ステータスが下がりすぎて大変という問題はないだろう。勿論、報告してないだけでそれ以上のプレイヤーも居るのだろうが、それでもそこまで離れてはいないだろう。


 ステータス関連で制限されるのはレベルによるステータス値だけで、レベル31以降で獲得したステータスポイントで上げたステータスや、アビリティポイントで獲得したアビリティなどは変更なしとなる。そして装備はそのまま使える状態となっている。


 ただし、アイテムはランク☆4までのものが持ち込み可能で、内訳としては回復・強化アイテムが種類問わず合わせて10個、矢はスタック(ストレージでのアイテムの表示欄。最大で99個となる)が3つ分、一部のジョブで必要となる素材系のアイテムは種類問わず合わせてスタックが5つ分、つまり最大で5種類までまで持ち込み可能となっている。回復・強化アイテムも通常はスタック表示となっているが、このイベント中は1個で1スタック利用する形になっている。


 他には一部のジョブに関する制限なども書いてあり、俺に関連する従魔士系のジョブでは、【連れ歩き+】や【召喚数】のレベルに関わらず、このイベント中は基本となる3体までしか従魔などの使役モンスターを連れてくることができないようになっている。まぁ勝ち残り戦で数の暴力をされたらたまったものではないか。俺の場合、ゼファー、ミュア、グレイの3体しか従魔・使役キャラは居ないので全く問題はない。


 本サービス以降、βテスト時代からのガタゴロウさんのブログの影響もあって、召喚士系の派生ジョブも含めれば着実に数が伸びているらしい従魔士系統。ただし従魔士そのものは、未だに自己のステータスがジョブ特性で全く上がらないことを取り上げられて『不遇職』と言われている。俺が従魔士を不遇職と呼ばせなくしてやる! ……とは言えないものの、いつか不遇と呼ばれなくなる日が来るのを心待ちにしている。


「……取り敢えず、イベントは俺とユークは参加しようってことになったが、他のメンバーはどうだ?」

「私はパスね。多人数とかすぐにMP切れて動けなくなりそうだし。そもそもそんなに戦闘好きなわけじゃないしね」

「私もそういうイベントは……まだ怖いかな。それに日曜はリアルの方で用事があるから、観覧もできないかな」

「……私はその日はピアノの中間発表会があるから、私も無理……」

「お嬢様の付き添いなので右に同じくです」


 俺たちのチームだが、当日は半分がログインすらできないようだった。まぁ仕方ない、所詮はゲームだ。リアルを優先するのは当然のことだ。


 とはいえ、応援してくれるのがリーサとフィーネだけっていうのは少し悲しいな。サザンカさんたちにも応援してほしかった。


 取り敢えず、イベント参加までに俺とレンはレベル上げをしつつ、新たなアビリティを確保することを目標にすることとなった。


 まぁそのためには、まずは第二エリアの到達が必要になるだろう。取り敢えず明日は、俺はシグねぇから紹介してもらう生産職プレイヤーと会うことになるので、第二エリアへの挑戦自体は昼前か昼過ぎ辺りになるだろう。


「取り敢えず、今日はここで解散かな。結構いい時間になってるしな」


 レンがそう呟くとそれぞれ右上の方を向く。その方向に時間が表記されているのだ。


 おっと、もう11時近くか。俺が再度ログインしたのが7時前だったから4時間か。うちナサのレベリングや錬金術の生産が2時間程度だったので、1時間近く喋ってたんだな俺たち。


 取り敢えず、部屋のレンタル時間はまだあったもののここで解散という流れになった。因みにこういう部屋でログアウトした場合は普通に噴水の前でログインという形になる。


 俺はみんなに何時頃来れるのか確認し、大体が10時頃だったのでそれくらいの時間に集合してエリアボスに挑戦することとなった。シグねぇとはそれより前に会えばいいだろう。一応、9時頃と言われていたから問題はないかな。


 そして、俺はみんながログアウトするのを見届けてから部屋を後にする。同時ログアウトできるグレイはともかく、流石にミュアを部屋に放置してログアウトするのはあんまりだろう。


 明日には旅立つこととなるから、その前に世話になったNPC辺りには挨拶に行っておくことにしていたのだがだいぶ遅くなってしまった。可能なら、ミュアとゼファーは孤児院のみんなと一緒に寝てもらうことにしよう。


 流石に先程会ったイアンは既に店を閉めていたが、セドリックには会うことができた。たった一回しか会話してないが、当然ながら俺のことは覚えていたらしい。随分と装備が変わっていたので、かなり成長したんだなと褒めてもらった。NPCながら、この世界で最初に関わったヒトなので褒められると素直に嬉しい。


 そして、そのまま鉱山の村の異種族孤児院に向かうと、中でケイリスやエミナが出迎えてくれた。もう夜もだいぶ遅いというのに、よく起きてたなエミナ。


 聞くと、ケイルが明日旅立つということを知らされたときに、おそらく俺も挨拶に来るだろうと言われて、頑張って起きていたらしい。可愛らしい心遣いじゃないか、ありがとう。


「お兄ちゃん、お姉さん、精霊さんと……ワンちゃん? その、また来てくれるよね?」

「そうだな。ケイルもたまには帰ってくるって言ってただろうし、俺も色々やりたいことがまだこっちにもあるから、その時に顔を出すよ」


 戻ろうと思えば、すぐにでも戻れるしな。……有料で。


 やりたいことといえば鉱山ダンジョン、アレは完全制覇してやると心に決めている。いつになるかは分からないけどな。


 取り敢えず、エミナのことはひとまずミュアやゼファーに任せることにしよう。あと、グレイはワンちゃんではないからな、エミナ?


 その後、俺までケイリスの計らいで寝床を貸してもらえることとなったので、子供たちと一緒……というわけには流石にいかないが、夕方と同様に布団の中でログアウトすることとなった。




 ログアウト後、俺は久々に湯船にお湯を溜めてから風呂に入った。流石に今日はかなり多くの出来事があったからなぁ……。


 ゼファーの進化、グレイのテイム、ケイルの精霊、サザンカさんのジョブチェンジ、シグねぇたちとのダンジョン挑戦、キャンティとヨハネスとの出会い、ナサとリリーとの出会いにユニークジョブ、そしてチーム結成……。


 ログアウト時に感覚がぼやけるため、そこまで劇的な疲労感というものはないのだが、それでもこの量は現実ならば普通にグロッキー状態になってるだろう。流石はフルダイブVRである。現実ではできないことをやってのける。


 しかし、ここまで濃厚な一日っていうのも……そんなに悪くはないな。あぁ、明日はどうなるのか……楽しみだな!

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