契約

 それから何時間経っただろうか。


 トライアンドエラーで何度も挑戦していたが、中々ゼファーの元にたどり着けない。仮に近づけても、ゼファーがいたずらで風を起こすため、うっかり滑り落ちて最初からになったりする。


 そういう妨害ありかよと思いながらも、何回も挑戦する。幸いにも俺の失敗する様が面白かったのか、今のところ飽きられている様子はない。


 そしてもう何回目なのか忘れた挑戦。


「よし、行くぞ」


 最初の連続ジャンプで浮島を渡っていくアスレチックは、流石に何回も落ちたのでコツはつかんだ。今では余裕でクリアすることができる。


 次にターザンロープの要領でタイミングよく手を離して向こう側へと飛び越えるやつ。コレはもはや度胸の問題なので、かなりアスレチック・ハイになっている今の俺には何も怖いことはない。もちろんクリアだ。


 お次は蔦でできたネットを登っていくというものだが、ネットがぐるんと一巡して輪っかのようになっているため、早く進まないとネットが下がって下の水に落ちてしまう。幸いにも回転速度は遅いので普通に登れば辿り着けるが、蔦に足が絡まりやすいので気をつけて登る。やや引っかかりかけたが、なんとかクリア。


「ここからが問題なんだよなぁ……」


 後のアスレチックは2つなのだが、何が問題なのかというと、ここからゼファーが妨害してくるのだ。


 一つは平均台のように細長い道を進むのだが、ゼファーが風を巻き起こして突風を吹き付けてくる。その突風の中にゴミらしきものが混じっているため、風だけでなく障害物も耐えなくてはならない。


 そしてもう一つは、頭上高く吊るされたロープをただひたすら登っていくというものだが、こちらの場合はもたもたしてるとゼファーが風の刃を飛ばしてくるので、切られてゲームオーバーだ。


 前に頂上ギリギリまで行ったところでスタミナ切れになり、ロープを切られて落っこちた時は、割と諦めようかと思ったレベルだった。


 その時はゼファーに断って、一時的にログアウトさせてもらった。因みにダンジョンやフィールドエリアでログアウトすると、アバターはそのまま残るので、モンスターが居そうなところでログアウトしてしまうと、気付いたら死に戻りしていたなんてことが起こりかねない。


 取り敢えず、今回は息を整えて一気に駆け抜けていこう。勢いよく駆け出したが、やはり横からの突風はきつい。うっかり宙に足を踏み込みそうになる。


 そして障害物となるゴミのようなものが飛んでくるが、それには杖を取り出して対処する。いざというときはバランスも取れるので一石二鳥だ。


 横から飛んでくる物を杖術アーツの『横薙ぎ』でふっ飛ばす。アーツ中の硬直を利用して反動を減らす作戦がうまく行ったので、取り敢えずはこれがこの場所に対する俺の攻略法だった。


 道を抜けた先にロープを見つけ、俺はロープを登っていく。かなり掌が痛いが、なんとか登り続けていく。そんなとき、ゼファーが俺の近くに現れる。妨害用の風の刃を飛ばしに来たんだろう。


 このままではさっきまでと同じで、ロープを切られて終わりだ。だが、そこであることを試してみることにした。


 ゼファーが風の刃を飛ばそうとした瞬間、俺はロープの奥にある壁を蹴りつけ、ゼファーの方へと飛びかかる。


「!?」


 ゼファーは突然のことで面を食らったようで、風の刃を使うのをやめてしまう。そして俺はそのままゼファーを掴むと、真っ逆さまに下へと落ちていく。


 位置的に水がないため、落ちたら死に戻り確定だろう。しかし、そんな俺の覚悟とは裏腹に、俺の体はみるみる上へと上がっていく。どうやら風に包まれているようだ。


「まったく、すごい無茶をする来訪者がいたもんだ」


 気付けばロープの頂上、ゼファーがそもそも待ち構えていたゴールの場所に立っていた。


 ゼファーは俺が抱えていた状態から再び飛び上がり、そして顔の前に浮かび上がる。


「さて、来訪者。おめでとう、お前さんはおいらを楽しませてくれた。ここまで楽しんでおいらのゲームをやってくれたやつはお前で二人目だ。だから、約束通り契約してやる。どうやらお前は従魔の力を持ってるな。なら、今日からおいらがお前の従魔になってやるよ、相棒!」


 そう告げると、ゼファーは俺の額に掌を重ねる。意識の中にゼファーの力が、流れ込んでくるような、そんな不思議な感覚が、走り去っていく。


 頭の中に何をすべきなのかが入り込んでくる。


 咄嗟に思い浮かんだ言葉が、自然と口の中から言解ことほぐされていく。


「――『テイミング』」


 俺とゼファーの周囲を白い光が包み込み、その瞬間、俺のステータスに従魔の欄が増えることとなった。


〈経験値を獲得しました。レベルが1上がりました。アビリティポイントとステータスポイントが付与されました〉

〈精霊との繋がりにより、特別アビリティ【精霊術】を習得しました〉

〈称号【精霊の守護者】【精霊王の加護】を獲得しました〉

〈ユニークジョブ『精霊使いエレメントテイマー』『精霊術士エレメントスペラー』の習得条件を満たしました〉




〈パーソナルレベルが10になったので、得意武器の変更と初期ステータスの割り振りの機能が凍結されました。また、ジョブの選択を行うため、『神々の洗礼』を行います〉

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