ゼファーの想い

 ――鉱山の村


 エリア遷移が終わり、目の前には活気溢れる小さな村が広がっていた。


 規模的にははじまりの街の3分の1程度だろうか。アチラコチラで煙が上がっており、鍛冶の村でもあるようだ。


 色々見て回りたさそうなリーサだったが、時間がいよいよ怪しい状態になったので翌日改めて見て回ることにしたようだ。


 そのままリーサとレンはログアウトする運びとなった。俺の場合、夕方に軽く飯を食ったため、まだログアウトしなくても大丈夫だ。


「取り敢えず、どういう施設があるのかどうか見て回っておくか?」


 ゼファーは俺の肩から離れなかったが、姿は消している。よほどあのダメージが印象に残ったようで、かなり大人しくなってしまっていた。


 とはいえ、目の前に広がる異様な光景には興味津々のようであったが。


〔なあなあ、相棒〕


 するとゼファーが習得したばかりのジョブアビリティ【テレパス】を利用して、思考を飛ばしてくる。これは喋らなくても意思疎通ができるという効果を持つ。


 本来は喋ることのできないモンスターが従魔士に対して自らの意思を伝えるためのアビリティなのだが、喋ることのできるゼファーの場合は、こうして姿を隠しながら会話をするときに利用することにしたようだ。


 まぁ虚空から声が聞こえて、それに会話しているというのは、周りからすれば異様な光景でしかないので俺にとってもありがたいことではあった。


〔どうした、ゼファー?〕

〔おいら、もっと強くなれるかな?〕


 ……はい?


 急に深刻な悩みみたいな感じでカミングアウトされても対応に困る。


 というか、ぶっちゃけゼファーは今のままでもかなり強い方なのだが、本人的にはまだまだだということらしい。さっきの精霊術なんて、とてつもない威力だったのだが。


 まぁ確かに前もスキルの使用する前に攻撃を受けそうになってたから、そういった点では注意力散漫ではあるんだが……。


 だが、それはゼファーの個性であって決して弱点ではないと俺は思っている。そういった点をサポートするのは……従魔士である俺の役目だ。


〔それを言うなら俺も全然弱いからなぁ。一緒に切磋琢磨していくしかないさ。まだまだレベルも低いんだし、可能性は幾らでもある。俺たちが強くなれると思えば幾らでも強くなれるさ〕

〔……そうかなぁ〕

〔そういうもんさ〕


 ちゃんとした答えにはなってないだろうが、だとしても言っていることはきっと間違っていないはずだ。強くなれると思わなければ、いつまでも強くなれない。


 だからこそ、そんなクソみたいな悩みは捨ててしまえゼファー。お前とはまだ半日程度の付き合いだが、馴れ馴れしいほど明るい方がお前にはよく似合うよ。


〔…………〕


 俺もちょっと感傷的になってしまったみたいだ。色々見て回ろうと思ったが、今日は休むことにしよう。


 ゼファーも居るし、取り敢えず村の宿屋を利用することにする。HPもMPも結構減ってたからな。料金は何とか支払うことができた。


 部屋に着くと、ゼファーは姿を表す。さっきまでのナイーブさはどこへ行ったのか、妙に機嫌が良かった。……【テレパス】は別に考えてることが筒抜けになる筈ではないが、はて。


 まぁ、いいか。取り敢えずゼファーにログアウトすることを告げてから宿屋のベッドに横になる。安い宿にしてはふわっふわで、これは気持ちよく眠れそうだ……。


 ログアウト後、晩御飯を作って食べた俺は、残っていた課題を少しだけ進めてからシャワーを浴びて寝た。


 楽しかったな、アルターテイルズ。明日はもっとも楽しめそうだ。


 ……うん、今日はいい夢が見れそうだ。

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